はじめに
日本の文部科学省が管轄する国家資格である「技術士」。
その技術士を行動規範とも言える「技術士倫理綱領」は、制定以後何度か改定がなされてきました。
技術士倫理綱領制定および改定の変遷はこのようになっています。
- 昭和36年(1961年)3月14日理事会制定
- 平成11年(1999年)3月 9日理事会変更承認
- 平成23年(2011年)3月17日理事会変更承認
- 令和5年(2023年)3月8日理事会変更承認
技術士制度が発足したのが昭和32年ですから、そのおよそ4年後から技術士倫理綱領が制定されていら、その後3回の改訂を経て現在に至っています。
制定から1回目の改訂までは約38年、第1回の改訂から第2回の改訂までは約12年、第2回改訂から第3回改訂までは約12年の間隔となっています。
制定から1回目の改訂まではずいぶん長い期間が空きましたが、その後は12年周期で改定がなされているようです。
もちろん、必ず12年で改訂されるとは限りませんが、今後も同様の周期での改訂がなされるのではないかと予想されます。
さて、この記事では令和5年(2023年)3月8日に技術士倫理綱領が変更承認がされたことを踏まえてあらためて技術士倫理綱領について理解を深めていきたいと思います。
この記事の読んでもらいたい人はこちら。
- 技術士に興味がある方
- 技術士試験受験予定者(一次、二次含む)
- 倫理とは何ぞやを考えている技術者あるいはその指導者(あんまりいないかな。。。)
技術士倫理綱領とは
「技術士倫理綱領」とは、一言で表すと、「技術士が備えるべき行動規範」と言えます。
では、その行動規範を誰が決めているのかというと、公益社団法人 日本技術士会の倫理委員会です。
倫理委員会について詳しく知りたい方は、公式HPをご参照ください。
そもそも技術士とは何なのか、そこからの理解がまずは重要です。
その答えは「技術士法」にあります。
(定義)第二条 技術士の名称を用いて科学技術に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項についての計画、研究、設計、分析、試験、評価及びそれらの指導の業務を行う者をいう。
ここでのポイントは以下の2つです。
- 科学技術に関する「高等の専門的応用能力」を必要とする
- 「計画、研究、設計、分析、試験、評価又はそれらの指導」の業務
この記事での詳細な解説は割愛しますが、「技術士の定義」や「技術士法」について詳細を知りたい方はこちら
上記の技術士の定義からも分かる通り、技術士は『「科学技術」を駆使して応用的業務を行う者』と言えます。
技術士が取り扱う科学技術というものはあまりに強力で、社会・経済・環境に及ぼす影響力は計り知れないものとなります。
ですから、その強力な武器を扱える能力のある者として、その力を統制する規範が必要となります。
例えていうならば、「科学技術=猛獣」、「技術士倫理=調教師」といったところでしょうか。
時代とともに、科学技術はもとより法律や社会情勢は等は進化・変化します。
扱う対象物の特性が異なれば、それを取り扱う者に求められる資質や能力も異なって当然。
倫理というものは普遍的な基準に基づくものではなく、常にアップデートが要求されます。
時代の変化に伴って、高度な科学技術を取り扱う技術士に求められる行動規範、つまり技術士倫理綱領も変化するというわけです。
では、令和5年3月8日に改訂された技術士倫理綱領を見てみましょう。
技術士倫理綱領は、全体のコンセプトを説明した【前文】と具体的な行動規範を規定した【本文】からなります。
また、【本文】は10個の項目からなり、さらにその項目ごとに2~3つほどの要点が定められているという構成です。
さらに、【本文】の10項目は、ピリオド付きが「基本綱領」、両括弧付きが「指針」とう内容となっている。
そこを踏まえたうえで、実際の技術士倫理綱領を以下に示します。
技術士は、科学技術の利用が社会や環境に重大な影響を与えることを十分に認識し、業務の履行を通して安全で持続可能な社会の実現など、公益の確保に貢献する。
技術士は、広く信頼を得てその使命を全うするため、本倫理綱領を遵守し、品位の向上と技術の研鑚に努め、多角的・国際的な視点に立ちつつ、公正・誠実を旨として自律的に行動する。
【本文】
(安全・健康・福利の優先)
1.技術士は、公衆の安全、健康及び福利を最優先する。
(1)技術士は、業務において、公衆の安全、健康及び福利を守ることを最優先に対処する。
