はじめに
技術士二次試験の選択科目をどう選ぶかは大変重要な問題です。
金属部門には3つの選択科目「金属材料・生産システム」、「表面技術」、「金属加工」があります。
この記事では、「表面技術」にフォーカスして解説をします。
とは言え、技術士(金属部門)受験予定者のうち、「表面技術」を選択するつもりの方はもちろんのこと、他の科目を有力候補と考えている方にも是非読んでいただきたいです。
私自身は、「金属加工」を選択して受験し合格しましたが、「表面技術」関連の研究や仕事もを行っていた経験もあることから、表面技術についての過去問もよく分析しましたし、こちらを選択しようか本当に悩みました。
よく調べたら、最初自分が得意と思っていたものと、本当に適性がある科目が他であったということは往々にして起こりうることです。
本記事は、令和元年度の制度改正以降の内容に対応しておりますので、これから受験、是非参考くしてください。
この記事はこんな人に読んでほしい内容です。
- 技術士一次試験(金属部門)受験の方
- 技術士二次試験(金属部門)受験の方
- 技術士に興味はないけど、金属について勉強している方
技術士(金属部門)の選択科目としての「表面技術」は金属材料の表面に特定の機能性を付与するための成膜・コーティング技術やその評価法などを問うのが特徴です。
ベース(基材)としての製品や材料があっての+αとしての表面技術であることから、比較的最終製品に近い工程を担う技術であるとも言えます。
また、令和元年度以降の試験制度改正により、以前の「鉄鋼生産システム」、「非鉄生産システム」、「金属材料」が、改正後に「金属材料・生産システム」に統合されています。
科目の統合に関してはこちらの記事を参考にしてください。
「表面技術」は「浸透」と「表面硬化」がなくなった事でよりシンプルで選択しやすい科目になりました。
そのため、令和元年度以前の過去問も参考にしやすいでしょう。
それでは、具体的な対策方法について解説してきます。
表面技術を構成する要素技術
選択科目「表面技術」を構成する要素技術を確認するため、技術部門と選択科目の一覧表を下記の日本技術士会HPから抜粋してみてみましょう。
表面技術についてはこう書かれています。
【表面技術】
めっき、溶射、CVD(化学気相析出法)、PVD(物理蒸着被覆法)、防錆、洗浄、非金属被覆、金属防食その他の金属の表面技術に関する事項
とあります。
これを箇条書きで示すと、
- めっき
- 溶射
- CVD(化学気相析出法)
- PVD(物理蒸着被覆法)
- 防食(防錆、洗浄含む)
- その他
といった感じになります。
皆さんの得意なジャンルはいくつかありそうでしょうか。
「めっき~PVD」までは、HPからの情報をそのまま羅列していますが、「防食」や「その他」については実際の過去問を見てみながら具体的にどのような出題があるのか見ていくとイメージが掴みやすいです。
ざっと、出題範囲の確認ができたところで、具体的に過去問を見ていきましょう。
過去問からの出題傾向の分析|選択科目Ⅱ-1より
何事も、「敵を知り己を知れば百選危うからず」。
これは資格試験も同じこと。
選択科目Ⅱ-1は、与えられたキーワードに対して、
- 原理(メカニズム)
- 特徴(長所と短所)
- 応用例(実用例)
を問う形式がスタンダードとなっています。
いわゆる知識問題で、コンピテンシーとしては、「専門的学識」と「コミュニケーション」が問われます。
コンピテンシーについて詳しく知りたい方はこちらをご参照ください。
知識問題は、問題としての問われ方はシンプルでも、知識が無いと何も書けないというある意味恐ろしい問題でもあります。
問題解決手法など、いくらテクニックを身に付けても太刀打ちできない側面があるので、私は選択科目Ⅱ-1は最も鬼門であると考えています。
それだけ、過去問による傾向と対策は大変重要という事です。
ということで過去問をしっかり分析していきましょう。
まずは、令和元年度から令和4年度までの過去問のうち選択科目Ⅱ-1、いわゆる1枚問題の過去問から見ていきます。
過去問の元データについては、技術士会のHPにありますので、そちらを参考にしています。
選択科目「表面技術」のⅡ-1の過去問より、出題分野の【赤字】とキーワードを一覧表にするとこんな感じ。
問題番号 | ||||
令和元年度 | 【CVD, PVD】真空技術を用いた成膜法 | 【その他】多層膜の計測技術 | 【防食技術, その他】陽極酸化法(TiおよびAl) | 【その他】フェライト系ステンレス鋼の耐食性 |
