はじめに
技術士二次試験の選択科目をどう選ぶかは大変重要な問題です。
金属部門には3つの選択科目「金属材料・生産システム」、「表面技術」、「金属加工」があります。
この記事では、「金属材料・生産システム」にフォーカスして解説をします。
令和元年度の制度改正以降の内容に対応しておりますので、これから受験、是非参考くしてください。
この記事はこんな人に読んでほしい内容です。
- 技術士一次試験(金属部門)受験の方
- 技術士二次試験(金属部門)受験の方
- 技術士に興味はないけど、金属について勉強している方
選択科目「金属材料・生産システム」の特徴として、他の2つの選択科目より、内容の絞り込みがやや難しい側面があります。
一つの捉え方ですが、金属材料・生産システムは幅広い”「金属」という部門の中で表面技術と金属加工を除いた部分”とも言い換えられます。
また、令和元年度以降の試験制度改正により、以前の「鉄鋼生産システム」、「非鉄生産システム」、「金属材料」が、改正後に「金属材料・生産システム」に統合されています。
科目の統合に関しては、こちらの記事を参考にしてください。
ちょっと守備範囲が広く感じる選択科目「金属材料・生産システム」ですが、過去問から傾向をしっかり掴んで対策すれば十分、短期間での対策は可能です。
臆さず臨みましょう!
金属材料・生産システムを構成する要素技術
選択科目「金属材料・生産システム」(大分類)を構成する中身(中分類)は以下の5つです。
- 製造方法
- 材料設計
- 材料試験
- 分析測定
- その他
これを見ると、金属材料の「製造方法」、「特性」、「評価方法」の3つの軸に分類できそうですよね。
〇製造方法について
ここで言う「製造方法」とは、モノづくりのサプライチェーンの流れの中でも上流域の製造方法になります。
つまり、別科目で扱う「金属加工」の鋳造や溶接といった製品としての付加価値を見出す加工というよりは、もっと素材(源流)に近い精錬や、ビレットといった中間鋳造品の状態までを指しているのが特徴です。
〇特性について
金属材料の特性を決定づける因子やその制御方法に関するメカニズムを問うような内容を扱っています。
状態図・組織・強化機構・電気伝導度などの物性といった金属材料としての特性がどのような原理で発現するかといった視点が問われる内容です。
選択科目「金属材料・生産システム」の中分類項目である「材料設計」が、この「特性」という軸に当てはまります。
例えば、既存製品の高強度化を「材料設計」という観点で考えると、軽量化も重要なのか、重くてもいいからとにかく強さが必要なのか、耐熱性も必要なのか、検討が必要です。
金属材料の強化機構が種々ある中で、どの機構を採用するかなどは、まさに材料設計で盛り込むべき視点ですね。
〇評価方法
金属材料の各物性の試験・分析などの評価方法についてです。
材料試験などの機械的性質の評価、成分分析、組織試験、結晶構造解析がそれにあたります。
選択科目「金属材料・生産システム」の出題範囲はこの3つの軸にぴったり当てはめやすい内容となっています。
範囲が広すぎて手が付けられない、出題範囲の内容の解釈が幅広すぎて特定できない、といった場合は大まかな軸をベースに分類すると見通しが良くなりますよ!
過去問からの出題傾向分析|選択科目Ⅱ-1より
何事も、「敵を知り己を知れば百選危うからず」。
これは資格試験も同じこと。
ということで過去問をしっかり分析していきましょう。
まずは、令和元年度から令和4年度までの過去問のうち選択科目Ⅱ-1、いわゆる1枚問題の過去問から見ていきます。
過去問の元データについては、技術士会のHPにありますので、そちらを参考にしています。
選択科目「金属材料・生産システム」のⅡ-1の過去問より、出題分野の中分類【赤字】とキーワードを一覧表にするとこんな感じ。
問題番号 | ||||
令和元年度 | 【材料設計】二元系合金状態図 全率固溶型、共晶型、包晶反応型、偏晶反応型 |
