はじめに|3枚問題(必須科目Ⅰ&選択科目Ⅲ)の概要
令和年元年度の試験から必須問題Ⅰと選択問題Ⅲはほぼ同様の問われ方をしています。
そのため、筆記試験対策としては同様の対策でOKです。
問題の特徴や対応策をまとめる前に、まずは過去に実際に出された問題を見てみましょう。
令和2年度の金属部門で必須科目Ⅰに出題された問題を一部省略して示します。
日本技術士会のHPより完全なものがダウンロードできますので、詳しくはそちらを参照してください。
産業界にも、SDGsの理念に沿った事業展開が求められる。
上記の点を踏まえて、以下の問いに答えよ。
- (1)金属材料を製造し、製品に加工、供給するバリューチェーンを通して持続的社会の実現に貢献していく上で、技術者としての立場で多面的な観点から複数の課題を抽出し分析せよ。
- (2)抽出した問題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
- (3)解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について、あなたの専門技術を踏まえて考えて述べよ。
- (4)上記事項を業務として遂行するにあたり、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から必要となる要件・留意点を述べよ。
こんな感じです。
まず、時事問題・社会問題的な背景の説明があり、設問の流れとしては、
↓
解決策の提示
↓
リスクの提示
↓
倫理的観点からのフォロー
といった感じです。
パターンは定型化していますので覚えてしまいましょう。
必須問題Ⅰは4つ、選択問題Ⅲは3つの設問からなります。
「必須科目Ⅰ = 選択科目Ⅲ + 技術者倫理」
と覚えておくと簡単です。
それらの設問に対して、600字詰め原稿用紙3枚(合計1800文字)をフルに使って回答するイメージです。
必須科目Ⅰは技術者倫理を問われる分余白を残す必要があるので、選択科目Ⅲより(1)~(3)の問題を詰めて(圧縮して)回答しなければならないと捉えておくと良いです。
いずれにせよ各設問は一連の流れになっており、ストーリー性が必要です。
流れをざっくりと示すと、
-
- 問題抽出・課題設定
- 解決策の提示
- 解決策のリスクとその対策
- 技術者倫理と持続可能性 or 懸念事項と期待される効果
※4は必須科目Ⅰのみ。
このストーリー展開が大切です。
なお、選択問題Ⅲには4.がありませんので3部構成となります。
この流れを掴んだうえで以下のポイントを押さえましょう。
〇要点
- 文字数:600字詰め原稿用紙 × 3枚 = 1800字
- 論文構成:課題 → 解決策 → リスクと対策 → 技術者倫理と持続可能性 or 懸念事項と期待される効果
- 論理展開:発散と収束(抽象化と具体化)をイメージ(下の記事で解説しています)
3枚問題で問われるコンピテンシーは下記5つです。
- 専門的学識
- 問題解決能力
- コミュニケーション
- 評価
- 技術者倫理
受験案内には、選択科目や必須科目、全体を通してどのようなコンピテンシーが問われるかを明示しています。
しかし、各設問がどのコンピテンシーに対応するかまでは書かれていませんので、ここでチェックしておいてください。
3枚問題のコンピテンシーと各設問との対応関係
受験案内には明記されていませんが、非常に重要なことがあります。
実は各設問に毎に審査したいコンピテンシーが設定されています。
この事実を知っているのと知らないのとでは、合否に直結する問題ですので要チェックですよ!