令和2年度 | 【PVD】PVD(物理蒸着被膜法) 成膜原理と利点・留意点 |
【めっき】電気めっき 原理・特徴・留意点 |
【防食技術】流電陽極方式による電気防食技術 特徴・留意点 |
【その他】腐食促進試験法 手順・内容・留意点 |
令和3年度 | 【溶射】耐熱被膜の溶射法 原理・特徴・注意点 |
【その他】金属材料の表面分析 原理・特徴・注意点 |
【めっき】無電解めっき 原理。特徴・注意点 |
【その他】大気中での腐食環境 3つの分類と特徴 |
令和4年度 | 【CVD, PVD】真空を利用した表面改質技術 原理・特徴・注意点 |
【めっき】金属表面への亜鉛被覆法 原理・特徴 |
【その他】ステンレス鋼の電解研磨 原理・特徴・注意点 |
【その他】ステンレス鋼の分類 (フェライト系・オーステナイト系・マルテンサイト系)の耐食性の特徴 |
表面技術の中身は
- めっき
- 溶射
- CVD(化学気相析出法)
- PVD(物理蒸着被覆法)
- 防食(防錆、洗浄含む)
- その他
でしたね。
上記6つの分類のうち、CVDとPVDは「真空成膜技術」ということでひとくくりにしてジャンル分けしています。
つまり、便宜的に5つの分類とすると、「その他」以外の4つのジャンル(めっき、溶射、真空成膜技術、防食)からは同一年度に複数の出題はありません。
「その他」に関しては同一年度に複数の出題があります。
当然「その他」をより細かく分類することで、このようなことは避けられますが、「表面技術」に関するHP受験案内上の用語や出題傾向から、これ以上の細分化はちょっと難しそうということで、このような分類になっていることご容赦ください。
他の選択科目である「金属材料・生産システム」や「金属加工」に比べ、「その他」からの出題が多い傾向があるのが「表面技術」の出題傾向の特徴。
上記の表を眺めてもいいのですが、より俯瞰的に「表面技術」を捉えるため、マインドマップを見てみましょう。
マインドマップが見づらいという方は、下記のアウトラインをご覧ください。
私はこのようにマインドマップで整理すると頭の中がすっきりするので、よく使っています。
マインドマップはあまり形式に拘らず、「自分の頭の中をどう整理すれば分かりやすいか」という視点で作成すると記憶にも定着しやすいので、上記を参考にご自身でも作成することをお勧めします。
面倒な方は、画像上で「右クリック → 名前を付けて画像を保存」をして、適宜印刷するなりしてご活用ください。
本筋から外れますが、マインドマップについて詳しく知りたい、オススメのアプリが知りたい、という方は下の記事を読んでみてください。
マインドマップは脳内の神経細胞を模したシンプルな記憶術でもあり、思考や情報整理のためのツールです。図の中央に配置したセントラルイメージというキーワードから枝を生やすように関連ワードを紐づけていくものです。記憶の定着を図りたい方、複雑な情報を整理したい方などにぜひ使っていただきたいものですのでこの記事を参考にしてみて下さい。
こうしてマインドマップを眺めてみると、選択科目「表面技術」の全体像が俯瞰的に見えてきますね。
「表面技術」という科目全体をまとめる大分類の中にどのような構成要素やキーワードが盛り込まれているか見えてきました。
やはりこうして見ると、その他に分類される項目が多いことが分かります。
金属表面は直接見ることも触れることもできる部分です。
つまり外界と直接接している要素とも言えます。
そんな表面にまつわる技術という特性柄、様々アプローチからの出題が想定され、メジャーなジャンルには分類できない問題が比較的多くなってしまうと分析できます。
もう少し過去問の傾向をしっかり分析してからでないと、非効率な対策になってしまいます。
そのようなことを避けるために、下の表のように年度ごとに各構成要素についての出題数をまとめています。
問題番号 | CVD |
||||||||
令和元年度 | 【CVD, PVD】真空技術を用いた成膜法 | 【その他】多層膜の計測技術 | 【防食技術, その他】陽極酸化法(TiおよびAl) | 【その他】フェライト系ステンレス鋼の耐食性 | |||||
令和2年度 | 【PVD】PVD(物理蒸着被膜法) 成膜原理と利点・留意点 |
【めっき】電気めっき 原理・特徴・留意点 |
【防食技術】流電陽極方式による電気防食技術 特徴・留意点 |