【製造方法】エリンガム図 酸化物と接合界面、金属精錬プロセス |
【材料試験】引張試験 SS曲線、加工硬化指数、公称と真の違い |
【分析】金属材料の分析 X線、電子、中性子を用いた測定法 |
令和2年度 | 【製造方法】化学ポテンシャル図の活用 硫化鉱(銅)、クロール法(チタン)、鉄鋼(浸炭)、チタン合金(表面窒化) |
【材料設計】金属材料の強化方法 転位論と実現プロセス |
【材料設計】構造材料 鉄鋼材料、アルミニウム合金、チタン合金、マグネシウム合金、ニッケル基合金 |
【その他】レアメタル レアメタルが材料中で果たす役割と代替元素 |
令和3年度 | 【製造方法】金属材料の製造プロセスにおける反応の律速段階 見掛けの反応速度を増大する方法 |
【その他】金属材料の脆性破壊と延性破壊 低温脆性と遅れ破壊感受性の定量評価法 |
【材料設計】合金の電気伝導度 影響を与える因子と電気伝導度改善方法 |
【その他】結晶構造と化学組成 測定法の原理と特徴 |
令和4年度 | 【製造方法】鋳造・圧延による薄板製造 溶融金属中の非金属介在物の低減法 |
【その他】疲労破壊と高温クリープ破壊 機構・評価方法・対策 |
【材料設計】金属の水素貯蔵への活用 水素吸蔵合金 or 貯蔵容器材料 より高効率な水素貯蔵の材料設計指針 |
【材料設計】2元系共晶反応型状態図 亜共晶組成の冷却過程における凝固開始直後、共晶温度直前、共晶温度直後の組織図示 |
この表を何となく眺めてしまうと様々な分野から出題があり、面食らってしまい対策の筋道が立てづらいですね。
ここで一度、日本技術士会から公式に示されている「金属材料・生産システム」の出題範囲を見直してみましょう。
【金属材料・生産システム】
金属材料の製造方法、設備及び管理技術並びに構造材料・機能材料等の材料・製品設計、複合化、材料試験、分析、組織観察その他の金属材料に関する事項
となっています。
より分かりやすくするため、箇条書きにして表現しましょう。
- 製造方法
- 材料設計(構造材料・機能材料含む)
- 材料の評価(材料試験・分析・組織観察)
- その他
となります。
上記の箇条書きでまとめた中に、「設備及び管理技術」「製品設計」という文言が入っていませんが、これらの点はあまり気にしなくて大丈夫です。
恐らく、数年に1問程度設備や製品設計に絡む問題が含まれることもあるかもしれませんが、金属部門を受ける皆さんはあまり専門ではないというか、特異な部分ではないことがほとんどでしょう。
そのような部分まで意識して対策しようとしてしまうと収拾がつかず、非効率な対策になってしまうため、結論として、箇条書きで示した4つの視点でまとめるといいでしょう。
その4つの軸をベースにマインドマップを作成するとこんな感じです。
見づらいという方は、こちらの系統図をご参照ください。
このマインドマップでは、先ほどの4つの軸のうち便宜上「材料の評価」を材料試験と分析測定法に分けていますが、この辺はお好みで構いません。
マインドマップはあまり形式に拘らず、「自分の頭の中をどう整理すれば分かりやすいか」という視点で作成すると記憶にも定着しやすいので、上記を参考にご自身でも作成することをお勧めします。
面倒な方は、画像上で「右クリック → 名前を付けて画像を保存」をして、適宜印刷するなりしてご活用ください。
マインドマップについて詳しく知りたい方はこちら
こうしてマインドマップを眺めてみると、範囲が絞り込めず掴みどころがなさそうな選択科目「金属材料・材料システム」の全体像が見えてきますね。
「金属材料・生産システム」という科目全体をまとめる大分類の中にどのような構成要素やキーワードが盛り込まれているか見えてきました。
「んじゃ、試験対策としてこれらのキーワードについてしらみつぶしに勉強を進めていけばいいのか!よしやるぞ!」
と思った方、ちょっと待ってください!
