【金属材料】いまさら聞けない!?金属材料の強化機構に関するやさしい解説

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はじめに

身近なところに金属材料は溢れています。ところで金属材料とって具体的にどんな材料を思い浮かべますか?
鉄、アルミニウム、金、銀、銅、チタン、マグネシウム等々。
自動車、建築物、機械構造部品、電子部品、食器などなど、何に使うかによって当然ながら求められる性質も違います。
性質とは、強さ、硬さ、錆びにくさ、電気の通しやすさ、熱の通しやすさといったものです。
機械的性質、化学的性質、電気的性質、熱的性質などと言ったりもします。
この記事ではそれらの性質の中でも特に「機械的性質」と関連の深い「強化機構」に関する基本をまとめていきます。
金属材料の強化機構は鉄をベースとした鉄鋼材料に限らず、アルミニウム合金、銅合金、チタン合金、マグネシウム合金といったあらゆる金属材料に共通した基本原理ですので汎用性の高い知識として活用できます。

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  • 金属材料の初学者
  • 金属材料が専門ではないが、機械設計などの業務において材料に関する知識を補充したい方
  • 金属材料が専門であるものの、基礎を忘れてしまって思い出したい方

さらっと簡単に読める記事ですので、さらっと読んで金属材料の強化機構についてバッチリ知識を蓄えましょう。
極力難しい用語は避けておりますのでご安心を!

この記事で何を学ぶか、下のマインドマップで概観しましょう。
全てのキーワードの説明をこの記事中で詳述するわけではありませんが、概ねこれらのキーワードを押さえておくと理解が進む程度に捉えて下さい。

金属材料の予備知識-強化機構の各論に入る前に-

結晶構造について

ご存知の通り、金属材料に限らずあらゆる物質や私たちの体のような生体も含め、原子からできています。
その原子が規則的(周期的)に並んだ状態が結晶となります。
BCC(Body Centered Cubic:体心立法構造)、FCC(Face Centered Cubic:面心立法構造)、HCP(Hexagonal close packing:六方最密充填構造)などはおなじみでしょう。
ここでは、細かい結晶構造の話には触れません。触れずとも強化機構は十分理解できますのでご安心を。

金属材料はその殆どが原子配列が規則的な結晶構造を有します
珍しいものはアモルファス(非晶質)といって原子配列がランダムなものや、準結晶といって原子配列に一定の規則性はあるものの周期性がない材料も存在します。
この記事ではそれらのような特殊な材料は取りあえずおいておいて、結晶構造を有する一般的な金属材料についての基礎理論を取り扱います。

金属材料が結晶構造を有することを押さえたら、ついでに押さえておきたいワードがあります。
結晶粒」と「結晶粒界」です。結晶粒と結晶粒界は金属の組織を見るとその存在をうかがい知ることができます。全ての金属材料には顔があります。人間にも顔があり、顔で誰かが識別できるように金属材料にもそんなものがあります。
それを組織や金属組織(metal texture, metallic structure, metallographic structureなど)と呼んでいます。
詳しくは触れませんが、金属をピカピカに磨いてエッチングという化学的処理を行うと、その組織を見ることができます。
結晶粒とは、規則正しい原子配列を呈した領域の一まとまりです。多くの金属材料は多結晶体ですから、単一の材料を構成していてもその中に多くの結晶粒を含んでいます。
結晶粒は一つ一つ違った方向を向いています。これを「結晶方位」と呼びます。
ちょっと分かりづらいかもしれませんが、イメージとしてはサイコロの1の面が上を向いているか、2の面が上を向いているかといった違いという程度の認識で大丈夫です。その結晶方位が異なる結晶粒と結晶粒の境目が「結晶粒界」となります。結晶粒界では原子配列が不連続となります

結晶構造に関する基礎知識の解説はこの辺にして置きますが、まとめると以下のようになります。

【金属材料の組織の基本】

  • 一般的な金属材料 :結晶の粒の集合体(多結晶体)
  • 結晶粒内の原子の並び :規則的
  • 結晶粒界 :結晶粒と結晶粒の境目(原子配列が不連続)

転位について

金属材料の専門用語に「転位」(てんい)というものがあります。ガンが転移するなどの「転移」とは異なる字ですので注意してください。
転位のことを英語ではdislocationといいます。

転位とは「結晶中の原子の並びが不規則な箇所」のことを指し、欠陥として扱います。
欠陥ですから、材料として不完全な要素というニュアンスになります。
イメージとしては下記の模式図のように表現できます。

