はじめに
技術士二次試験の選択科目をどう選ぶかは大変重要な問題です。
金属部門には3つの選択科目「金属材料・生産システム」、「表面技術」、「金属加工」があります。
この記事では、「金属加工」にフォーカスして解説をします。
とは言え、技術士(金属部門)受験予定者のうち、「金属加工」を選択するつもりの方はもちろんのこと、他の科目を有力候補と考えている方にも是非読んでいただきたいです。
よく調べたら、最初自分が得意と思っていたものと、本当に適性がある科目が他であったということは往々にして起こりうることです。
本記事は、令和元年度の制度改正以降の内容に対応しておりますので、これから受験、是非参考くしてください。
この記事はこんな人に読んでほしい内容です。
選択科目である金属加工は構成する要素技術の範囲が比較的わかりやすいのが特徴です。
金属加工は製品づくりにおける源流に近いところから、最終製品に近い工程を担う要素もあります。
また、大企業の製造ラインとしても、小規模な町工場の製造工程としても関連が深い技術であるため、比較的イメージが掴みやすいのではないでしょうか。
この記事の筆者である私も、「金属加工」を選択して令和2年に合格しております。
また、令和元年度以降の試験制度改正により、以前の「鉄鋼生産システム」、「非鉄生産システム」、「金属材料」が、改正後に「金属材料・生産システム」に統合されています。
科目の統合に関してはこちらの記事を参考にしてください。
「金属加工」は科目統合の影響もほぼ受けていないため、令和元年度以前の過去問も参考にしやすいでしょう。
それでは、具体的な対策方法について解説してきます。
金属加工を構成する要素技術
選択科目「金属加工」を構成する要素技術を確認するため、技術部門と選択科目の一覧表を下記の日本技術士会HPから抜粋してみてみましょう。
金属加工についてはこう書かれています。
鋳造、鍛造、塑性加工、溶接接合、熱処理、表面硬化、粉末焼結、微細加工、その他の金属加工に関する事項
とあります。
これを箇条書きで示すと、
- 鋳造
- 鍛造
- 塑性加工
- 溶接
- 熱処理(表面硬化含む)
- 粉末焼結
- その他(微細加工含む)
となります。
最後になぜ「表面硬化」と「微細加工」を「その他」にひとまとめにしたかは、選択科目「金属加工」からは過去にほぼ出題がないからです。
要素技術として重要でないという事ではなく、あくまで試験対策として勉強を進める以上、効率は大事ですね。
よって、出題可能性の低いものは重点的に項目立てせずに、その他でくくってしまいます。
(もちろん、今後出題がないとは限りませんが)
ざっと、出題範囲を確認したら、具体的に過去問を見ていきましょう。
過去問からの出題傾向の分析|選択科目Ⅱ-1より
何事も、「敵を知り己を知れば百選危うからず」。
これは資格試験も同じこと。
選択科目Ⅱ-1は、与えられたキーワードに対して、
- 原理(メカニズム)
- 特徴(長所と短所)
- 応用例(実用例)
を問う形式がスタンダードとなっています。
いわゆる知識問題で、コンピテンシーとしては、「専門的学識」と「コミュニケーション」が問われます。
コンピテンシーについて詳しく知りたい方はこちらをご参照ください。
知識問題は、問題としての問われ方はシンプルでも、知識が無いと何も書けないというある意味恐ろしい問題でもあります。
問題解決手法など、いくらテクニックを身に付けても太刀打ちできない側面があるので、私は選択科目Ⅱ-1は最も鬼門であると考えています。
それだけ、過去問による傾向と対策は大変重要という事です。
ということで過去問をしっかり分析していきましょう。
まずは、令和元年度から令和4年度までの過去問のうち選択科目Ⅱ-1、いわゆる1枚問題の過去問から見ていきます。