(2)技術士は、業務の履行が公衆の安全、健康や福利を損なう可能性がある場合には、適切にリスクを評価し、履行の妥当性を客観的に検証する。
ここ)技術士は、業務の履行により公衆の安全、健康や福利が損なわれると判断した場合には、関係者に代替案を提案し、適切な解決を図る。
(持続可能な社会の実現)
2.技術士は、地球環境の保全等、将来世代にわたって持続可能な社会の実現に貢献する。
(1)技術士は、持続可能な社会の実現に向けて解決すべき環境・経済・社会の諸課題に積極的に取り組む。
(2)技術士は、業務の履行が環境・経済・社会に与える負の影響を可能な限り低減する。
(信用の保持)
3.技術士は、品位の向上、信用の保持に努め、専門職にふさわしく行動する。
(1)技術士は、技術士全体の信用や名誉を傷つけることのないよう、自覚して行動する。
(2)技術士は、業務において、欺瞞的、恣意的な行為をしない。
(3)技術士は、利害関係者との間で契約に基づく報酬以外の利益を授受しない。
(有能性の重視)
4.技術士は、自分や協業者の力量が及ぶ範囲で確信の持てる業務に携わる。
(1)技術士は、その名称を表示するときは、登録を受けた技術部門を明示する。
(2)技術士は、いかなる業務でも、事前に必要な調査、学習、研究を行う。
(3)技術士は、業務の履行に必要な場合、適切な力量を有する他の技術士や専門家の助力・協業を求める。
(真実性の確保)
5.技術士は、報告、説明又は発表を、客観的で事実に基づいた情報を用いて行う。
(1)技術士は、雇用者又は依頼者に対して、業務の実施内容・結果を的確に説明する。
(2)技術士は、論文、報告書、発表等で成果を報告する際に、捏造・改ざん・盗用や誇張した表現等をしない。
(3)技術士は、技術的な問題の議論に際し、専門的な見識の範囲で適切に意見を表明する。
(公正かつ誠実な履行)
6.技術士は、公正な分析と判断に基づき、託された業務を誠実に履行する。
(1)技術士は、履行している業務の目的、実施計画、進捗、想定される結果等について、適宜説明するとともに応分の責任をもつ。
(2)技術士は、業務の履行に当たり、法令はもとより、契約事項、組織内規則を遵守する。
(3)技術士は、業務の履行において予想される利益相反の事態については、回避に努めるとともに、関係者にその情報を開示、説明する。
(秘密情報の保護)
7.技術士は、業務上知り得た秘密情報を適切に管理し、定められた範囲でのみ使用する。
(1)技術士は、業務上知り得た秘密情報を、漏洩や改ざん等が生じないよう、適切に管理する。
(2)技術士は、これらの秘密情報を法令及び契約に定められた範囲でのみ使用し、正当な理由なく開示又は転用しない。
(法令等の遵守)
8.技術士は、業務に関わる国・地域の法令等を遵守し、文化を尊重する。
(1)技術士は、業務に関わる国・地域の法令や各種基準・規格、及び国際条約や議定書、国際規格等を遵守する。
(2)技術士は、業務に関わる国・地域の社会慣行、生活様式、宗教等の文化を尊重する。
(相互の尊重)
9.技術士は、業務上の関係者と相互に信頼し、相手の立場を尊重して協力する。
(1)技術士は、共に働く者の安全、健康及び人権を守り、多様性を尊重する。
(2)技術士は、公正かつ自由な競争の維持に努める。
(3)技術士は、他の技術士又は技術者の名誉を傷つけ、業務上の権利を侵害したり、業務を妨げたりしない。
(継続研鑽と人材育成)
10.技術士は、専門分野の力量及び技術と社会が接する領域の知識を常に高めるとともに、人材育成に努める。
(1)技術士は、常に新しい情報に接し、専門分野に係る知識、及び資質能力を向上させる。
(2)技術士は、専門分野以外の領域に対する理解を深め、専門分野の拡張、視野の拡大を図る。
(3)技術士は、社会に貢献する技術者の育成に努める。
以上です。
ちなみに、技術士倫理綱領はこちらの公式HPより引用しています。
細かい要点はさておき、まずは大まかに10個の項目からなり、その10個の項目がどのような観点から規定されている者なのか俯瞰で捉えることが重要です。
項目が多く複雑なものは、マインドマップで概観を掴むことが重要です。
このように捉えると、技術士に求められる能力の幅広さや、実際に業務を行う上での心遣いというものが見えてきます。
概観がつかめたら、そもそもなぜ技術士倫理綱領が重要なのか考えてみます。
なぜ技術倫理綱領が重要なのか
なぜ、技術士倫理綱領が重要なのか。
その理由は、大きく2つあります。