もう少し過去問の傾向をしっかり分析してからでないと、非効率な対策になってしまいます。
そのようなことを避けるために、下の表のように年度ごとに各構成要素についての出題数をまとめています。
令和元年度 | 【材料設計】二元系合金状態図 | 【製造方法】エリンガム図 | 【材料試験】引張試験 | 【分析】金属材料の分析 | |||||
令和2年度 | 【製造方法】化学ポテンシャル図の活用 | 【材料設計】金属材料の強化方法 | 【材料設計】構造材料 | 【その他】レアメタル | |||||
令和3年度 | 【製造方法】反応の律速段階 | 【その他】脆性破壊と延性破壊 | 【材料設計】電気伝導度 | 【その他】結晶構造と化学組成 | |||||
令和4年度 | 【製造方法】鋳造・圧延 | 【その他】疲労破壊と高温クリープ | 【材料設計】金属の水素貯蔵 | 【その他】共晶反応型状態図 | |||||
より分かりやすく、集計表だけ抜き出してみましょう。
令和元年度 | |||||
令和2年度 | |||||
令和3年度 | |||||
令和4年度 | |||||
選択科目Ⅱ-1は4題与えられ、1題を選択解答する形式です。
5つの分類から満遍なく4題出題される年もあれば、偏っている年もあります。
5つの分類「製造方法」、「材料設計」、「材料試験」、「分析測定」、「その他」のうち、
- 製造方法
- 材料設計
- その他
からの出題が多い傾向にあることが分かります。
裏を返せば、「材料試験」や「分析・測定」関連からの出題は少ない(=年度によっては全く出題がない)ことを意味します。
材料試験や分析・測定関係が普段のお仕事で関連が深く詳しい方にはちょっと酷ではありますが、可能性がゼロではないものの、他の3つの分類に重点を置いて対策した方がいいといのが統計上の事実です。
ここはあくまで、試験対策として割り切って
- 製造方法
- 材料設計
- その他
に力点を置いて対策していきましょう。
それでは、具体的にどのような対策を行えばいいのか、各分類ごとにもう少し詳しく解説します。
製造方法
前章でも触れた通り、ここでいう製造方法は「金属材料製造におけるサプライチェーンの上流域での製造方法」になります。
上流域とはどの辺の事を言うのか。
「鉱物などとして採掘された以降の工程~金属加工(鋳造・溶接・熱処理・塑性加工・粉末冶金)以前の工程」
言い換えると、
「精錬・連続鋳造あたりの工程」
と考えて差し支えありません。
この「精錬・連続鋳造あたりの工程」を金属部門的には「生産システム」と表現しています。
ちなみに鉱物などの採掘までさかのぼった工程は別部門である「資源工学部門」の守備範囲に入ってきますので、もはや金属部門の守備範囲ではありません。
(ですが、3枚問題などの環境問題が絡む出題(環境負荷低減やリサイクル名などのテーマ)では金属部門と言えども多少なり鉱物までさかのぼった見識があると武器にはなります)
先ほど示したマインドマップのうち「製造方法」の分類をクローズアップしてみましょう。
先ほど触れた通り、製造方法では「精錬」、つまり鉱物などの状態から不純物を取り除いて素材としての純度を高める工程が製造方法の肝と言っていいでしょう。
純度高める精錬工程において、熱力学的な挙動および化学的な挙動を押さえておく必要があります。
その手段として、実用上重要なツールが、マインドマップでも示されている通り、
- エリンガム図
- 化学ポテンシャル図
などが挙げられます。
エリンガム図は酸化物や窒化物といったガス成分となる元素と、金属元素との結びつきの観点から外部環境によって安定状態がどのように変わるかをグラフで示したものになります。
もう少し正確に言うと、化合物の持つギブスエネルギーの温度や圧力依存性をグラフにしたものになります。
化学ポテンシャル図は特定の元素に着目して、その元素が外部環境によって、どの物質が安定であるかを図式化したものです。
もう少し正確に言うと、例えば鉄などの元素のギブスエネルギーが環境変数(酸素分圧や硫黄分圧など)によってどう変化するかをグラフにしたものになります。
また、精錬といっても非常に幅広く、鉄・非鉄(さらに非鉄と言ってもアルミ・銅・チタンなど様々)ありますね。
もちろん、全部を網羅する必要はありません。
過去問を見る限り、いくつかの金属元素が与えられて、そこから選択できるような形式になっていることが殆どです。
自身の業務などに関連の深い金属元素の精錬方法について、しっかりと知識を強化しておくようにしましょう。
以下に、「製造方法」に関連してオススメする参考文献を4つ示します。
4つも紹介されても困る、どれから手を付けていいのか分からない。
という方は、シリーズの第1巻「金属物理化学」、これだけでもいいので手元に置いておいてください。
エリンガム図や化学ポテンシャルなどの基礎的な内容がしっかりと解説されいてます。
是非ご参考に!