過去問の元データについては、技術士会のHPにありますので、そちらを参考にしています。
選択科目「金属加工」のⅡ-1の過去問より、出題分野の中分類【赤字】とキーワードを一覧表にするとこんな感じ。
問題番号 | ||||
令和元年度 | 【溶接】マグ(MAG)溶接 | 【鋳造】鋳造法(ダイカスト法、ロストワックス法、消失模型法(フルモールド法)、シェルモールド法) | 【塑性加工】塑性加工の駆動力 液圧プレス、機械プレス |
【粉末焼結】金属粉末の製造方法 |
令和2年度 | 【塑性加工】塑性加工 一次加工と二次加工 |
【溶接】炭素鋼の溶接 熱影響部における炭素量と機械的性質・溶接性(割れ・欠陥の出やすさ)の関係 低温割れ防止策としての予熱のメカニズム |
【鋳造】鋳鉄の製造条件と分類 ねずみ鋳鉄・白銑鉄の成分と製造条件および強度向上方法 |
【その他】金属射出成型(MIM: Metal Injection Molding) 概説・利点・欠点 |
令和3年度 | 【溶接】タック溶接(仮付け) 施工上の留意点 |
【鋳造】遠心鋳造法 特徴(回転軸と鋳型の材質の面から) |
【塑性加工】塑性加工によって作られる鋼管 継ぎ目有り・無しの特徴(製造方法・用途・寸法などの観点) |
【粉末焼結】粉末冶金 粉末の混合から完成品までの工程および長所・短所 |
令和4年度 | 【熱処理】鋼の熱処理 焼入れ、焼戻し、加工熱処理技術、変態温度 |
【溶接】疲労の概説と溶接構造物の疲労強度改善 継手設計上の留意点・施工面の対策 |
【塑性加工】塑性加工における潤滑の役割 鍛造工程での潤滑技術の概説と課題 |
【その他. 粉末焼結】パウダーベッド方式3Dプリンティング 原理・特徴 |
上の表と見比べながら、改めて「金属加工」の要素技術を確認しましょう。
金属加工
鋳造、鍛造、塑性加工、溶接接合、熱処理、表面硬化、粉末焼結、微細加工、その他の金属加工に関する事項
とあります。
これを箇条書きで示すと、
- 鋳造
- 鍛造
- 塑性加工
- 溶接
- 熱処理(表面硬化含む)
- 粉末焼結
- その他(微細加工含む)
でしたね。
各年度ごとにみてみると、上記の6つの分類のうち4つが選択され、同じジャンルから2題以上出題されるということがないようです。
つまり、各年度6ジャンル中4ジャンルから満遍なく出題があり、残り2ジャンルからの出題はないとも言えます。
そう考えると、対策の仕方を誤ってしまうと、試験本番になって「準備していたジャンルからの出題がない!!」なんてことが起きかねないことは想像がつきますね。
それでは、選択科目「金属加工」を取り巻くキーワードを過去問をベースにキーワードをピックアップしてマインドマップを使って俯瞰的に眺めてみましょう。
マインドマップが見づらいという方は、下の系統図をご参照ください。
私はこのようにマインドマップで整理すると頭の中がすっきり(する気が)するので、よく使っています。
マインドマップはあまり形式に拘らず、「自分の頭の中をどう整理すれば分かりやすいか」という視点で作成すると記憶にも定着しやすいので、上記を参考にご自身でも作成することをお勧めします。
面倒な方は、画像上で「右クリック → 名前を付けて画像を保存」をして、適宜印刷するなりしてご活用ください。
本筋から外れますが、マインドマップについて詳しく知りたい、オススメのアプリが知りたい、という方は下の記事を読んでみてください。
こうしてマインドマップを眺めてみると、選択科目「金属加工」の全体像が俯瞰的に見えてきますね。
「金属加工」という科目全体をまとめる大分類の中にどのような構成要素やキーワードが盛り込まれているか見えてきました。
「んじゃ、試験対策としてこれらのキーワードについてしらみつぶしに勉強を進めていけばいいのか!よしやるぞ!」
と思った方、ちょっと待ってください!