【その他】腐食促進試験法 手順・内容・留意点 |
|||||
令和3年度 | 【溶射】耐熱被膜の溶射法 原理・特徴・注意点 |
【その他】金属材料の表面分析 原理・特徴・注意点 |
【めっき】無電解めっき 原理・特徴・注意点 |
【その他】大気中での腐食環境 3つの分類と特徴 |
|||||
令和4年度 | 【CVD, PVD】真空を利用した表面改質技術 原理・特徴・注意点 |
【めっき】金属表面への亜鉛被覆法 原理・特徴 |
【その他】ステンレス鋼の電解研磨 原理・特徴・注意点 |
【その他】ステンレス鋼の分類 (フェライト系・オーステナイト系・マルテンサイト系)の耐食性の特徴 |
|||||
合計→ |
より分かりやすくするするため、集計表だけ抜き出します。
年度 | CVD |
||||
選択科目Ⅱ-1は4題与えられ、1題を選択解答する形式です。
令和元年~令和4年における出題頻度順に、各要素技術を並べると、
1位(7.5回):その他
2位(3回):めっき
2位(3回):PVD・CVD
4位(1.5回):防食
5位(1回):溶射
となっています。
ざっと上位から傾向を見てみましょう。
〇その他
「その他」は2位と倍以上の差をつけての堂々の一位。
過去4年間で7.5回の出題です。
選択科目Ⅱ-1は4問から1問選択する形式ですので、単純計算で7.5回/ 4年間=1.875回/年となります。
各年度最低1問、多ければ2問出題ということで超頻出です。
では、『「その他」に重点を置いた対策を行えばいいのか!』となると単純にそうはいきません。
理由は簡単。
「その他」だからです。
もう一度、上記の表やマインドマップを見てみてください。
「その他」に分類した内容が多岐に渡ることが分かります。
「その他」は「めっき、PVD・CVD、溶射、防食以外の全て」ということになりますので、あらゆる要素技術をひとくくりにしてしまっています。
なかなか出題内容を絞り込めないのが実情です。
例えば、その他に分類した「陽極酸化」や「腐食促進試験」などを一生懸命勉強したところで、全くかすりもしない、なんてことは容易に起こり得ます。
ただ、敷いて言えば「ステンレス鋼」は「その他の中でも頻出」と言えるかもしれません。
過去4年間の実績で言うと、ステンレス鋼関連の出題は、その他の分類の中では、3回/7.5回 = 40% と比較的高い出題率となっています。
「その他」の中で敢えて力を入れて勉強するなら「ステンレス鋼」でしょう。
- ステンレス鋼の分類(マルテンサイト系、オーステナイト系、フェライト系、析出硬化系、二相ステンレスなど)
- 電解研磨
- 鋭敏化など、熱処理や溶接時の留意点
- 適用例
などについてまとめておくといいでしょう。
〇めっき
「めっき」は2位にランクインしています。
めっき技術の歴史は古く、現代でもその適用範囲は広く、超重要な表面処理技術ですので、まさに「表面技術界の花形」と言っていいでしょう。
過去4年間で3回の出題ですので、3回/4年間 = 75%の確立で出題されています。
表面技術の中で得意分野を確立したいとなった場合、まっ先に手を付けるべきは「めっき」と言えます。
- 工業的なめっきの手法(電解無電解など)
- めっき膜の材料別の特徴(Ni, Cr, Zn, Sn, Au, Ag, Rhなど)
- めっき膜の評価手法(膜厚、物性)
- めっきの適用例
などについてまとめておくといいでしょう。
〇PVD・CVD
「PVD・CVD」も「めっき」と並んでの2位になります。
過去4年間で3回の出題ですので、3回/4年間 = 75%の確立で出題されています。
PVDやCVDは真空成膜技術であり、工具や金型などへの硬質膜の成膜や半導体デバイスなど適用範囲が広がっており今後ますます重要度が増す表面技術です。
膜の材料としては基本的にはターゲットと呼ばれるバルク材や粉末状などの固体材料がベースで、それらを物理的・化学的に気相状態にして真空中で基材に成膜を行っていく点がめっきと大きく異なります。
また、チャンバー内に特定のガスを導入することで酸化膜や窒化膜などの生成も可能となり、セラミックス膜を得ることもできます。
成膜条件を制御し極薄膜としたり、多層化して傾斜機能を持たせることもできることなどから応用範囲が広がっています。
このような背景を踏まえたうえで、
- 気相蒸着法の原理
- 材料別の特徴
- 膜の評価手法
- 適用例
などにてういてまとめていくといいでしょう。