(2)解決策の提示 → 専門的学識 問題解決能力 コミュニケーション
(3)解決策のリスクとその対策 → 専門的学識 評価 問題解決能力 コミュニケーション
(4)技術者倫理と持続可能性 or 懸念事項と期待される効果 → 技術者倫理 コミュニケーション
※(4)は必須科目Ⅰのみ
上記より、以下5点が重要となります。
①やはり専門的学識なくして論文はかけない
②コミュニケーションは全設問において問われる
③問題解決能力には型がある
④評価とは
⑤技術者倫理はパターン化しておこう
の5つです。
1つずつ解説しましょう。
問われるコンピテンシーの表現方法
技術士試験二次試験は漠然と問われた問題や質問に答えるだけでは合格に至りません。
すべての問いに対して意図があります。
コンピテンシーを評価するという意図です。
受動的に引っ張り出してもらうことを期待せず、能動的にコンピテンシーを表現しなくてはいけません。
それでは3枚問題についてどのようにコンピテンシーを表現するか、具体的方法を解説します。
専門的学識|やはり専門的学識なくして論文はかけない
タイトルの通りです。
技術士試験を目指す方であれば、もちろんベースの専門知識は持っているでしょうし、それが問われることは覚悟の上でしょう。
知識が無ければ知恵も生まれないわけですから当然です。
設問の4(倫理関連)を除けば、ほぼ専門的学識なくして書けないといった内容になっています。
問題文はSDGsやバリューチェーンなど、抽象的な表現で問題提起されています。
ですので、「これ知ってますか?」「どんな意味ですか?」といったような正解を求められるようなことではなく、抽象から具体に絞り込むような形で課題抽出が要求されます。
その過程において、専門的学識が必要になります。
上記の例題だと、”金属製品の製造・加工”、”バリューチェーン”、”持続可能性”、その前提としての”SDGs”、これらのキーワードから浮かび上がる課題を自らの専門分野に落とし込むには、当然ながら専門的学識が必要となります。
例えば、レアメタルなどの省資源化、デジタル技術を用いた省人化、新工法による生産性向上、などの課題が抽出できます。
こちらの記事では、PREP法などの筆記試験で役立つ文章術について解説しますが、具体例を示すことで説得力が増し理解しやすい文章になるため、「専門知識を交えた例示」も重要となります。
また、解決策を提示するにも当然ながら専門的学識が必要です。
例えば、”レアメタルの省資源化”を課題として設定した場合、そもそもレアメタルの定義や具体的な元素名をしっかりと知識として持っておくことはもちろん、それらを使用量を削減する工業的手法をいくつか知っておかなくてはなりません。
ちなみにレアメタルを金、銀、白金などの宝飾品に使われるような貴金属と認識しているようではかなり問題ありですよ。
調べてみると、かなり多くの元素がレアメタルに該当することが分かりますので、ぜひ調べてみてください。
以上のように、技術士というプロフェッショナルとしての国家資格試験です。
知識だけでは書けないとは言いながらも、知識なくしても書けません。
専門的学識は文章を構成するための土台です。
こちらの記事で紹介するキーワード集などもうまく活用しながら専門的学識を身に着けることは普段から意識して取り組む必要があります。
コミュニケーション|コミュニケーションは全設問において問われる
コミュニケーションは全設問で問われます。
これは必須科目Ⅰ、選択科目Ⅲに限らず、選択科目Ⅱ-1及びⅡ-2も同様です。
「どういうこと?」
「毎回毎回、コミュニケーションを図った事例を盛り込んだ文章にしないといけないの?」
そういういことではありません。
「論文そのものが文書という形式の受験者と試験官のコミュニケーション」
ということです。
日常的に言うコミュニケーションとは、口頭(会話)ベースの意思疎通のことを指しますよね。
技術士二次試験の筆記試験におけるコミュニケーションは論文そのもの全体を指します。
少しわかりづらいので、技術士的コミュニケーションの定義に立ち戻ります。
「口頭や文書等の方法を通じて,~(省略)~,明確かつ効果的な意思疎通を行うこと」
とあります。
後半の「明確かつ効果的」な意思疎通。
ここに集約されます。
論文の設問一つ一つに「明確かつ効果的」に答えてください、ということです。
端的に言うと、「分かりやすく」書いてください、ということですね。
どうすると分かりやすいかについてはこちらの記事も参照ください。