もう少し過去問の傾向をしっかり分析してからでないと、非効率な対策になってしまいます。
そのようなことを避けるために、下の表のように年度ごとに各構成要素についての出題数をまとめています。
問題番号 | ||||||||||
令和元年度 | 【溶接】マグ(MAG)溶接 | 【鋳造】鋳造法 ダイカスト法、ロストワックス法、消失模型法(フルモールド法)、シェルモールド法 |
【塑性加工】塑性加工の駆動力 液圧プレス、機械プレス |
【粉末焼結】金属粉末の製造方法 | 1 | 1 | 0 | 1 | 1 | 0 |
令和2年度 | 【塑性加工】塑性加工 一次加工と二次加工 |
【溶接】炭素鋼の溶接 熱影響部における炭素量と機械的性質・溶接性(割れ・欠陥の出やすさ)の関係 低温割れ防止策としての予熱のメカニズム |
【鋳造】鋳鉄の製造条件と分類 ねずみ鋳鉄・白銑鉄の成分と製造条件および強度向上方法 |
【その他】金属射出成型 (MIM: Metal Injection Molding)概説・利点・欠点 |
1 | 1 | 0 | 1 | 0 | 1 |
令和3年度 | 【溶接】タック溶接(仮付け) 施工上の留意点 |
【鋳造】遠心鋳造法 特徴(回転軸と鋳型の材質の面から) |
【塑性加工】塑性加工によって作られる鋼管 継ぎ目有り・無しの特徴(製造方法・用途・寸法などの観点) |
【粉末焼結】粉末冶金 粉末の混合から完成品までの工程および長所・短所 |
1 | 1 | 0 | 1 | 1 | 0 |
令和4年度 | 【熱処理】鋼の熱処理 焼入れ、焼戻し、加工熱処理技術、変態温度 |
【溶接】疲労の概説と溶接構造物の疲労強度改善 継手設計上の留意点・施工面の対策 |
【塑性加工】塑性加工における潤滑の役割 鍛造工程での潤滑技術の概説と課題 |
【その他. 粉末焼結】パウダーベッド方式3Dプリンティング 原理・特徴 |
0 | 1 | 1 | 0 | 0.5 | 0.5 |
より分かりやすく、集計表だけ抜き出してみましょう。
令和元年度 | ||||||
令和2年度 | ||||||
令和3年度 | ||||||
令和4年度 | ||||||
選択科目Ⅱ-1は4題与えられ、1題を選択解答する形式です。
令和元年~令和4年における出題頻度順に、各要素技術を並べると、
1位(4回):溶接
2位(3回):鋳造
2位(3回):塑性加工
4位(2.5回):粉末焼結
5位(1.5回):その他
6位(1回):熱処理
となっています。
ざっとランキングを見てみましょう。
〇溶接
まず堂々の1位は「溶接」です。
過去4年分のうちの4回なので4/4=100%という出題率。
この傾向は令和元年度以前から変わっておらず、頻出であることは分かっていました。
選択科目Ⅱ-1対策として、私自身一番力を入れていました。
私が受験した令和2年度もバッチリ出題され、やはり分析結果は間違いありませんでした。
さらに、自動車をはじめ様々な産業では軽量化や環境負荷低減の観点から適材適所の材料選択が求められ、異種接合技術など今後も溶接・接合分野の需要は高まる一方です。
今後も頻出であると考えられるでしょう。
〇鋳造&塑性加工
続いて、2位は同順位で、「鋳造」と「塑性加工」です。
1位の溶接以外でもう1つ武器を揃えたいけど何がいいか、となったらこの2つのうちどちらかで間違いないでしょう。
私は溶接と同じく、この鋳造にも力を入れて対策しました。
もし頻出である「溶接」が、自分の分からないアプローチから出題された場合のリスク回避を図るためです。
このあたりは、皆さんの普段のお仕事や専門性との親和性を加味して2つ目の武器を決定するといいでしょう。
もちろん、必ずどちらかを選ばなければならないことはありません。
「鋳造」と「塑性加工」どちらも対策する手もあります。
私も、頻出の「溶接」と第2候補の「鋳造」に加え、「塑性加工」も少し視野に入れた対策をしていました。
広く浅くでは、本番で通用する知識にならないという面もありますが、絞り込みすぎも危険を伴います。
この辺りは運の要素も多分にありますので、どこまで絞り込んだ対策をするのかに正解はありません。
ある程度の割り切りは必要ですね。
〇粉末焼結
お次の4位は「粉末焼結」です。
まず、過去4年間の出題傾向から計算した「2.5回」という中途半端な数字についてです。
比較的古典的な手法としての「粉末焼結」や「粉末冶金」に関する出題は、「1」とカウントしています。
また、比較的新しい金属粉末を用いた製造手法である「金属3Dプリンティング(金属積層造形)」については「0.5」とカウントし、残りの0.5分は「その他」に割り当てています。