〇防食
「防食」は2位と比べて半分の出題率での3位となります。
過去4年間で1.5回の出題ですので、1.5回/4年間 ≒ 38%の確立で出題されています。
1.5回のうち、0.5回は「陽極酸化」からのカウントとしており(陽極酸化は耐食性の向上という目的もあることから)、防食というキーワードドンピシャではありません。
「電気防食技術」など、防食というキーワードが含まれる出題は過去4年間で1問のみとなります。
ここで一度、「防食」の言葉の意味を確認しましょう。
日本大百科全書(ニッポニカ)によると、
「金属の腐食を防止すること。金属製の装置や構造物の腐食は、
- 金属材料に関係する因子、使用環境に関係する因子
- 機械的応力に関係する因子
- 装置の構造に関係する因子
などの複雑な組合せによって生ずるので、防食においてはこれらの因子のうちの一つかあるいは複数を制御することが行われる。」
と定義づけられ、非常に幅広い意味を持ちます。
ですので、本来は「陽極酸化」はもとより、用途によっては「めっき」や「PVD・CVD」、「溶射」なども防食技術の1つと言えます。
また、ステンレス鋼、アルミニウム合金、チタン合金といった耐食材料を適用することも防食技術に含まれます。
そのような事から、見掛け上出題率が低く見える「防食」ですが、他のジャンルを勉強すると必然的に防食技術について学ぶことにつながりますので、実際は出題が多いと言えます。
試験対策としては敢えて、「防食」を意識する必要はないということになります。
強いて言えば、材料そのものというより、外部環境を電気的に制御して腐食を防止する「電気防食」については一度まとめてみるといいでしょう。
簡単に「電気防食」とは、たとえば鉄(Fe)に対し、AlやZnといったイオン化傾向が大きい(腐食しやすく錆やすい)材料を接触(めっき)して鉄を守る犠牲防食技術の1つです。
〇溶射
「溶射」は、選択科目「表面技術」のうち出題率は最下位となっています。
過去4年間のうち1問の出題となっており、1回/4年間 = 25% の出題率となっています。
結論として、試験対策としては敢えて力を入れて勉強するジャンルではないと言えるでしょう。
また、「その他」や「防食」と違って、「溶射」は特定の要素技術に限定されており解釈の幅も狭いため、溶射について勉強したことが他のジャンルに応用できる要素もあまりありません。
「溶射」を仕事で行っている、あるいは得意ジャンルという方は非常に残念ですが、「めっき」や「PVD・CVD]といった頻出ジャンルの勉強に力を注ぎましょう。
ただ、「溶射」は産業界で幅広く利用されている表面改質技術です。
金属やセラミックスの溶射材料を、様々な熱源で溶融・軟化させて加工対象物に吹き付ける技術です。
溶射材料は瞬時に冷却・固化し被膜を形成します。
基材は鉄鋼材料に限らず、アルミニウム合金、ニッケル基合金などの非鉄金属、CFPRなどの非金属も可能となっています。
ニーズや適用範囲は広がっている重要な技術ですので、必須科目Ⅰや選択科目Ⅲの対策としては溶射について理解を深めることも重要であることは言うまでもありません。
以上、ざっくりと選択科目「表面技術」における選択科目Ⅱ-1の出題傾向を分析しました。
受験者の方はご自身の専門や得意分野、あるいは業務内容と照らし合わせながら、傾向を加味しつつ慎重に選ぶ必要のある選択科目。
特に、Ⅱ-1はストレートに専門知識が問われる反面、ごまかしがきかないので、本当に解答できそうか想像しながら過去問と睨めっこしてみましょう。
過去問からの出題傾向の分析|選択科目Ⅱ-2より
選択科目Ⅱ-2(2枚問題)についても過去問をしっかり分析していきましょう。
選択科目Ⅱ-2で問われるコンピテンシーは
- 専門的学識
- コミュニケーション
- マネジメント
- リーダーシップ
の4つで、2枚問題(600字詰め原稿用紙2枚分)となります。
特に、「マネジメント」と「リーダーシップ」が問われるという点がⅡ-2の最大の特徴とも言えます。
どのようにこれらのコンピテンシーを盛り込んで記述すればいいか、についてはこちらの記事を参考にしてください。
専門的学識とコミュニケーションしか問われない選択科目Ⅱ-1(1枚問題)と比較し、専門知識外の要素が問われる分、きちんと対策すれば書きやすいのがⅡ-2とも言えます。
ただ、必須科目Ⅰや選択科目Ⅲなどの3枚問題とも違い、「マネジメント」を表現するに当たり実務的な経験が問われる側面があるので、注意が必要です。