- 技術士試験二次試験の口頭試験で問われる可能性がある
- 実務で役立つ
ということです。
2つの理由について少し解説します。
技術士試験二次試験の口頭試験で問われる可能性がある
技術士二次試験には筆記試験と口頭試験があります。
筆記試験を合格した人だけが受験できるのが口頭試験です。
口頭試験は1人の受験者に約20分程度時間が与えられ、技術士に必要なコンピテンシーについて様々な質問がなされて、それに回答する試験です。
コンピテンシーって何?という方は、こちらの記事を参考にしてください。
コンピテンシーの1つとして「技術者倫理」が挙げられます。
倫理に関する質問も様々想定はされますが、一定の型が存在します。
その型の1つとして「技術士倫理綱領」が挙げられる、という訳です。
技術士倫理綱領の丸暗記が要求されるような質問は恐らくないとは思います。
しかし、技術士倫理綱領をだいたい把握している前提での質問というのは十分あり得る話です。
例えば、
「技術士倫理綱領の本文中の10項目の中で特に大切だと思うものを3つ挙げて下さい」
や
「技術士倫理綱領の本文中の10項目のいずれかと関連付けて、あなたの業務において気を付けていることを教えてください」
といった具合です。
その他、倫理と絡めた質問は多数考えられます。
具体的な質問をイメージしながら様々なパターンに対応できるよう準備をしたい方はこちらの記事を参考にしてください。
技術士倫理綱領にせよ、他の倫理関連の質問にせよ、「倫理 × 業務」という2軸で考えた場合の共通項を見出す癖を持っておけばあらゆる変化球に対応できます。
そこまで難しく考えてまで口頭試験の準備をする必要はありません。
実務で役立つ
意外にも、技術士倫理綱領は実務で役立ちます。
言い換えれば、倫理というものは道具として使い倒してなんぼだと筆者は思っています。
「いやいや、倫理は道具ではなく人の心に根付いてこそ。。。」なんて倫理を教えている学校の先生などから怒られるかもしれません。
でもよく考えてみてほしいと思います。
いかなる場面でも倫理観と自己犠牲の精神に溢れ、社会平和のために最善を尽くせる神様のような人っているのでしょうか。
私はそうは思えません。
というより、倫理って何なのでしょうか。
よく法やモラルなどと対比されて倫理が論じられることもありますが、結局のところ絶対的な正解は分からずつかみどころがないというのが事実。
それを「技術士倫理綱領」という「【前文】+【本文】10項目」という、幅広くもコンパクトにまとめてくれていることもあり、使い勝手が非常にいいのがこのパッケージの特徴。
あまりコンパクトすぎて3項目しかないなどいうことであれば、網羅性に欠ける。
かと言って35か条とか言って多すぎても疲れちゃう。
この10項目にまとめているところが秀逸なところなのです。
ところで、「倫理を使う」ってどうゆうこと?
一言で言えば、「迷いがなくなる」ということ。
技術者に限らず、社会人として仕事をしていれば判断に迷うこと、本当に正しい選択はどっちだろう、と悩むことってたくさんありますよね。
「これは自己完結すべきか、上司に相談すべきか」
「自己完結は無理。でも上司も頼れない、そんな時どうしたらいいのか」
「今回の契約は利害間関係が対立している。どこに落としどころをもっていくべきか」
などなど、仕事というものは判断と迷いの連続。
1つ1つ真剣に悩んでいては判断疲れで仕事どころではなくなってしまいます。
そんな時に、技術士倫理綱領に頼るのです。
例えば、本文の4項目目に(有能性の重視)というものがあります。
以下に改めて記載すると、
(有能性の重視)
4.技術士は、自分や協業者の力量が及ぶ範囲で確信の持てる業務に携わる。
(1)技術士は、その名称を表示するときは、登録を受けた技術部門を明示する。
(2)技術士は、いかなる業務でも、事前に必要な調査、学習、研究を行う。
(3)技術士は、業務の履行に必要な場合、適切な力量を有する他の技術士や専門家の助力・協業を求める。
上記を要約すると、
「専門外のことに安易に首を突っ込むな。自信がなければ適任者を頼れ。」
と言っています。
優秀な人であれば周囲から頼られることも多く、時には高いハードルを課せらられプレッシャーとなることもあるでしょう。
お人好しな方であれば、周囲から大量の仕事を任せられキャパオーバーとなることもあるでしょう。
けど、それも行き過ぎると自身のためにならないことはもとより、相手のため社会のためにならないと倫理綱領は教えてくれています。