もちろん、この辺のさじ加減は専門家によって「粉末焼結と金属3Dプリンティングは全く別物である」といった見解もあるでしょうが、「便宜上0.5」としていますのでご了承ください。
粉末焼結は、「金属加工」分野の中では比較的出題の少ない部類に入ると言えます。
もちろん工業的には大事な製造手法の1つであり、他の製造方法では難しい材料でも成形できるなどメリットも大きい方法ではありますが、あまり金属の専門家としても触れる機会は多くない製造方法という感覚はありますね。
そういった意味でも、技術士受験生としてはよほど仕事などで馴染みが深いといった事情がない限りはそれほど力を入れて対策しなくていいでしょう。
ただ、”一応”粉末焼結に半分だけ分類した「金属3Dプリンティング」についてはある程度理解を深めておくことをオススメします。
なぜかというと、必須科目Ⅰや選択科目Ⅲなどの3枚問題で問題の解決手法などの文脈で多少なり武器になるからです。
詳しくは別途解説しますが、最新のデジタル技術(3Dデータなど)を活用した製造技術というのはトレンドとしてネタにしやすい要素がありますので、予備知識は必ず役立ちます。
〇その他
そして、5位は「その他」です。
その他って何ですかー、というお話かと思いますが、しっかり中身を見てみましょう。
過去4年間の出題内容としては「MIM(金属射出成型)」と「金属3Dプリンティング」が入っています。
「粉末焼結」で解説した通り、粉末を扱うという観点から3Dプリンティングも0.5ポイントだけ粉末焼結に割り振っています。
MIM(金属射出成型)は他の加工法に分類できないため、完全にその他に分類しています。
正直、今後については「その他」として何が出題されるかは読めません。
「その他」を意識した対策は特別必要ないでしょう。
たまたま出題された内容が自分の得意な内容であれば選択する、程度の理解で大丈夫です。
〇熱処理
最後に6位は「熱処理」です。
「熱処理」が本業・得意という方には残念ですが、過去4年間で1回しか出題がないのが実情です。
また、熱処理と言っても実に幅広いですよね。
鉄・非鉄でも違いますし、鋼系材料1つとってもでも材質の違いや用途により多様な処理方法があります。
過去の出題としては、鋼の焼入れ・焼戻しなど比較的ベーシックな内容となっています。
恐らくこの辺りであれば熱処理が本業でない方でもある程度回答できるのかなと想像できます。
しかし、出題傾向としてはかなり出題率が低いのが事実。
意識して対策する必要はないと言えます。
強いて言えば、令和元年度の試験制度改正に伴い、金属部門も選択科目が統合されています。
その際、選択科目「金属加工」の中に「表面硬化」が追加されています。
ちなみに、改正以前は選択科目「表面技術」にあったものが移動してきたようです。
熱処理技術の中には、「高周波焼入れ」「浸炭・窒化処理」といった表面硬化技術があります。
恐らく、「表面」という言葉が付くとは言え、他の表面技術に比べ、これらの表面硬化技術は熱処理としての要素が強いだろうという判断での、科目の内容変更と考えられます。
そういった背景を踏まえ、ぜひ「熱処理」を選択科目Ⅱ-1で使える武器としたいと考える受験者は、「表面硬化処理」も意識されるといいでしょう。
以上、ざっくりと選択科目「金属加工」における選択科目Ⅱ-1の出題傾向を分析しました。
受験者の方はご自身の専門や得意分野、あるいは業務内容と照らし合わせながら、傾向を加味しつつ慎重に選ぶ必要のある選択科目。
特に、Ⅱ-1はストレートに専門知識が問われる反面、ごまかしがきかないので、本当に解答できそうか想像しながら過去問と睨めっこしてみましょう。
過去問からの出題傾向の分析|選択科目Ⅱ-2より
選択科目Ⅱ-2(2枚問題)についても過去問をしっかり分析していきましょう。
選択科目Ⅱ-2で問われるコンピテンシーは
- 専門的学識
- コミュニケーション
- マネジメント
- リーダーシップ
の4つで、2枚問題(600字詰め原稿用紙2枚分)となります。
特に、「マネジメント」と「リーダーシップ」が問われるという点がⅡ-2の最大の特徴とも言えます。
どのようにこれらのコンピテンシーを盛り込んで記述すればいいか、についてはこちらの記事を参考にしてください。
専門的学識とコミュニケーションしか問われない選択科目Ⅱ-1(1枚問題)と比較し、専門知識外の要素が問われる分、きちんと対策すれば書きやすいのがⅡ-2とも言えます。
ただ、必須科目Ⅰや選択科目Ⅲなどの3枚問題とも違い、「マネジメント」を表現するに当たり実務的な経験が問われる側面があるので、注意が必要です。
また、選択科目Ⅱ-2は2問出題されて、1問選択する形式です。
これまで見てきたように、「金属加工」のジャンルも多岐に渡る中で、2問しか出題されないわけです。