金属化学入門シリーズ1
「金属物理化学」 発行:社団法人 日本金属学会
金属化学入門シリーズ2
「鉄鋼製錬」 発行:社団法人 日本金属学会
金属化学入門シリーズ3
「金属製錬工学」 発行:社団法人 日本金属学会
金属化学入門シリーズ4
「材料電子化学」 発行:社団法人 日本金属学会
材料設計
日本技術士会が公式に発表している選択科目「金属材料・生産システム」の出題範囲の中に、「設備及び管理技術並びに構造材料・機能材料等の材料・製品設計」という表現があります。
この範囲をまとめて、「材料設計」と表現することとします。
とは言え、設備や製品そのものの設計問う観点からの出題はあまりありませんので、主に「材料設計という軸がある」と捉えておきましょう。
材料設計は、ある目的を達成するために「どのように材料を作り込むか」と言い換えられます。
つまり、目的の機能を材料に持たせるためのメカニズムについて問われる、ということです。
それでは「材料設計」とは具体的にどのような事を指し、どのような出題があるのかを見ていきましょう。
下に先ほど示したマインドマップのうち「材料設計」の分類をクローズアップします。
誤解の内容に先に申し上げると、このマインドマップの内容が一般的な材料設計言われる範囲を網羅するものではありません。
あくまで、金属部門の金属材料・材料システムの選択科目の過去問の傾向から分類すると、このような出題内容になっているということです。
材料設計の中身を大きく分類すると、
- 状態図
- 構造材料
- 機能材料
となっています。
材料設計の中身を全部網羅していないとは言いましたが、概ね上記の3つの軸として捉えておくと整理しやすいのは間違いありません。
以下、各内容について少し詳しく解説します。
状態図
金属部門の受験志望者は「状態図」を知らないことはないと思いますが、念のため簡単に説明すると、
「ある物質の状態が外的な因子によってどのように変化するかを図式化したグラフ」と言えます。
物質の状態というのは、一言で言うと相(phase)です。
つまり、気体なのか、液体なのか、固体なのか、固体だとしてどのような固体なのか(結晶構造や化合物状態など)、といった状態のことを指します。
外的な因子とは、温度・圧力・第2元素(第3元素)が挙げられます。
このように、外的因子を縦軸や横軸にとり、物質の状態変化を表したものが状態図ですね。
状態図は一般的に「平衡状態図」を指すことが殆どです。
“平衡”とは、「その環境に十分保持持して安定な状態」を意味します。
例えば、高温状態のものを急激に冷やしたりすると、過冷却現象などが起こり平衡(安定)な状態とは異なる特有の挙動を示します。
このような「非平衡(不安定)状態は扱わない」というのが平衡状態図と理解しておきましょう。
また、一元系、二元系、三元系などがあります。
それぞれの意味については専門書籍を当たってもらいたいのですが、技術士試験においては「二元系(平衡)状態図」を押さえておけばまぁ十分と言えるでしょう。
二元系とは、元素が2つという意味です。
代表的なものにFe-C系状態図などがありますが、実に様々な二元系状態図があります。
状態図の代表例や解釈の仕方などについては須藤一氏らが著した「金属組織学」をお勧めいたします。
著書名:「金属組織学」
著者:須藤一ら
二元系状態図については、
- 全率固溶型
- 共晶型
- 共析型
- 包晶反応型
- 偏晶反応型
などがあります。
それぞれの型についての代表的な合金例や、その特性を生かした実用例などについて押さえておくといいでしょう。
構造材料
構造材料とは、建物、橋、船、鉄道、道路、港湾など広くインフラに使われる材料を指すことが多いですが、ここでは機械構造物の筐体やフレームといった工業製品にも幅広げて考えましょう。
もう少し平たく言うと、機械的な強度や耐久性が要求される材料と言えます。
材料設計・製品設計と絡めた出題となります。
ポイントとしては、「金属材料の強化機構」、「製品設計の材料的なアプローチ」となります。
金属材料の強化機構をいくつか挙げます。
- 固溶強化
- 結晶粒微細化
- 析出強化
- 分散強化
製品設計の材料的なアプローチは
- 応力集中とコーナー部の形状
- リブなどの設計
- 安全率
- 引張強さ、耐力、疲労強度などのパラメータ
などが挙げられるでしょう。
これらのキーワードを意識しながら、構造材料について理解を深めておきましょう。
オススメの参考書を2つ紹介します。
とても読みやすく、それほど厚くないので手に取りやすいですよ!