また、選択科目Ⅱ-2は2問出題されて、1問選択する形式です。
これまで見てきたように、「表面技術」のジャンルも多岐に渡る中で、2問しか出題されないわけです。
自分の得意ジャンル・実務経験のあるジャンルがその2問に含まれていない可能性は結構高い、ということです。
より一層、過去問分析をして、傾向に沿った対策をしないと痛い目に遭いそうです。
それでは、令和元年~令和4年の試験データを元に分析をしていきましょう。
過去問の元データについては、技術士会のHPにありますので、そちらを参考にしています。
選択科目「金属加工」のⅡ-2過去問より、出題分野の中分類【赤字】とキーワードを一覧表にするとこんな感じ。
問題番号 | めっき | 溶射 | PVD cvd |
防食 | その他 | ||
令和元年度 | 【CVD】DLCダイヤモンドライクカーボン | 【めっき】湿式めっき(基板の配線微細化) | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 |
令和2年度 | 【溶射】溶射 設備の長寿命化・耐熱性 |
【防食】塗装された鋼道路橋の補修 亜熱帯・海浜地域での腐食劣化 |
0 | 1 | 0 | 1 | 0 |
令和3年度 | 【めっき】プリント基板の銅めっき 欠陥の原因と対策 |
【その他】ステンレス鋼 配管の腐食と漏水・補修 |
1 | 0 | 0 | 0 | 1 |
令和4年度 | 【溶射】溶射による低摩擦コーティング 高効率化のための自動車エンジンのシリンダー内壁 |
【その他】太陽光パネルの架台 材料選定から設置まで |
0 | 1 | 0 | 0 | 1 |
2 | 2 | 1 | 1 | 2 |
ここで一度、日本技術士会から公式に示されている「表面技術」の出題範囲を見直してみましょう。
【表面技術】
めっき、溶射、CVD(化学気相析出法)、PVD(物理蒸着被覆法)、防錆、洗浄、非金属被覆、金属防食その他の金属の表面技術に関する事項
となっています。
より分かりやすくするため、箇条書きにして表現しましょう。
- めっき
- 溶射
- CVD(化学気相析出法)
- PVD(物理蒸着被覆法)
- 防食(防錆、洗浄含む)
- その他
となります。
この切り口で、過去問からの出題傾向を見てみましょう。
上の表からキーワードだけ抜き出し、下の表のように年度ごとに各構成要素についての出題数をまとめています。
問題番号 | めっき | 溶射 | PVD cvd |
防食 | その他 | ||
令和元年度 | 【CVD】 | 【めっき】 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 |
令和2年度 | 【溶射】 | 【防食】 | 0 | 1 | 0 | 1 | 0 |
令和3年度 | 【めっき】プリント基板の銅めっき 欠陥の原因と対策 |
【その他】ステンレス鋼 配管の腐食と漏水・補修 |
1 | 0 | 0 | 0 | 1 |
令和4年度 | 【溶射】溶射による低摩擦コーティング 高効率化のための自動車エンジンのシリンダー内壁 |
【その他】太陽光パネルの架台 材料選定から設置まで |
0 | 1 | 0 | 0 | 1 |
2 | 2 | 1 | 1 | 2 |
いかがでしょう。
傾向を掴むほどデータが多くないのが正直なところですが、どのジャンルが多い、少ないといった傾向はほぼ見られませんね。
結論として、どのジャンルに力を入れて対策したらいいかは何とも言えない、ということになります。
強いて言えば、「めっき」や「溶射」に重きを置くと言えます。
それでは、選択科目Ⅱ-2して、具体的にどのような問題が出ているか見ていきましょう。
〇めっき
過去4年中、2回出題の「めっき」。
2年に1回は出るという計算で、出題率は50%となります。
過去の出題を見てみると、
- 湿式めっき × 基板の微細配線化
- 銅めっき × プリント基板
といったキーワードとなっています。
ベーシックな基礎知識を問う選択科目Ⅱ-1と異なり、より具体的な場面が設定されています。
両者に共通するキーワードが「基板」です。
プリント基板(電子回路基板)のことを指します。
めっきは工業的に様々な分野で使われる技術ですが、なぜ「基板」に絡めた出題をするのか、このように分析できます。
- プリント基板を含めたエレクトロニクス分野は、今後ますます発展していく産業である