自分の得意ジャンル・実務経験のあるジャンルがその2問に含まれていない可能性は結構高い、ということです。
より一層、過去問分析をして、傾向に沿った対策をしないと痛い目に遭いそうです。
それでは、令和元年~令和4年の試験データを元に分析をしていきましょう。
過去問の元データについては、技術士会のHPにありますので、そちらを参考にしています。
選択科目「金属加工」のⅡ-2過去問より、出題分野の中分類【赤字】とキーワードを一覧表にするとこんな感じ。
問題番号 | 鋳造 | 溶接 | 熱処理 | 塑性加工 | 粉末焼結 | その他 | ||
令和元年度 | 【溶接】鋼溶接構造物の補修溶接とWPS | 【その他】軟鋼製品からの軽量化と高強度化 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 |
令和2年度 | 【塑性加工・熱処理】熱間鍛造・冷間鍛造・熱処理 棒材・ビレットからの成形、表面傷がない平滑性が高い表面性状 |
【溶接】現地溶接施工 プラントの据え付け工事・安全対策 |
0 | 1 | 0.5 | 0.5 | 0 | 0 |
令和3年度 | 【溶接】溶接構造物製造における生産性向上活動 大規模な設備投資、材質・形状・寸法の大幅な変更できない |
【鋳造・塑性加工】鋳造や鍛造等による金属製品 強度が低いとの顧客クレーム対応 |
0.5 | 1 | 0 | 0.5 | 0 | 0 |
令和4年度 | 【鋳造】鋳造からの新技術導入 形状の緻密化・複雑化による欠陥の発生 |
【溶接】溶接施工要領書(WPS)を含む製造計画書 鉄鋼材料の溶接の施工法・要員・資格・検査・品質記録 |
1 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 |
1.5 | 4 | 0.5 | 1 | 0 | 1 |
ここで一度、日本技術士会から公式に示されている「金属加工」の出題範囲を見直してみましょう。
【金属加工】
鋳造、鍛造、塑性加工、溶接接合、熱処理、表面硬化、粉末焼結、微細加工その他の金属加工に関する事項
となっています。
より分かりやすくするため、箇条書きにして表現しましょう。
- 鋳造
- 鍛造
- 塑性加工
- 溶接
- 熱処理(表面硬化含む)
- 粉末焼結
- その他(微細加工含む)
となります。
この切り口で、過去問からの出題傾向を見てみましょう。
上の表からキーワードだけ抜き出し、下の表のように年度ごとに各構成要素についての出題数をまとめています。
問題番号 | 鋳造 | 溶接 | 熱処理 | 塑性加工 | 粉末焼結 | その他 | ||
令和元年度 | 【溶接】 | 【その他】 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 |
令和2年度 | 【塑性加工・熱処理】 | 【溶接】 | 0 | 1 | 0.5 | 0.5 | 0 | 0 |
令和3年度 | 【溶接】 | 【鋳造・塑性加工】 | 0.5 | 1 | 0 | 0.5 | 0 | 0 |
令和4年度 | 【鋳造】 | 【溶接】 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 |
1.5 | 4 | 0.5 | 1 | 0 | 1 |
いかがでしょう。
傾向ははっきりと出ていますね。
選択科目Ⅱ-2も過去4年分についてランキング形式で見てみましょう。
1位(4回):溶接
2位(1.5回):鋳造
3位(1回):塑性加工
3位(1回):その他
5位(0.5回):熱処理
6位(0回):粉末焼結
となっています。
各年度につき、選択科目Ⅱ-2は2題しか出題されないこともあり、ランク付けするにはデータ数が足りない部分はありますが、大まかな傾向は掴めます。
それでは1位から順に詳細を見ていきましょう。
〇溶接
まず、堂々の1位は「溶接」です。
しかも2位と倍以上の差をつけてのダントツ1位と言えます。
しかも過去4か年中4回なので100%の出題率を誇っています。
なぜ選択科目Ⅱ-2においても、「溶接」は頻出なのか、理由は様々考えられますが、以下4つが挙げられます。
- 工事現場や製造ラインなどの様々な場面での適用が想定される
- 大型の構造物から小型部品まで様々な用途で用いられる
- 施工管理の知見、技能面の知見、材料的知見が必要な要素技術である
- もの同士を”くっつける”という需要は工業的に重要であり今後ますます需要が伸びる
などが挙げられます。
特に施工管理の知見が求められる点などは、マネジメントやリーダーシップを問う選択科目Ⅱ-2としては、問題が組み立てやすいと考えられます。