金属材料の変形は、弾性変形と塑性変形(永久変形)の2段階の変形形態をとります。
力がある限度より小さい場合は、力を取り去ると完全に元の形に戻ります。輪ゴムを引っ張って力を抜いた時に元の長さに戻るイメージです。
いわばバネが効いた状態とも言えます。この範囲での変形を弾性変形といいます。
一方、力がある限度を超えて金属が変形すると、力を除去しても元の形に回復しなくなる変形形態となります。
この変形を塑性変形といいます。金属の塑性変形は、特定の結晶面を境にして原子がすべることによって起こります。このすべりは、結晶面全体にわたって一度に起こるのではなく、転位(線状の格子欠陥)が動くことによって生じます。
つまり、転位とは特定の結晶面における原子のすべり(移動)ということができますね。
金属中には元々多少なりの転位が含まれていますが、外力により転位が移動しそのズレが大きくなります。
次第に外観上目に見えるレベルの変形になるというイメージです。
それを模式的に表すと下図のようになります。

金属内には転位が無数に存在しますが、外力に対して一様に全ての転位が移動するという訳ではなく、構造的に不安定な転位から優先的に移動します。
ここまでが、転位は金属中の原子のズレであるということと、外力によって転位が移動・蓄積して変形につながるという話です。
この基礎知識を踏まえたうえで後述する強化機構を考えていきましょう。

金属材料の各強化機構

金属材料をより強く方法というのは古典的な方法から、最新技術による方法など様々な手法があります。
しかし、そのメカニズムそのものは以下に挙げる4つの機構でおおむね説明ができると考えて差し支えありません。
裏を返せば、それら4つの機構のうちいずれか、あるいは複合的に実現できるプロセスを実行できれば金属材料を強化することにつながります。
日夜研究開発されている低コスト、低エネルギー、低環境負荷で金属材料を強化するための合金設計や加工熱処理プロセスも、後述する強化機構の実現のためと考えると金属材料への理解が一層進むでしょう。

各論の説明に入る前に、金属の強化における基本指針を挙げます。

【強化(硬化)の基本指針】

いかに転位の移動を阻害(邪魔)するか

一言で言ってしまえば、これに尽きます。小難しい理論や複雑なプロセスを想像し身構えていた方は安心してください。
転位の移動の阻害」。このキーワードを忘れずに、理解を深めていきましょう。
この基本指針をベースに簡単に4つの強化機構における転位運動阻害要因をまとめると下記のようになります。

各強化機構における転位運動阻害要因
強化機構名
転位運動阻害要因
固溶強化 原子配列のひずみ
析出強化 析出物
(金属間化合物などの硬質粒子)
加工硬化
(転位強化)
転位そのもの
(転位の増殖)
結晶粒の微細化 結晶粒界

強化機構について大まかに捉えたら次は各論に入りましょう。

固溶強化(Solid Solution Hardening)

原子配列の整った結晶構造を有する固体金属中に元の金属とは異なる元素が混ざることで原子配列が乱れ、ひずみが生じます。
このひずみは、金属材料内部での転位運動を阻害します
転位運動が阻害されるということは、外力による変形への抵抗力が高まり、結果的に材料が強化(硬化)します。これを固溶強化(Solid Solution Hardening)といいます。
ちなみに、日本語では固溶”強化”や固溶”硬化”などと表現されますが、基本的には同一の意味と捉えて差し支えありません。(厳密には材料用語として「強い」と「硬い」は異なる概念ですが、ここではあまり気にしなくてOKです)
また、固溶という言葉は金属材料を専門としない方からすると聞きなれないかもしれませんが、漢字で表現されている通り「“固”体状態で”溶”けること」を意味します。
一般的に”溶ける”というと、「融点に達して液化して溶ける」または「塩などの固体が水などの液体に混ざり溶ける」ことをイメージします。
しかし「固溶は固体同士が固体のまま混ざり合う」ということになりますので、そのような意味であると覚えておきましょう。

固溶には2つの形態があります。「侵入型」と「置換型」の2種類です。

  • 侵入型固溶:ベースとなる金属原子より小さい他の原子がベース金属原子の間に入り込み原子配列のひずみを生じさせる
  • 置換型固溶:ベースとなる金属原子に近いサイズの他の原子がベース金属原子の位置に置き換わり(置換)、原子配列のひずみを生じさせる

いずれの固溶形態においても、転位運動を車の走行に例えると、道路が悪路で走行しづらいというイメージとして捉えるとわかりやすいです。
図示すると下図のようになります。