- エレクトロニクス分野の発展において、めっきの微細化や信頼性向上は要素技術である
- 開発要素の大きいプリント基板におけるめっき技術は、選択科目Ⅱ-2で重要な「マネジメント」「リーダーシップ」を問いやすい
というこです。
めっきは詳しいけど、プリント基板については経験がない、などという受験生は、この機会に「プリント基板」についても理解を深めておくといいでしょう。
具体的には問題にあるように、
- 微細配線化
- 信頼性向上(欠陥の原因と対策)
といった観点でキーワード学習を進めるといいでしょう。
〇溶射
過去4年中、2回出題の「溶射」。
2年に1回は出るという計算で、出題率は50%となります。
過去の出題を見てみると、
- 溶射 × 長寿命化・耐熱性
- 溶射 × 低摩擦・シリンダー
といったキーワードとなっています。
ベーシックな基礎知識を問う選択科目Ⅱ-1と異なり、より具体的な場面が設定されています。
「なぜ」高耐熱で長寿命化なのか、「なぜ」低摩擦でシリンダーに応用されるかといった周辺情報へのアプロ―チも重要になるのが選択科目Ⅱ-2です。
- 基材と異なる特性の被膜を「溶射」によって成膜する目的
- 得られる溶射被膜の物理・化学的特性
- 成膜前後における留意事項
- 代表的な溶射被膜の欠陥例と評価方法
- 基材側に求められる条件
- 適用例
このような視点で、キーワード学習を進めつつ、開発時におけるマネジメントとどう絡めるかを意識して対策するといいでしょう。
〇PVD・CVD
過去4年中、2回出題の「PVD・CVD」。
2年に1回は出るという計算で、出題率は25%となります。
PCD(Physical Vapor Deposition)とCVD(Chemical Vapor Deposition)は物理的か化学的かという違いはあれど、「真空蒸着技術」という点で共通しています。
そのため、集計上はひとくくりにしています。
出題内容を見てみると、
という出題となっています。
ポイントとして
- 真空蒸着技術ではなく、PVDというところまで特定していること
- 被膜の材質をDLCに限定している
ということです。
当然、今後の出題についてはPVDやDLCについて出題されるという事ではありません。
このように、的を絞った出題の可能性があり得るという事です。
このことから、
「CVDについては経験もあるし詳しいけど、PVDについては全く知らなかった。」
「TiNなどのセラミックスコーティングは得意だけど、DLCについては全く知らなかった。」
といったことがないように、
- 真空蒸着技術としてPVDやCVDを網羅的に理解しておくこと
- PVDやCVDで製膜できる代表的な被膜材料の種類と適用例を系統的にまとめておく
といったことをしないと本番の試験で太刀打ちできない可能性が高いという点に注意が必要です。
〇防食
過去4年中、2回出題の「防食」。
2年に1回は出るという計算で、出題率は25%となります。
そもそも防食とは、前にも触れた通り、金属材料の腐食の要因として、
- 金属材料に関係する因子
- 使用環境に関係する因子
- 機械的応力に関係する因子
- 装置の構造に関係する因子
などの複雑な組合せによって生ずるので、防食においてはこれらの因子のうちの一つかあるいは複数を制御すること、と定義できます。
つまり材料・環境・構造の面からのアプローチ全般になりますので、幅広い要素を含んでいます。
過去の出題内容を見てみると、
という、まさに「材料 × 構造 × 環境」という要素を含んだ切り口で問題が構成されていることが分かります。
防食技術の1つとして「塗装」がやはり1つのキーワードになります。
なぜなら、他の要素技術(めっき、PVD、CVD、溶射など)のどれにも該当しないからです。
塗装には、金属を外部から守るという役割があります。
裏を返せば、金属材料は外部環境から守ってあげないと腐食の恐れがあるということです。
また、防食技術には「塗装」、「電気防食」、「陽極酸化」など様々な方法があります。
それらの防食技術の
- 原理
- 処理方法
- 適用例
について一通りキーワード集を作成し、まとめておくといいでしょう。
また、選択科目Ⅱ-2ではマネジメントが問われます。
そのような観点から、
- 処理・施工上の留意点と工夫点
- 外部環境の腐食要因等の調査
- 検査方法
- 現場作業者の技能的な教育(特に塗装などの手作業となる工程は技能が重要)