よく考えれば当たり前の話です。
己の力量を超えた業務で自分がつぶれてしまえば、自身の生産性が落ちることはもとより、相手にも納期が遅れる、低品質の商品を提供してしまうといったことにつながるでしょう。
さらにその先にいるであろうステークホルダーもその負の影響をゼロにすることは避けられない。
であれば、自身の「有能性を重視」して、無理のない範囲で相手としっかりと交渉すること、背伸びをして自分を大きく見せないことが大事だと教えてくれています。
このように、判断に迷える子羊になった際の心の拠り所として使えるツールとして技術士倫理綱領は有用と筆者は考えています。
技術者倫理との違いと関連性
技術者の方や、大学や高専等で工学系を履修していた方であれば「技術者倫理」を聞いたことくらいはあるでしょう。
また、技術士試験二次試験の受験者であれば、「そういえば、受験申込案内に技術者倫理とか書いてたっけ。。。」なんて言う風に思うでしょう。
倫理に絶対的な定義や正解がないように、技術者倫理にも絶対的な定義や正解はありません。
ここでいう技術者倫理はあくまで、「技術士試験二次試験の受験申込案内に記載されている技術者倫理」とします。
技術士二次試験の受験案内(令和4年度)における技術者倫理として以下のように定義しています。
【技術者倫理】
- 業務遂行にあたり,公衆の安全,健康及び福利を最優先に考慮したうえで,社会,文化及び環境に対する影響を予見し,地球環境の保全等,次世代にわたる社会の持続性の確保に努め, 技術士としての使命,社会的地位及び職責を自覚し,倫理的に行動すること。
- 業務履行上,関係法令等の制度が求めている事項を遵守すること。
- 業務履行上行う決定に際して,自らの業務及び責任の範囲を明確にし,これらの責任を負うこと。
上記のように大きく3項目からなります。
このままだと少々長いので要点をまとめてコンパクトに表現すると、
- 公衆の安全・健康・福利を最優先に考慮し、社会の持続可能性に努める
- 法令遵守
- 説明責任(アカウンタビリティ)
の3点です。
こうして見ると、受験案内に登場する技術者倫理は技術士倫理綱領ほど細かな項目立てや文言にはなっていないことに気づきます。
しかし、よく見てみると共通項が多いことにも気づきます。
まとめると以下のような感じ。
- 技術者倫理①
- 技術者倫理②
- 技術者倫理③
「公衆の安全・健康・福利を最優先に考慮し、社会の持続可能性に努める」
≒技術士倫理綱領【本文】1番目(安全・健康・福利の優先) & 【本文】2番目(持続可能な社会の実現)
「法令遵守」
≒技術士倫理綱領【本文】8番目(法令等の遵守)
「説明責任」(アカウンタビリティ)
≒技術士倫理綱領【本文】5番目(真実性の確保)
となっていることが分かります。
もちろん、技術者倫理と技術士倫理綱領とでは文言の違いからそれぞれ定義づけのニュアンスが異なる部分はありますが、概ね上記のような対応関係にあると言えます。
技術士倫理綱領は、さらに項目を増やすことで守備範囲を広げたものだとも言えます。
つまり、『技術士倫理綱領 ⊃ 技術者倫理』の関係になっている。
これが、技術士倫理綱領と技術者倫理との違いとも言えそうです。
こち他の記事により詳細に対応関係をまとめていると同時に、3義務2責務(技術士法)との関係についても触れています。
是非参考にしてください。
2023年の改訂ポイント
技術士倫理綱領は2023年(令和5年)の3月に改訂されました。
本改訂に伴う改定内容や変更点に関する解説は日本技術士会のHPに掲載されています。
詳しすぎて少々読み疲れてしまうかもしれませんので、下記のように要点をまとめました。
旧版2011年(平成23年)と比較した場合の変更における要点を大枠でまとめると以下のポイントが挙げられます。。
【前文】のポイント
- 「安全」を重視
- 「士業」としての確固たる地位を示す
※信頼、自律的、多角的などのワードより
【本文】のポイント
1.(安全・健康・福利の優先)について
- 「安全」を重視
- 「優先」事項を明確化
2.(持続可能な社会の実現)について
- SDGs(環境・経済・社会)の視点を重視
3.(信用の保持)について
大きな改変は無し
4.(有能性の重視)について
- 力量が及び確信が持てる業務に携わる(肯定的表現)
- 協業者とのかかわりを促す
5.(真実性の確保)について
大きな改変は無し
6.(公正かつ誠実な履行)について
- 説明責任の範囲を拡大
- 遵守対象を明確化