ポイントは各設問、論文全体が分かりやすくあることこそがコミュニケーションということです。
問題解決能力|問題解決能力には型がある
問題解決能力は設問の(1)~(3)で問われます。
正確には、(1)~(3)個別の設問内でそれぞれ問題解決能力を問われるというよりは、「全体を通して問われる」と理解しましょう。
ここは、しっかり型を意識しないと効果的に問題解決能力をアピールできませんので身につけましょう。
とはいえ、この型は全く難しいものではありません。
難しくはありませんが、知っているのと知らないのでは大差があります。
型とは
『「問題」→「課題」→「解決策」→「リスク」→「対策」をこの順で境界線をはっきりさせ論述する』
それだけです。
当たり前すぎて拍子抜けしそうですが、意外とできていない論文が多いです。
型にはめるには
- 言葉の定義を明確にする
- 境界線を示す言い回しをする
ことが大事になります。
まずは、言葉の定義をはっきりさせましょう。
定義と言っても、辞書的な意味や、普段何気なく使っている意味ではありません。
あくまで、技術士論文的定義と解釈しましょう。
- 問題 :乗り越えるべき壁
- 課題 :問題(=壁)を乗り越えること
- 解決策:課題を実現するための具体的手段
- リスク:解決策を台無しにするような不確実な事象
- 対策 :リスクを回避又は低減させる具体的手段(解決策とほぼ同義と捉えてOK)
※つまり、問題と課題は表裏一体。普段混同して使用する言葉ですが、意味は真逆となります
といった感じです。
どうでしょうか、このようにかみ砕くと分かりやすかと思います。
特に「問題」と「課題」は普段、本当によく混同されて使用される言葉です。
例えば、”地球温暖化”というテーマであれば、以下のように整理できます。
問題:地球の温暖化
課題:地球の温暖化を解消すること(上昇率の低減)
解決策:CO2排出量の低減(EV化、再生可能エネルギー利用、植林etc.)
リスク:既存産業の衰退
対策:段階的・中長期的な排出量規制強化、新産業進出を促進する補助金etc.
このような感じです。
もちろん、実際の技術士論文では複数の課題を提示したり、もう少し具体的な解決策や対策としての手段を提示する必要はありますがイメージは掴めたでしょう。
上記の通り、課題は問題の裏返しですよね。
解決策は、課題を実現するための手段であることも分かります。
これらの言葉の定義をしっかり意識しておくことは論文作成に生きるだけでなく、普段の業務上におけるやり取りでも的確に意思疎通できることにつながりますよ。
例えば、問題提起から解決策の提案まで、こんな説明の仕方ができます。
「問題は○○で、細分化すると問題点はAとBとCです。それらの課題がA’、B’、C’ですが、コストと納期のバランスからB’が優先課題と考えられます。
それらを実現する解決策はA”、B”、C”です。ですが、残念ながらいずれの解決策にも共通してA”’というリスクが潜んでいます。
それにたいしてはB”’という対策でそのリスクの低減を図れます。」
といったような理論的で建設的な提案ができるようになるはずです。
次に重要なのが、
「問題なのか課題なのか各言葉の境界線をはっきりさせる言い回しをしましょう」
ということです。
これはいたってシンプルなことです。
「問題は○○である。・・・(背景説明)・・・。そのため、課題は△△である。」
のように、何が問題で、何が課題なのかシンプルな文法で明記することです。
分かりにくい文章の特徴として、「問題」や「課題」というワードすら入っていない論文があります。
まるで文脈やニュアンスで読み取ってくださいと言わんばかりの文章です。
600字詰め原稿用紙3枚と聞くと、文字数が多い、そんなに埋められる気がしない、感じるかもしれません。
ですが、実際は逆できちんと説明しようとすると文字数が足りません。
ですから、余計な装飾を減らし端的に説明しないと収まりません。
「主語(問題・課題・解決策)は、述語(〇〇である)」というシンプルな構文を頭出しにして、その後に理由や具体例といった説得力を増す説明をするのが鉄則です。
これを「PREP法」といいます。
P(Point):結果
R(Reason):理由
E(Example):具体例
P(Point):結果
の頭文字で、この順で文章を組み立てる方法です。
よく、「結論から先に言ってくれ」などと言われたり、言ったことはないでしょうか。
結論を先に知りたいのは技術士試験の試験官も同様です。