等についても意識してまとめておくことをオススメします。
〇その他
過去4年中、2回出題の「その他」。
2年に1回は出るという計算で、出題率は50%となります。
もちろん、統計値を得るにはデータが少なく、あくまで参考程度にしかなりませんが、2年に1回は出るという事はそれなりに意識した対策を行うのがベター。
とはいえ、「その他」ですからカテゴリが絞り込みにくいのは事実。
では、どのような問題が出ているか見てみましょう。
過去の出題から、
- ステンレス鋼 × 配管補修
- 太陽光パネル架台 × 材料選定
といった内容が出題されています。
「ステンレス鋼」については選択科目Ⅱ-1同様、「その他」の分類からは比較的よく出題のあるテーマ。
過去4年間のうち1問出題があるという事は、選択科目Ⅱ-2でも比較的重要と位置付けられているキーワードであることがうかがえます。
また、「補修」というのも見落としてはならないキーワード。
補修作業は、一度つくった製品が経年劣化もしくは製造上の原因で欠陥が見つかり、改めて使える状態にする、または信頼性を向上させるために行う作業と言えます。
選択科目「金属加工」でも、「補修溶接」は選択科目Ⅱ-2問題としては、比較的ネタにしやすいとほかの記事で解説しています。
「表面技術」的にもそれは同様と分析できます。
「マネジメント」や「リーダシップ」が問われる選択科目Ⅱ-2。
一度製造した製品を「補修」などを行って長期的に維持管理していくプロセスにはストーリー性があり、マネジメントやリーダーシップの要を盛り込みやすいのです。
また、「太陽光パネル × 材料選定」という出題もあります。
正直このような出題については、今後どのような切り口で出題されるか予測できないため、ピンポイントでこの出題に対する対策をする必要はありません。
つまり、太陽光パネル自体の知識を深める意味はあまりないと言えます。
ただ、抽象化して捉え直す必要があります。
「太陽光パネル ⇒ 屋外設置 ⇒ 光・熱・冷気・雨・雪・潮風.etc ⇒ 物理的・化学的刺激 ⇒ 腐食促進・強度低下 ⇒ 腐食防止・補修技術」
という要領で連想ゲームを行いましょう。
その1つ1つの過程の中に関連する要素技術を整理していくことで、例えば
- 海上構造物 × 材料選定
- 道路建築物 × 材料選定
- 化学プラント × 材料選定
など、あらゆる角度からの出題に対しても応用が利く知識が体系的に整理されます。
以上のように、「その他」からの出題はジャンルの絞り込みが難しいですが、強いて言えば、
- ステンレス鋼
- 特殊環境 × 材料選定
このような切り口でマネジメント(リソースの配分)を意識しながら知識を整理することが試験対策とし有効です。
参考文献
この記事だけでは到底細かな専門知識についてフォローしきれないのが正直なところ。
それじゃ、どのように知識をつけていけばいいのか。
他の資格試験と異なり、技術士二次試験については「これだけ読んでおけばOK」と言えるような網羅的で系統だった書籍というのはなかなかないのが実情。
ただ、各ジャンルに絞れば、分かりやすく系統立った良書はあります。
もちろん、最新技術などは学会誌やネットの情報等に頼る部分もありますが、専門書でベースを固めておくことは重要!
それでは各要素技術ごとに参考書籍を紹介いたします。
もちろん全部読む必要はありません。
ご自身に必要な部分のみ手に取ってみていただけると大変参考になりますよ。
〇めっき分野
著書名:トコトンやさしいめっきの本
著者名:榎本 英彦
とにかく分かりやすい、トコトンやさしいシリーズ。
初学者にも知識がある方にもお勧めしたい一冊。
基礎的・網羅的に知識を固めるにはもってこいの良書です。
著書名:設計現場で役立つめっきの基礎とノウハウ
著者名:岡村康弘
より実践的で、現場で即使える知識を体系化した本ならこちら。
めっき技術の適用範囲、品質管理手法、不良モード、高品質化、環境への影響、各めっき技術の各論などを詳しく解説。
基礎知識に+α付け加えたい方にはおすすめの一冊。
〇溶射分野
著書名:溶射技術とその応用―耐熱性・耐摩耗性・耐食性の実現のために
著者名:園家 啓嗣
溶射に関する書籍は実はそんなに多くないというのが実情。
そんな中でもこの本は溶射法の種類,溶射材料とプロセス,皮膜の評価法などについて具体的に解説されています。
また技術をどう実際の装置・機械に適用し製品に応用するかを,図解でわかりやすく記述されています。
〇真空蒸着技術(PVD・CVD)分野