具体例として、鉄鋼材料における侵入型固溶強化の特徴を挙げます。

  • Fe(鉄)に対する侵入元素はH(水素), O(酸素), C(炭素),N(窒素), B(ホウ素)などに限定される
  • 一般的には侵入型の方がひずみ量が大きいとされており、鉄鋼材料では、炭素およびホウ素の利用が多い

析出強化(Precipitation Hardening)

析出強化は結晶の中に微細な粒子(金属間化合物)を析出させて、転位の動きを抑制する強化方法です。粒子分散強化などと言ったりもします。
一般的には、熱処理プロセスである「溶体化処理+時効処理」を行い、時効析出(時効硬化)により材料を強化します。
時効処理により時効硬化が起こり強化(硬化)します。硬化の程度は時効処理の温度や時間によりますが、最高硬度に達するまでの時効を「亜時効」、硬度低下がみられる時効を「過時効」と呼びます。
その他、析出強化に関連する専門用語として、GPゾーン、Θ’相、Θ相、粒子せん断機構、オロワン機構などがあります。このあたりの解説については、専門書に譲ります。
ここでは、析出強化のための熱処理における実務について以下の点を押さえておけば十分です。

  • 溶体化が不十分だと十分な時効硬化が得られない
  • 時効処理条件(温度・時間など)が不適切だと十分な時効硬化が得られない

析出強化のイメージは下図のようになります。

析出強化は、アルミニウム合金、銅合金、ステンレス鋼などで行われることが多いです。
どんな金属や合金でも析出強化できるというわけではなく、析出強化に見合った合金設計(第2元素、第3元素の調整)を行います。
鋳物(鋳造により作られる材料)や展伸材(鍛造や圧延などの塑性加工で作られる材料)など多様な材料で使われる強化機構ですのでぜひ理解を深めておきましょう。

加工硬化(Work Hardening)

加工硬化はひずみ硬化、または転位硬化とも呼ばれます。金属に力を加え(ひずみを与え)て、塑性変形(永久変形)させて硬くする方法です。
変形量が増加するほど転位の数(転位密度)も増加し、転位同士がお互いに運動を阻害し、硬くなります。

加工硬化による転位密度の増加を車の走行に例えると、車自体の数が多くなり交通渋滞を起こしているようなイメージとなります。

加工硬化の具体例と特徴をまとめると以下のようになります。

  • 圧延鋼板やプレス製品は加工硬化により強化される
  • 転位は焼きなまし処理により、その数が減る
  • 焼きなまし処理により材料は軟化する

一般的に、焼きなまし処理は金属を軟化させる(軟らかくする)処理として認識されていますが、加熱により転位密度が減少して交通渋滞が緩和されるため軟化すると考えると納得ですね。

結晶粒の微細化(Grain refining)

結晶粒の微細化は、結晶粒サイズを小さくすることで強度を上げる手法です。
金属は一般的に多結晶体であり、各結晶間に結晶粒界が存在します。
結晶粒界を境に結晶の向き(結晶方位)が変わり、結晶粒界を横切ろうとする転位の動きを阻害します。
結晶粒径を小さく(微細化)することで、結晶粒界の割合を増やし、転位運動の障害物を増やすことで強化されるというメカニズムです。

結晶粒の微細化を模式的にイメージすると下図のようになります。

結晶粒微細化の特徴や実用例は以下の通りです。

  • 一般的にホールペッチ則に従い、降伏応力σyが増加する
  •  (ky:結晶粒界の抵抗力の係数、d:結晶粒径、σ0:内部応力)

  • 強加工によるひずみ導入+熱処理、焼入れ-焼戻しなどにより微細化を行う
  • 鋳物(鋳造材料)の鋳湯処理としての微細化剤添加による組織改質

各論についてのまとめは以上です。

マルテンサイト変態について(応用編)

金属材料や機械加工などに携わったことのある方、大学などで少しでも勉強された方は「マルテンサイト変態/組織」という言葉を聞いたことくらいはあるでしょう。
また、「マルテンサイト変態=硬い」といったイメージの方も多いはず。
鉄鋼材料のマルテンサイトにつて簡単にまとめるとこんな感じ。

  • 処理方法:
  • ①鉄鋼材料を加熱してオーステナイト組織にする
     ※オーステナイト域に加熱することで、結晶構造がFCC(面心立方格子)となり鉄原子中に多くの炭素原子を含むことができる
    ②急冷(急速冷却)により「焼入れ」を行う
     ※急冷の際は、水または油を用いる(水焼入れ、油焼入れなどと呼ぶ)