具体的な中身は、
- 鋼溶接構造物の補修溶接とWPS
- 現地溶接施工(プラントの据え付け工事・安全対策)
- 溶接構造物製造における生産性向上活動
- 溶接施工要領書(WPS)を含む製造計画書
となっています。
WPS(Welding Procedure Specification:溶接施工要領書)が2回登場していますね。
溶接の原理・材料的知見・適用例・評価方法などに詳しくても、WPSに関してはあまり知らない、あるいは聞いたことすらない、なんていう方も意外と多いのではないでしょうか。
ちなみに私はそのタイプでした。
選択科目「金属加工」では選択科目Ⅱ-1および2いずれにいても「溶接」からの出題は頻出であったことは傾向から明らかでしたので、溶接にはある程度知見はあったものの、WPSてはまたったく知らず、一から勉強したのを覚えています。
意外とこういった落とし穴はありますので、漠然と「このジャンルなら得意だから大丈夫」と高をくくらず、過去問からキーワードを拾ってしっかり対策することが肝要です。
また、「補修溶接」も気になるキーワードですね。
いかにも現場っぽいというか、工業的には不具合対策などで重要な工程です。肉盛り溶接などと言ったりもしますね。
欠陥箇所や問題箇所を部分的に溶かしこんで見掛け上直してしまって補修する技術です。
射出成型やプレス加工の金型や鋳物などの様々な製品の補修で応用されます。
やはり「マネジメント」を問いやすい切り口なのでしょう。
その他、「現地での溶接施工」や「溶接構造物製造の生産性」といった、溶接を用いた製品作りにおいて全体を俯瞰した視点での出題が出ています。
いずれも、溶接の現場を知らないと解答が難しい出題となっています。
特に溶接は、以下の要素があり、他のジャンルの加工技術とは異なる難しさがあるので論文中でも注意して盛り込むと良いです。
- 技能者の熟練度および技能伝承
- 技能レベルの保証
- 作業場の危険因子(火傷、感電、ヒュームなど)
- 残留応力とひずみ
- 多様な検査方法(破壊検査・非破壊検査)
現場を知らないと解答が難しいとは言いましたが、しっかり対策すれば現場に近くない方でも解答は可能です。
ほぼ出題されると言ってもいいこの「溶接」というジャンル。
是非、得意なジャンルにしてしまいましょう。
〇鋳造
お次の2位は、「鋳造」。
2位とは言え4年間で1.5回であり、3位以下と大差はありません。
1位の溶接は、対策するジャンルとして外せないのは間違いありませんが、鋳造については出題頻度からすると得意なジャンルではない方は無理に対策しなくてもいいでしょう。
溶接以外に対策を立てるとしたら、3位以下のジャンルを候補として考えても良さそうです。
1.5回という中途半端なのは、令和3年度の出題では「鋳造や鍛造等による~」という問題文になっており、必ずしも鋳造でなくても回答できることから0.5回と、半分にしてカウントしています。
ちなみに、鍛造は塑性加工として分類しています。
令和4年度は「鋳造×新技術」という切り口での出題となっています。
キーワードが与えられているものの、比較的抽象的な問い方です。
鋳造と言っても、鉄・非鉄、重力鋳造、精密鋳造、砂型、金型、ダイキャストなどなど多岐に渡ります。
また、製造技術面、設備面、材料面、評価方法など、受験者素各々の得意な要素技術もあるでしょう。
抽象的な問いであれば、それを逆手に取り自身の得意な展開に誘導しながらの論述が可能になるので、コンピテンシーを意識しながら対策するといいでしょう。
〇塑性加工
続いて、3位は「塑性加工」と「その他」です。
まず、塑性加工については過去4年間の合計カウント数は1ですが、内訳は0.5回×2年となります。
なぜ0.5回とカウントしたかについて、それぞれ「熱処理」や「鋳造」など他のジャンルのキーワードが入っているため、「塑性加工」分は半分としました。
ではどのような出題内容か見てみましょう。
令和2年度は「熱間鍛造×冷間鍛造×熱処理」という切り口で表面性状の高品質化という切り口となっています。
ちなみに私は令和2年度に受験して合格しましたが、選択科目Ⅱ-2では、この問題を選択しました。
「溶接」が頻出と分かっていたので、溶接に重きを置いて対策し、まさに溶接からの出題があったにもかかわらず塑性加工(この年は鍛造)を選択してA判定をもらっています。
やはり、試験というものは何があるかわかりませんね。
いくら、ジャンルやキーワードだけ拾って対策しても、自身の経験上答えやすい出題かどうかは別問題です。
抽象的故に自身の得意な方向性に論述展開しやすい問題という特徴を生かして、試験本番でどう対処するかを見極める咄嗟の判断力も重要ですね!