著書名:はじめての薄膜作製技術
著者名:草野英二
入門書としてはもちろん、ある程度知識のある方にもおすすめしたい一冊。
PVD(物理気相蒸着法)、CVD(化学気相蒸着法)はもちろん、薄膜形成の基礎から応用まで詳しく解説。
評価技術や適用例まで幅広く網羅しており、この一冊だけでも十分学べます。
著書名:薄膜工学
著者名:日本学術振興会薄膜第131委員会 編集企画、金原 粲 監修、吉田 貞史 編著、近藤 高志 編著
日本学術振興会薄膜131委員会のサマースクールの内容を元に「薄膜」という幅広い分野を平易に解説した教科書ともいえる一冊。
専門分野の基礎の再確認と隣接分野の理解に最適です。
改訂により、基本を重視した教科書としての価値を高めるとともに、半導体など新規の技術についての解説もアップデートされています。
〇防食分野(防錆、洗浄含む)
著書名:実務に役立つ腐食防食の基礎と実践 - 土壌埋設パイプラインISOポイント解説 –
著者名:梶山文夫
腐食の原理、電気的な防食技術、自然腐食、微生物腐食など、あらゆる環境で起こりうる腐食現象について詳しく解説。
土壌埋設パイプラインとありますが、それ以外の場面でも応用できるカソード防食についても分かりやすく書かれています。
基礎から実践までじっくり学べる良書です。
著書名:材料環境学入門
著者名:腐食防食協会(編纂)
腐食防食の実践的入門書ともいえるこの一冊。
金属材料の腐食反応の特徴と形態、材料毎の特性や水質や温度、酸アルカリなどの環境に起因する影響などが鋼材を中心に平易に解説。
また、防食技術に関しての考え方と設計、そしてその診断方法について概説されています。
さらに、は腐食・防食に共通する電気化学が平衡論から測定法まで簡潔にまとめられています。
〇その他
表面技術関連の「その他」は守備範囲が広く、ジャンルを特定しずらいのが実際のところ。
そんな中でも、「ステンレス鋼」は比較的頻出と言えるジャンル。
ステンレス鋼について、理解を深める参考書を携えておくことは重要です。
著書名:図解入門よくわかるステンレスの基本と仕組み
著者名:飯久保 知人
ステンレスの用途・耐食性・特性・種類・製造方法・加工法について基礎からわかりやすく解説しています。
初学者はもちろん、基礎知識のある方にとっても十分知識の補充として使える良書です。
著書名:ステンレス(現場で生かす金属材料シリーズ)
著者名:橋本政哲
ステンレスの歴史から規格、利用の実際、加工法までを詳しく解説。
技術者・研究者にとっても学びの深いテキスト。
現場でよくステンレスを使う人にとっても実践的で使い倒せる一冊。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
技術士二次試験の金属部門の選択科目の1つである「表面技術」について、過去問の出題傾向や対策を行う際の留意点を見てきました。
最後にさらっとおさらいしましょう。
- はじめに
- 金属加工を構成する要素技術
- 過去問からの出題傾向分析|選択科目Ⅱ-1より
- 過去問からの出題傾向分析|選択科目Ⅱ-2より
- 参考書籍
金属部門には3つの選択科目「金属材料・生産システム」、「表面技術」、「金属加工」があります。
選択科目である「表面技術」は金属材料の表面に特定の機能性を付与するための成膜・コーティング技術やその評価法などを問うのが特徴です。
ベース(基材)としての製品や材料があっての+αとしての表面技術であることから、比較的最終製品に近い工程を担う技術であるとも言えます。
表面技術を構成する要素には、
めっき、溶射、CVD(化学気相析出法)、PVD(物理蒸着被覆法)、防錆、洗浄、非金属被覆、金属防食その他の金属の表面技術に関する事項
が指定されています。
令和元年~令和4年における出題頻度順に、各要素技術を並べると、
1位(7.5回):その他
2位(3回):めっき
2位(3回):PVD・CVD
4位(1.5回):防食
5位(1回):溶射
となっています。
過去4年分の出題傾向からは、どのジャンルが多い、少ないといった傾向はほぼ見られません。
結論として、どのジャンルに力を入れて対策したらいいかは何とも言えない、ということになります。
強いて言えば、「めっき」や「溶射」に重きを置くと言えます。
表面技術を勉強する上で、各ジャンルごとに参考書籍を紹介。
良書を携えておくことで学習効率はアップしますので、ぜひ手元に置いておきましょう。
以上
コメント