  • 特徴:
  •  ①原子の拡散を伴わない無拡散変態
     ②鉄鋼材料の場合、炭素量が多いほど硬くなる傾向
     ③CrやVなどの合金元素の添加で焼入れ性が向上し、冷却速度が遅くても焼きが入りやい(マルテンサイト変態しやすい)
     ④浸炭焼入れ、高周波焼き入れなどを行うと、表面だけ硬化させることができる
     ⑤焼入れにより結晶構造が変化(オーステナイトの面心立方格子(FCC)からマルテンサイトの体心立方格子(BCC))し、膨張することで寸法変化や割れを生じる恐れがある

まだまだありますが、代表的なところはこんな感じです。

なぜこの記事にマルテンサイトについて取り上げたかというと、その硬さが金属材料として実に面白い強化機構に起因しているからです。
結論としては、これまで紹介した4つの強化機構全てを網羅しています。
具体的に各強化機構がどのように寄与しているかは以下の通り。

  • マルテンサイト変態(無拡散変態)により生じるマルテンサイト晶の大きさは、母相結晶粒よりも小さい(=結晶粒微細化強化
  • マルテンサイト晶内には、転位などの多くの格子欠陥が導入される(=加工(転位)硬化
  •   

  • 合金鋼などの場合、母相が固溶体であればマルテンサイトも固溶体である(=固溶強化
  • 実用鋼の場合、拡散速度の大きい侵入型固溶元素である炭素を含み、かつ マルテンサイト変態開始温度(MS)が室温以上に高い。そのため、マルテンサイト変態開始後の室温までの冷却中に炭素の再配列、極端な場合は炭化物の析出(オートテンパー)が起こる(=析出強化

これらの結果として、マルテンサイトの硬さには固溶強化、転位(加工)硬化、結晶粒微細化、析出強化の4つの強化機構全てが関与しているといえます。
炭素量の違いによる硬さへの影響のグラフと、各強化機構の寄与具合を示したグラフを紹介します。

炭素量が多くなるほどより硬くなるという傾向と、析出強化の影響が大きいですがどの強化機構も寄与分として重要であることがよくわかりますね。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
金属材料学の初学者の方、専門外だけどちょっと金属に詳しくなりたい方にとって強化機構はとっつきづらく難しい印象だったかもしれません。
でも、本記事のように整理すると分かりやすく腑に落ちるメカニズムだったことが再認識できたのではないでしょうか。
ざっとまとめると以下のようになります。
1.はじめに
金属材料の性質を司るものの1つである「機械的性質」。
その中でも「強化(硬化)」について簡単に解説しました。

2.金属材料の予備知識-強化機構の各論に入る前に-
2-1) 結晶構造について
金属材料はその殆どが原子配列が規則的な結晶構造を有します。
強化機構を理解する上で「結晶粒」と「結晶粒界」がキーワードです。

2-2) 転位について
転位とは「結晶中の原子の並びが不規則な箇所」のことを指し、欠陥として扱います。
金属材料に外力が加わると変形し、変形により転位の増殖や移動(転位運動)が起こります。

3. 金属材料の各強化機構
金属材料の強化(硬化)の基本指針は『いかに転位の移動を阻害(邪魔)するか』と言えます。

3-1) 固溶強化
原子配列の整った結晶構造を有する固体金属中に元の金属とは異なる元素が混ざることで原子配列が乱れ、ひずみが生じます。
このひずみが金属材料内部での転位運動を阻害します。

3-2) 析出強化
析出強化は結晶の中に微細な粒子(金属間化合物)を析出させて、転位の動きを抑制する強化方法です。
一般的には、熱処理プロセスである「溶体化処理+時効処理」を行い、時効析出により材料を強化します。

3-3) 加工強化(転位強化)
加工硬化はひずみ硬化、または転位硬化とも呼ばれます。金属に力を加え(ひずみを与え)て、塑性変形(永久変形)させて硬くする方法です。
変形量が増加するほど転位の数(転位密度)も増加し、転位同士がお互いに運動を阻害し、硬くなります。

3-4) 結晶粒の微細化
結晶粒の微細化は、結晶粒サイズを小さくすることで強度を上げる手法です。
結晶粒界を境に結晶の向き(結晶方位)が変わり、結晶粒界を横切ろうとする転位の動きを阻害します。

4. マルテンサイト変態
鉄鋼材料など一部の金属材料は焼入れによりマルテンサイト変態をします。
マルテンサイト変態は4つの強化機構(固溶強化、析出強化、加工硬化、結晶粒微細化)がいずれも関与しているため著しい硬化が起こります。

以上まとめとなります。
本記事が皆様の豊かなエンジニアライフニ寄与できれば幸いです。

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