著書:材料と科学と工学(1) 材料の微細構造
著者:ウィリアム・D・キャリスター
著書:材料と科学と工学(2) 金属材料の力学的性質
著者:ウィリアム・D・キャリスター
機能材料
機能材料とは特定の有用な機能をもつ材料の総称です。
さまざまな物理的・化学的性質をもつ材料や、複数の異なる素材を組み合わせた複合材料などを指します。
ちょっと分かりづらいですが、言い換えると機械的性質を除いた物理的特性(電気・磁気)や化学的性質(耐食性など)を付与した材料と言えます。
それでもやはり、機能材料は幅が広く応用う分野も広範にわたるため、対策としても絞り込めないところがあります。
ただ、過去問のから傾向を探ると、
- 電気伝導度
- 水素貯蔵
といったキーワードが見られます。
しかし機能材料については今後どのような出題がくるか、正直読めないところではあります。
機能材料にある程度なじみの深い受験者の方は、機能材料関連の出題から選択する想定で対策されるといいでしょう。
機能材料については、包括的にまとめられた書籍はあまりないのが現状です。
ですが、1つの参考として以下の書籍をオススメします。
傾斜機能材料について、まとめられた書籍です。
薄膜形成技術などを応用し、傾斜(段階)的に様々な物理・化学的な機能を付与、工業や医療など多方面に応用できる材料について詳しくまとめてあります。
著書:図解 傾斜機能材料の基礎と応用
著者:村上誠一, 辺見義見
材料試験
「金属材料・生産システム」を構成する要素の一つとして「材料試験」があります。
一般に材料試験とは、「試験片(固体材料)に荷重を加えて、その時の変形応答から材料の力学的な特性(強さ、弾性率など)を調べる試験」と定義されます。
力(荷重)の加え方を大別すると、引張、曲げ、圧縮、せん断の4タイプに分けることができます。
ここまでは一般的な解釈。
受験対策としてはどこに重点を置くといいでしょう。
先ほど示した、選択科目「金属材料・生産システム」のマインドマップのうち、「材料試験」をクローズアップしましょう。
材料試験は力のかけ方で4タイプに分けられると言いましたが、結論として「引張試験」の一択となります。
もちろん、圧縮・曲げ・せん断からの出題が無いとは言い切れません。
過去問として4年分見ても材料試験関連は1題しかありませんので、そもそもデータが少なく分析しきれないというのが正直なところ。
でも、裏を返せばそれだけ「圧縮・せん断・曲げ試験の出題の可能性は低く、出題があっても代表的な材料試験の手法である「引張試験」からの出題の可能性が高い」と言えるでしょう。
それももそのはず。
一般的に機械構造物などを設計する場合は、引張強さ・耐力・伸びといった引張特性(引張試験により得られるパラメータ)をベースに行われることがほとんどです。
また、日本産業規格であるJISでもSS400(引張強さ400MPa以上の鋼材)など引張特性を基準に規格化されることが多いです。
よって、材料試験からの出題があるとすれば引張試験についてであり、
- S-S曲線
- 引張強さ、伸び、耐力
- 真応力、真ひずみ、公称応力、公称ひずみ
などといったキーワードや、試験方法などについてまとめておくといいですね!
以下に、とても読みやすい書籍を貼り付けていますので参考にしてみて下さい。
著書:絵とき「材料試験」基礎のきそ (Machine Design Series)
著者:西畑 三樹男
分析・測定法
「金属材料・生産システム」を構成する要素としての「分析・測定法」は比較的わかりやすいですね。
一言で言えば、評価方法と言ってもいいでしょう。
但し、機械的性質を評価する材料試験は先ほど扱ったところでしたので、それ以外の評価方法と位置付けるといいでしょう。
では、どのような評価方法に関する出題があるのか、マインドマップから「分析・測定法」のクローズアップを示します。
分析・測定法は
- 電磁波・放射線による測定(結晶構造含む)
- 化学組成
- 金属組織試験
といった内容にだいたい集約できそうですね。
ただ、分析・測定法については、毎年必ず出題があるというほど頻出の内容ではないため、過去問からは傾向は掴み切れないのが正直なところ。
少ないデータではあるものの、既に出題のあるテーマから拡張して対策範囲に見当は付けられそうです。
以下のように、キーワードを設定してみます。
電磁波・放射線による測定
- X線検査(レントゲン検査)
- X線CT
- X線回折(XRD)
- 電子線回折
- EBSD
- 放射光施設(軟X線~硬X線など)
などがありますね。
主に、非破壊検査による内部構造観察や、X線や電子線による結晶構造解析や残留応力解析などが挙げられます。
金属材料の物性や状態を知るのに学術的にも工業的にも大変重要な測定法が多数含まれますね。
化学組成
- ICP分析
- 蛍光X線分析
- 固体発行分析(カントバック)
- EPMA(電子線マイクロアナライザー)
- XPS(ESCA)
- オージェ電子
などが挙げられます。
それれぞれ、マクロ的に材料の組成を知りたいのか、局所的な情報が知りたいのか、あるいは、極表面の情報を知りたいのかなど用途によって選択する分析手法が異なります。
また、真空系のチャンバー内で分析するのか、大気中で分析するのか、酸などで化学的に溶かす必要があるのか、など分析環境や前処理条件などが異なる点にも注意しましょう。
それぞれの分析法の特徴や用途・適用場面などについてまとめておくと試験対策として有効ですね。
金属の分析手法は目的や試料の状態に応じて様々な手法が存在します。
以下2冊紹介します。
まず1冊目は、バルクとしての材料全体の組成分析に主眼を置いた書籍です。
代表的な分析手法について、分かりやすく解説しています。
著書:現場で役立つ金属分析の基礎―鉄・非鉄・セラミックスの元素分析
著者:平井 昭司
2冊目は、表面分析に主眼を置いた書籍です。
金属材料を扱う上では避けて通れない表面分析。
固体材料である金属材料の表面分析を理解する上で、電子線やX線と金属材料との相互作用への理解は必須です。
是非ご参考に!