※業務の目的、実施計画、進捗、結果などを追記
※法令、契約事項、組織内部規則など
7.(秘密情報の保護)について
- 秘密情報について適切な「管理」と「利用」の2本立てとている
- 不適切な管理として、「漏洩」や「改ざん」といった具体例を示している
8.(法令等の遵守)について
大きな改変は無し
9.(相互の尊重)について
- 協業する者の「多様性」と「権利」の尊重を追記している
10.(継続研鑽と人材育成)について
- 表題そのものに「人材育成」の文言をえることで、その重要性を強調している
- 旧版「技術」→新版「分野」と置き換えることで、伸ばすべき能力の範囲の拡大を示している
- 研鑽を行う手段(経験・研修・学習・発表など)を敢えて割愛し、多様な研鑽方法を認めていると思われる
以上、要点をまとめるとこんな感じです。
更に総括すると、ポイントは5つに絞られます。
- 「安全」への配慮を重視
- 所々”肯定的”表現に変更(予防倫理→志向倫理へ)
- 肯定的表現(志向倫理)は解釈の幅を広げ抽象度を上げて、多様性を重視
- 否定的表現(予防倫理)は場面を明確化し具体度を上げて、自律性を重視
- 「人材育成」のを明確化
ex.)持続可能性・有能性・協業者・継続研鑽 etc.
ex.)法令、規約、不適切管理、説明責任 etc.
※自動化・デジタル化が進む一方、労働人口減少が加速する現代こそ”人材”が何より大事である、というメッセージ
このようにポイントをまとめてみると、科学技術の目覚ましい進歩と国際化が進む時代の流れに沿った内容に改訂されていることが分かります。
用語解説|正しく言葉を理解しよう
技術士倫理綱領、その他倫理関連用語として、普段聞きなれない言葉や理解が曖昧になりがちな言葉があります。
何となくわかっっているつもりでも案外勘違いしていることなどもあります。
この機会にさらっと意味をおさらいしておきましょう。
- 綱領:物事の主要なところ。要点。
- 自律:自らを律すること。自立(他者を頼らず独り立ちしている)と混同しないこと。
- 福利:幸福と利益。幸福をもたらす利益。
- SDGs(用語として直接は出てこないが今一度押さえておこう):持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)
2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された,2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓約している。 - 欺瞞(ぎまん):あざむくこと。だますこと。
- 有能性:積極的に能動的に外界を動かす能力。コンピテンスともいう。
- 真実性:真実のこととして認められる性質。 また、真実であるかどうかの程度。
- 誠実:まじめで、まごころがあること。
- 法令: 法律、政令、条例、施行令等、公的な法規範全般を指す。
- 組織内規則: 各組織にて定められた内部的な規則類を指す。
- 利益相反: 一人の人が二つ(以上)の立場にあり、一方の利益を図れば他方の利益が損なわれる状況。
- 改ざん:文書、記録等の全部又は一部が、本来なされるべきでない時期に、本来なされるべきでない形式や内容などに変更されること。
- 人権:すべての人間が,人間の尊厳に基づいて持っている固有の権利。
- 多様性(diversity):幅広く性質の異なる群が存在すること。性質に類似性のある群が形成される点が特徴で、単純に「いろいろある」こととは異なる。
- 予防倫理:「~してはいけない」という消極的な思考。倫理問題を予防するため考え方。
- 思考倫理:「~すべき。~を推奨する。」という前向き・積極的な思考。為すべきことや理想を追求する考え方。
改訂を踏まえた技術士試験対策
2023年(令和5年)3月の「技術士倫理綱領」の改訂を踏まえたうえで、技術士試験二次試験に臨む受験者はどこに気を付けるといいでしょう。
筆記試験(論文試験)と口頭試験とに分けて解説します。
筆記試験(論文試験)
結論として、改訂に伴って気を付けるべき点はありません。
ただし、必須科目Ⅰ(3枚問題)では、問いの4番目として技術者倫理が問われます。
技術士倫理綱領の細部まで意識して解答する必要はありませんが、「受験申込案内記載の技術者倫理」や「技術士倫理綱領」を参考に論点を絞って記載する必要はあります。
具体的には、下記の記事を参考にしてください。
筆記試験の技術者倫理攻略には「型」が存在しますよ!