令和3年度からの出題で塑性加工(鍛造)というキーワードが出ていましたが、鋳造というキーワードもあるため0.5回とカウントしたことについては既に説明した通りです。
ただ、選択科目Ⅱ-2の塑性加工について少し傾向がみられます。
塑性加工の要素技術としては、「鍛造」「圧延」「引き抜き」「押し出し」など様々ありますが、過去4年間では0.5回×2年分で、いずれも「鍛造」からの出題である点です。
もちろん、将来的に「圧延」などの要素技術が出てこないということではありませんが、塑性加工のうちど子に絞って対策するかに迷ったら「鍛造」に注力するのが良さそうです。
〇その他
塑性加工と同順位の「その他」ですが、「その他」の名の通り、これといった特定のジャンルというわけではありません。
それ故、結論として特別対策しなくてよい、というよりしようがないと言えます。
実際どのような問題が出ているかというと、令和元年度に「軟鋼製品の軽量化と高強度化」という内容で出ています。
特段、要素技術や加工方法を指示していませんが、「金属加工」としての出題であること加味すると、溶接・鋳造・塑性加工・熱処理・粉末焼結などから、「自身の得意なジャンル×高強度化・軽量化」で解答すれば良いでしょう。
また複数の加工技術を組み合わせての解答でも良さそうです。
「その他」は対策しようがない反面、誰でも解答しやすいとも言えそうです。
〇熱処理
続いて、5位の「熱処理」。
過去4年間で0.5回という出題数のカウント。
令和2年度に、鍛造と合わせて熱処理というキーワードが出てきていることから半分というこで0.5カウントとしています。
なぜ出題数が延びないかというと、恐らく「熱処理」は単体の加工技術としては選択科目Ⅱ-2としては扱いずらいということかと思います。
熱処理は極めて重要な工業的な処理プロセスであり、身の回りのほとんどの金属製品はかなりのものが何かしらの熱処理が施されています。
でも、それ故「マネジメント」や「リーダシップ」を盛り込んだストーリー性が求められる選択科目Ⅱ-2としては単体での扱いが難しいのでしょう。
ただ、他の加工技術と絡めて「熱処理」というキーワードが盛り込まれる可能性は十分に考えられるため、やはりある程度意識した勉強は必要ですね。
〇粉末焼結
最後に、最下位は「粉末焼結」。
過去4年間で、出題はなんと0回。
今後の出題もないとは言えませんが、あまり出なさそうというのは間違いなさそうです。
理由定かではありませんが、例えば工具や金型といった特定の業界ではもちろん重要な加工方法ではありますが、広く一般的かというとそうでもない、というのが粉末焼結の位置づけかもしれません。
そういった背景を踏まえてか、特に「マネジメント」や「リーダーシップ」を問う選択科目Ⅱ-2としてはストーリー性を持たせた出題が難しいのかもしれません。
よほど本業でもない受験者は敢えて受験対策に力を入れるジャンルではないでしょう。
参考書籍
この記事だけでは到底細かな専門知識についてフォローしきれないのが正直なところ。
それじゃ、どのように知識をつけていけばいいのか。
他の資格試験と異なり、技術士二次試験については「これだけ読んでおけばOK」と言えるような網羅的で系統だった書籍というのはなかなかないのが実情。
ただ、各ジャンルに絞れば、分かりやすく系統立った良書はあります。
もちろん、最新技術などは学会誌やネットの情報等に頼る部分もありますが、専門書でベースを固めておくことは重要!
それでは各要素技術ごとに参考書籍を紹介いたします。
もちろん全部読む必要はありません。
ご自身に必要な部分のみ手に取ってみていただけると大変参考になりますよ。
〇鋳造分野
著書名:トコトンやさしい鋳造の本
著者名:西直美, 平塚貞人
おなじみの「トコトンやさしい○○の本」シリーズ。
初学者はもちろん、ある程度知識がある方も十分学びのある一冊。
とにかく分かりやすいのが魅力。
著書名:新版 鋳造工学
著者名:中江秀雄
中級から上級者向けです。
やや難しい部分もありますが、基礎からしっかり学べ論理的に体系づけて学びたい方には是非オススメ!
イチから全部読むというより、辞書的に使うと抵抗なく使いこなせる一冊です。
〇塑性加工分野
著書名:絵とき 塑性加工の基礎のきそ
著者名:町田輝史, 古閑伸裕
塑性加工について、基礎から非常に分かりやすく解説しています。
ベーシックな力学の話から、プレス、圧延、鍛造、押出し、引抜きなどの各種加工技術、棒材、管材、塑性加工を利用した接合など、広く網羅しています。
基礎からしっかり学びたい方にオススメ!
著書名:絵とき 鍛造加工の基礎のきそ
著者名:篠崎吉太郎
同シリーズの「塑性加工の基礎のきそ」に続いて、「鍛造加工」に特化した版です。
鍛造に供される被加工材の種類別の特徴、鍛造工具の種類と特徴、メタルフロー、冷間鍛造、熱間鍛造、閉塞鍛造、背圧負荷鍛造、その他の鍛造技術等について解説しています。
技術士試験の金属部門(金属加工)の塑性加工からの出題は、やや鍛造に重きを置いている傾向です。
そのような意味でも、一冊持っていて損はないでしょう!