著書:入門 表面分析―固体表面を理解するための (材料学シリーズ)
著者:吉原 一紘
金属組織試験
選択科目「金属材料・生産システム」の出題内容として、公式の案内では「金属組織の観察」という文言があります。
一方で、過去問からは観察手順や方法などについてダイレクトに問われるような問題は出ていないようです。
しかし、「組織観察(試験)」は金属材料を扱う上で最もベーシックな評価手法とも言えます。
そのような意味で、
-
- 観察試料作成法(切断・研磨・エッチング)
- 観察法(光学顕微鏡・電子顕微鏡)
- 代表的な組織名
鉄系:フェライト、パーライト、セメンタイト、オーステナイト、マルテンサイト、ベイナイト
非鉄系:α相、β相、析出物
鋳物系:基地組織、晶出物、デンドライト、欠陥(引け巣、ガス)
-
- 代表的な熱処理方法
焼鈍し、焼ならし、焼入れ、焼戻し、溶体化処理、時効処理
こういった事項について、一度整理しておくといいですね。
直接問われないまでも、例えば材料設計に関する出題などがあれば、関連知識として間違いなくプラスになります。
金属組織試験関連の書籍も様々ありますが、ぜひ参考書としてこちらをお勧めします。
幅広く網羅的に解説されていますし、わかりやすいです。
対策本としても実務でも使えますので一冊携えておきましょう。
著書:入門・金属材料の組織と性質―材料を生かす熱処理と組織制御
著者:日本熱処理技術協会
その他
「その他」と言われるほど、試験対策をしにくいものがありません。
だって、その他って・・・絞り込めません(><)
でも、ご安心を。
まずは、マインドマップにて「その他」にクローズアップして見てみましょう。
(
その他にぶら下がる項目として、
- レアメタル
- 破壊
を挙げています。
もちろん、「その他」なのでこれ以外でもどのような問題が変化球が来るかは、正直誰も予測できません。
予測できないことは必要以上に時間をかけない姿勢は大事です。
とりあえず、過去問の傾向に忠実に対策することをおススメします。
とは言え、上記に挙げた「レアメタル」と「破壊」は金属材料を扱う上でとても大事なキーワードです。
これに関してはしっかり対策して損はありません。
それぞれについて簡単に解説。
レアメタル
レアメタルが重要というのには以下の2つの理由があります。
- 希少金属としてSDGsなどの環境保全の面から今後ますます重要度が増す
- 微量添加により材料特性の改善が見込まれ、金属材料を取り巻く多方面から研究が盛んに行われている
ということです。
例えば、レアメタルについてある程度情報を集めて理解を深めておくと、必須科目Ⅰや選択科目Ⅲ(3枚問題)などで環境問題や環境負荷低減などのテーマが与えられた際に必ず生きてきます。
特に、
- なぜ、レアメタルが工業的に使用されているのか
- 脱レアメタルのため、代替材料として何が使えるか
といった視点での開発に注目するといいでしょう。
破壊
「破壊」は非常に重要なテーマです。
物は何でも壊れます。
金属材料には破壊力学や破面解析を扱ったフラクトグラフィが重要な学問分野の1つともなっています。
当然、工業的にも市場クレーム対応などには破損原因調査が不可欠であり、非常に重要と言えます。
構造材料の信頼性確保のため、以下に安全な設計とするか、破損した場合の解析手法としてどのような方法があるのか系統立てて学んでおきましょう。
「破壊」について理解を深めておくと、選択科目Ⅱ-2(2枚問題)にも応用できます。
どの様な視点で学習するかは、マインドマップにも示している通りです。
- 動的(疲労・衝撃)
- 静的(引張・曲げ)
- 高温クリープ
- 脆性と延性(破面形態や材料因子)
これらの、メカニズム、解析手法(マクロ観察・ミクロ観察)、破面の特徴、試験法(引張試験・疲労試験・シャルピー衝撃試験など)、破損事例、などについてまとめておくといいでしょう。
形あるものは全て壊れます。
建築構造物や機械構造物などに破損が生じた場合、その原因究明と対策は必須となります。
そのような要求からフラクトグラフィ(破面解析)に関する書籍も多くあります。
そんなフラクトグラフィのバイブル的な書籍を紹介します。
正直、サイズも大きく厚さもあるのですが、写真も豊富で実用でもかなり重宝しますので、少々お高いですが是非手に取ってもらいたい本です。
著書:最新フラクトグラフィ 各種材料の破面解析とその事例
編集者:塩谷 義 , 松尾 陽太郎 , 服部 敏雄 , 川田安之
過去問からの出題傾向の分析|選択科目Ⅱ-2より
選択科目Ⅱ-2(2枚問題)についても過去問をしっかり分析していきましょう。