口頭試験
口頭試験においては、技術者倫理に関する様々な質問が想定されます。
また、技術者倫理に関わる質問についてはちょっと間違うと墓穴を掘ってしまうキラー質問もありますので、要注意です。
口頭試験に関する一般的な対策、口頭試験対策において携えて得おくと便利なツール、および想定問答については以下の記事を参考にしてください。
さらに、技術士倫理綱領の改訂に伴って取るべき対策として、具体的な質問を想定して準備しておきましょう。
例えばこのような質問。
質問例1)2023年3月に技術士倫理綱領が改訂されました。主にどのような変更点がありましたか。
質問例2)2023年3月に技術士倫理綱領が改訂されました。あなたが重要だと思う変更点をいくつか挙げて下さい。
質問例3)最新版の技術士倫理綱領について、本文中で重要だと考える項目を3つ挙げて下さい。
質問例4)技術士倫理綱領と技術者倫理の共通点をいくつか挙げて下さい。
質問例5)技術士倫理綱領を踏まえて、あなたが業務上中に気を付けているとを教えてください。
あくまで例えばですが、こんな感じです。
ただ、これらの質問に回答できるよう準備をしておけば、技術士倫理綱領の改訂に伴う質問対策としては十分でしょう。
もちろん、絶対的正解はありません。
倫理に関する問題は自身で考えてこそ意味があります。
とはいっても、上記の例題のヒントあるいは答えは本記事5章にございますので、あらためて振り返って読んでみて下さい。
まとめ
いかがだったでしょうか。
2023年(令和5年)3月技術士倫理綱領が改訂されたことを契機に改めて、本倫理綱領の定義・重要性・改訂ポイント・技術士試験対策についてまとめました。
技術士倫理綱領は、単に技術士試験対策上重要であるに留まらず、意外にも実務でも役立ちます。
要点を頭に入れて業務に当たれば、困った時の心の拠り所として、遺憾なくそのパワーを発揮してくれる便利なツールでもあります。
(ツールなんて言って、語弊があったらごめんなさい。でも、倫理に興味がない技術者が大半なのが事実。ツールと割り切って前向きに勉強してるだけマシじゃないですか。と筆者は開き直ってます!)
てなことで、本記事をざっとまとめていきます。
1.はじめに
- 技術士倫理綱領は、令和5年(2023年)3月に12年ぶりに改訂された。
2.技術士倫理綱領とは
- 技術士倫理綱領とは、「技術士が備えるべき行動規範」である
- 前文と本文からなり、本文はさらに「指針」「基本綱領」「要点」から構成される
3.なぜ技術倫理綱領が重要なのか
技術士倫理綱領が重要な理由は、以下の2つ。
- 技術士試験二次試験の口頭試験で問われる可能性がある
- 実務で役立つ
4.技術者倫理との違いと関連性
- 技術士試験の受験申込案内に、「技術者倫理」が規定されている
- 技術者倫理は「公衆の安全・健康・福利を最優先に考慮し、社会の持続可能性に努める」、「法令遵守」、「説明責任」の3点がポイント
- 内容的に、「技術士倫理綱領」⊃「技術者倫理」の関係になっている
5.2023年の改訂ポイント
- 「安全」への配慮を重視
- 所々”肯定的”表現に変更(予防倫理→志向倫理へ)
- 肯定的表現(志向倫理)は解釈の幅を広げ抽象度を上げて、多様性を重視
- 否定的表現(予防倫理)は場面を明確化し具体度を上げて、自律性を重視
- 「人材育成」のを明確化
ex.)持続可能性・有能性・協業者・継続研鑽 etc.
ex.)法令、規約、不適切管理、説明責任 etc.
※自動化・デジタル化が進む一方、労働人口減少が加速する現代こそ”人材”が何より大事である、というメッセージ
6.用語解説|正しく言葉を理解しよう
分かった気にならず改めて用語の意味を見直して理解を深めましょう
7.改訂を踏まえた技術士試験対策
- 筆記試験対策:取り立てて改訂を意識した対策は必要ありません
- 口頭試験対策:「改訂ポイント」と「自身が思う重要事項」を軸にまとめておけば怖くありません
以上です。
技術士試験対策のみならず、業務上の武器として使える倫理を身に付けましょう!!
コメント