〇溶接分野
著書名:トコトンやさしい溶接の本
著者名:安田活彦
とにかく分かりやすい、トコトンやさしいシリーズ。
初学者にも知識がある方にもお勧めしたい一冊。
溶接の用語、溶接関連の資格、あらゆる産業のどこで溶接が用いられているか、各種溶接法(ガス・ろう付け・アーク・プラズマ・ティグ・ミグ・マグ・レーザー・圧接など)、ロボット溶接、安全対策、非溶接材料別の特徴、設計時の留意点、溶接欠陥など多岐に渡り丁寧に解説。
私もこの一冊は重宝しました!
著書名:現場で役立つ溶接の知識と技術
著者名:野原英孝
これまで触れてきたように、選択科目Ⅱ-2(2枚問題)では、「マネジメント」や「リーダシップ」をアピールする必要ある事情からストーリ性や現場感覚が求められます。
そこをまさに補強してくれる一冊。
選択科目「金属加工」の中でも頻出の「溶接」で勝負しようとしようとしている受験者の方には特に味方になってくれるはず!
〇熱処理
著書名:コトトンやさしい熱処理の本
著者名:坂本卓
やはり、オススメしたい「トコトンやさしい○○の本」シリーズ。
熱処理についても分かりやすく解説。
熱処理と言えば代表格の鉄鋼材料についての説明、金属全般の性質、熱処理装置、熱処理の処理手法と操作、熱処理の種類と原理、表面処理、熱処理の管理方法と品質、などについてとにかく分かりやすく解説してくれています。
著書名:図解入門よくわかる最新熱処理技術の基本と仕組み
著者名:山方三郎
熱処理の基礎から応用までしっかり解説してくれている良書。
熱処理によって、鉄・非鉄問わずどのように特性が引き出されるのかを理解するのにオススメの一冊。
〇粉末焼結分野
著書名:工程順でわかるはじめてのプレス粉体成形
著者名:浅見淳一
他のジャンルに比較すると、あまり専門書籍が多くない印象の粉末焼結分野。
でもこの一冊は非常に分かりやすくお勧め!
工程ごとに詳細に解説があり、なじみがない人でもイメージしやすく参考になります。
著書名:セラミックスの焼結
著者名:守吉 佑介 , 植松 敬三 , 門間 英毅, 笹本 忠
理論からじっくり理解したい方にはお勧めの一冊!
〇その他(表面硬化、微細加工含む)
著書名:金属3D積層のきそ
著者名:京極 秀樹, 池庄司 敏孝
金属3Dプリンターにおける様々な現象を、模式図として示しており分かりやすく解説。
レーザー積層造形などの溶融現象の模式図など、図解と平易な言葉で解説していてとても親切な一冊。
著書名:トコトンやさしい超微細加工の本
著者名:麻蒔 立男
微細加工技術について、概要をしっかり押さえながらも基礎と応用をしっかり学べる一冊。
微細加工技術について学びたい方、迷ったらコレ!
まとめ
いかがでしたでしょうか。
技術士二次試験の金属部門の選択科目の1つである「金属加工」について、過去問の出題傾向や対策を行う際の留意点を見てきました。
最後にさらっとおさらいしましょう。
- はじめに
- 金属加工を構成する要素技術
- 過去問からの出題傾向分析|選択科目Ⅱ-1より
- 過去問からの出題傾向分析|選択科目Ⅱ-2より
- 参考書籍
金属部門には3つの選択科目「金属材料・生産システム」、「表面技術」、「金属加工」があります。
選択科目である金属加工は構成する要素技術の範囲が比較的わかりやすいのが特徴です。
金属加工を構成する要素には、
鋳造、鍛造、塑性加工、溶接接合、熱処理、表面硬化、粉末焼結、微細加工、その他の金属加工に関する事項
が指定されています。
過去4年分の出題傾向は、多い順に
1位(4回):溶接
2位(3回):鋳造
2位(3回):塑性加工
4位(2.5回):粉末焼結
5位(1.5回):その他
6位(1回):熱処理
となっています。
過去4年分の出題傾向は、多い順に
1位(4回):溶接
2位(1.5回):鋳造
3位(1回):塑性加工
3位(1回):その他
5位(0.5回):熱処理
6位(0回):粉末焼結
となっています。
金属加工を勉強する上で、各ジャンルごとに参考書籍を紹介。
良書を携えておくことで学習効率はアップしますので、ぜひ手元に置いておきましょう。
以上
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