過去問の元データについては、技術士会のHPにありますので、そちらを参考にしています。
選択科目「金属材料・生産システム」のⅡ-2過去問より、出題分野の中分類【赤字】とキーワードを一覧表にするとこんな感じ。
令和元年度 | 【製造方法】溶解圧延とプレス加工工程の割れ | 【その他】金属材料産業の国際競争力強化 | |||||
令和2年度 | 【製造方法】金属薄板(溶解から最終製品までの一貫生産とBCPによる別工場での製造 | 【材料設計】AI(機械学習、深層学習等)・計算科学(計算状態図・第一原理計算等)と構造材料または機能材料 | |||||
令和3年度 | 【製造方法】金属材料の薄板製造プロセス 造塊法から連続鋳造法への移行(鋳造・圧延・熱処理) | 【その他】金属材料新商品開発プロジェクト 保有技術の異なる開発拠点の連携 | |||||
令和4年度 | 【材料設計】成分設計を含めた金属材料開発 自動車車体の軽量化と衝突安全性の両立 | 【その他】輸送機器に含まれる鉄・アルミ・銅の再生プロジェクト(資源循環・資源確保のため) | |||||
ここで一度、日本技術士会から公式に示されている「金属材料・生産システム」の出題範囲を見直してみましょう。
【金属材料・生産システム】
金属材料の製造方法、設備及び管理技術並びに構造材料・機能材料等の材料・製品設計、複合化、材料試験、分析、組織観察その他の金属材料に関する事項
となっています。
より分かりやすくするため、箇条書きにして表現しましょう。
- 製造方法
- 材料設計(構造材料・機能材料含む)
- 材料の評価(材料試験・分析・組織観察)
- その他
となります。
この切り口で、過去問からの出題傾向を見てみましょう。
上の表からキーワードだけ抜き出し、下の表のように年度ごとに各構成要素についての出題数をまとめています。
令和元年度 | 【製造方法】溶解圧延 | 【その他】国際競争力強化 | |||||
令和2年度 | 【製造方法】金属薄板 | 【材料設計】AI・計算科学 | |||||
令和3年度 | 【製造方法】鋳造・圧延・熱処理 | 【その他】商品開発プロジェクト | |||||
令和4年度 | 【材料設計】成分設計 | 【その他】再生プロジェクト | |||||
選択科目Ⅱ-2は2題与えられ、1題を選択解答する形式です。
5つの軸があるうち、2題しか出題がありません。
つまり、下手に山を張ってしまうと対策した内容が出題されないリスクが高まります。
しかし、上記の表をよく見ると選択科目Ⅱ-2については、「材料の評価」(材料試験および分析測定)からの出題はほぼないと言えそうです。
もちろん、データ数が十分ではないので何とも言えませんが、少なくとも毎年出題があるような頻出の内容ではないと言えることは確かです。
よく考えれば選択科目Ⅱ-2の性質上、「材料の評価」からの出題がないのはうなずけます。
選択科目Ⅱ-2は、7つコンピテンシーのうち
- 専門的学識
- コミュニケーション
- マネジメント
- リーダシップ
が問われます。
つまり、上記のコンピテンシーを600字詰め原稿用紙2枚(1200字)に盛り込んで記述することが求められます。
「一貫したストーリー性」が要求されるのが選択科目Ⅱー2というわけです。
そういった観点からすると、「材料の評価」はあくまでモノづくりにおける検査などの一部の工程に過ぎず、各コンピテンシーを問えるだけのストーリー性を持たせるテーマとしては扱いが難しくなります。
どうしても選択科目Ⅱ-2のテーマの主題として据えるには不向きであるという側面があります。
よって、「製造方法」、「材料設計」「その他」といった切り口の方が、選択科目Ⅱ-2としては出題しやすいのでしょう。
それでは、「製造方法」、「材料設計」、「その他」からそれぞれどのような出題があるかみていきましょう。
製造方法
先にも触れたように、選択科目「金属材料・材料システム」では、主に「精錬・連続鋳造あたりの工程」を扱います。
つまり、採掘やリサイクル資源としての改修が終わって、鉱石やスクラップなどの状態から原料を溶かし込み純度を上げてビレットなどの状態で出荷するまでの流れのあたりということです。
選択科目Ⅱ-2の特徴として、「その先もちょっと扱う」ということです。
再度、上の表に目を通してください。
【製造方法】のジャンルには、
- 溶解圧延
- プレス加工
- 金属薄板
- 連続鋳造
- 鋳造、圧延、熱処理
といったキーワードが入っていることが分かります。
つまり、原料を溶かして純度を上げる処理を行う「精錬工程より先の工程についても問われている」のが選択科目Ⅱ-2の特徴です。
理由としては先述した通り、マネジメントやリーダーシップを問う必要があるため「ストーリー性」が求められる点です。
製造上の一連の流れの中で、
- マネジメント(各工程の中での留意点・工夫点・リソース配分)
- リーダーシップ(利害関係者との連絡調整)
をどう盛り込むかを意識しながら、製造工程を俯瞰してみましょう。
例えば、
- 連続鋳造時に発生した欠陥が、その後の圧延や熱処理にどう影響するか
- 欠陥の発生要因や低減策はどのようなものがあるか
- 欠陥の検査方法はどうするか
- 品質を向上させるのにどのようなアプローチがあるか
- 設計・開発担当者、製造担当者、検査担当者、外注先、顧客などとどう情報共有を図るか
といった要素を意識しながら、製造方法に関する学習を進めていくといいですね。
材料設計
過去問の出題傾向を見ると、材料設計からの出題では以下のようなキーワードが抽出できます。
- 状態図, AI(機械学習)
- 構造材料
- 機能材料
- 成分設計
- 軽量化と強度延性バランス
選択科目Ⅱ-2の特徴として、AIや計算状態図などの手法を限定して構造材料や機能材料の開発をテーマにしたり、軽量化と安全性を両立した材料開発をテーマにしたりと、材料設計を軸にしながらも、やはりコンピテンシーが試されるようなストーリー性が要求されています。
構造材料においては、強度・延性・靭性・耐摩耗性といった機械的性質に影響を与える因子として元素成分や処理条件をどのように制御するか整理するといいでしょう。
機能材料についても同様に、電気や磁気などの物理的特性や耐食性などの化学的特性に影響を与える因子として元素成分や処理条件をどのように制御するか整理するといいでしょう。
また、高強度化・軽量化・強度延性バランスといった切り口は、比較的取り扱いやすいテーマですので、ハイテン材・軽合金・複合化・異種金属接合などの観点など自身の得意分野で構いませんので、一通り開発ストーリーのシミュレーションなどしておくと本番で使えますよ!
その他
その他からも割と出題可能性が高いのがこの選択科目Ⅱー2。
ですが、その他からは比較的ざっくりした出題となります。
あまり意識的に対策しなくても、製造方法や材料設計への対策がそのまま生かせますので、あまり気にしなくてよさそうです。
本番で選択科目Ⅱ-2として2題出題されたうち、より解答しやすそうな方を選べばいいでしょう。
強いて選択科目Ⅱ-2のその他対策を行うとすれば、国際競争力強化や省資源対策・環境負荷低減などの昨今の社会問題としても重要なテーマと材料開発との接点を整理しておくと、必須科目Ⅰや選択科目Ⅲ(3枚問題)対策も兼ねられるので対策しておいて損はないでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
技術士二次試験の受験において、部門選びはもちろん、その先の選択科目選びも超重要です。
ここをミスってしまうと、合否に大きく影響します。
過去問分析から、具体的にどのような出題傾向にあるか分析しました。
ここでざっとおさらいしましょう。
- はじめに
- 金属材料・生産システムを構成する要素技術
- 過去問からの出題傾向分析|選択科目Ⅱ-1より
- 過去問からの出題傾向の分析|選択科目Ⅱ-2より
本記事は、技術士二次試験の金属部門の選択科目のうち、「金属材料・生産システム」について解説しています。
他の選択科目と比較し、出題範囲を絞り込みにくく感じますが、過去問を分析することで十分対策は可能です。
・製造方法
・材料設計
・材料試験
・分析測定
・その他
から構成されます。
要素を細分化するとすっきり整理できます。
・製造方法
主に、「精錬・連続鋳造あたりの工程」を扱います
・材料設計
状態図、構造材料、機能材料などからの出題です
・材料試験
機械的性質を調べる試験のうち、引張試験からの出題が主です
・分析測定
電磁波・放射線、化学組成、金属組織など観点からの評価に関する出題です
・その他
レアメタル、破壊といったキーワードから出題されています
選択科目Ⅱ-2は2枚問題であり、マネジメントやリーダシップといったコンピテンシーが問われるのが特徴。
それゆえ、記述にはストーリー性が大事になってくる点を踏まえて、一連の開発手順を留意点・工夫点・リソース配分・利害調整を交えて説明できるよう準備をしておきましょう。
特に、「製造方法」、「材料設計」のジャンルにはしっかり対応できるよう対策しましょう。
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