また、PREP法を意識することで、自ずと何が問題で何が課題かなどの境界線もはっきりします。
読み手の心理に寄り添ったシンプルな文章を書きましょう。
PREP法を使った具体的な例文は別で紹介します。
評価|評価とは
評価とは何でしょうか。
辞書的には、「どれだけの価値があるかを見定めること」などと定義されています。
しかし、ここでは「技術士論文的な評価能力」を問われています。
設問に「解決策に共通するリスクとその対策を述べよ」とあるので、まさにこの題意に沿った回答をすることが「評価」能力をアピールすることになります。
これだけでは少しわかりづらいので、解説します。
結論としては
「評価 = 解決策の欠点・弱点を挙げて、是正策を提示する」
ということです。
辞書的な意味は、「価値があるか見定める」とあるので、利点は利点として評価するわけです。
ですが、ここではすでに解決策を提示した段階で利点は述べている前提ですので、あくまで「リスク(欠点)を指摘+対策(是正策)の提案」が評価となります。
まず、「リスク」とは何か確認しましょう。
例えば、品質管理におけるリスクマネジメントでのリスクとは
「自組織の目的達成の成否および時期を不確かにする外部及び内部の要素ならびに影響力」
と定義され、その本質は
「何らかの影響、不確かさ」
です。
2002年までは、
「リスク=発生確率×被害の大きさ」
が広く用いられてきました。
リスクは好ましくない影響の程度と発生確率の積とされていましたが、ISO/IEC Guide73の発行でリスクの概念は
「目的に対する不確かさの影響」(JIS Q 31000:2010のリスクの定義)
として、危険性のような好ましくない影響に限定せず、好ましい方向も含めた影響をもたらす可能性へと意味が拡大された背景があります。
さて、技術士試験で言うリスクとは何でしょう。
あくまで、題意に沿った回答をすることを念頭に置いた定義として下記のように捉えて下さい。
技術士論文的リスクとは
「不確実で発生すると(前に示した)解決策が台無しになる事象」
です。
ここでポイントは発生確率も発生要因も”不明確”であること。
これらが明確であるものは、リスクではなく”問題点”です。
ですから、明らかなデメリットやほぼ確実に起こりうる不具合はリスクではありません。
起こるかどうかも分からない、もっと言えば一般的には着眼すらしないことも含めた、自身が提案する解決策を台無しにする潜在的な事象を予見することが、リスクに備える第一段階になります。
これが、「技術士論文で言うリスク」となります。
さらに題意に沿った解答という意味では
「“複数の解決策に共通する”リスク」
である必要があります。
ですから、例えば3つの解決策を提示した場合、その3つ全てを台無しにするリスクを予見することが求められますので注意しましょう。
また、「評価」能力が求めるのはリスクを予見することにとどまりません。
そのリスク、つまり先に提示した解決策を台無しにする要因の排除や影響度の低減策となる「対策」を提示しなければなりません。
この、「隙を見せない二段構え」(解決策+対策)こそが、技術士二次試験の3枚問題(必須科目Ⅰ&選択科目Ⅲ)で問いたい能力であるといっても過言ではありせん。
そして、その真髄が「評価」に隠されているということです。
ここで、受験案内で示されているコンピテンシーの評価を振り返ってみましょう。
評価の定義(受験案内参照):
「業務遂行上の各段階における結果,最終的に得られる成果やその波及効果を評価し,次段階や別の業務の改善に資すること」
となっています。
詳しい解説はこちらを参照下ください。
ここで確認しておきたいのは、単に成果や波及効果を評価するだけでなく、
「次段階や別の業務の『改善に資する』こと」
とあります。
これがまさに3枚問題においてリスクを示すだけではなく、その対策まで求められている点にあてはまります。
しっかりとコンピテンシーにおける「評価」能力を意識して解答しましょう。
技術者倫理|技術者倫理はパターン化しておこう
技術者倫理は必須科目Ⅰの設問(4)のみで問われます。
技術者倫理は、技術者・研究者であれば誰しも聞いたことがあるでしょう。
人によっては、大学の集中講義などを受けたり、テキストをぱらぱらとめくった記憶もあるでしょう。
それと同時に、恐らくほとんど人が苦手というか、興味が持てずに何だかよく分からず通り過ぎた道ではないでしょうか。
それも無理はありません。
倫理とは奥が深い上に、一回の集中講義で語り尽くせる内容ではありませんし、ましてや正解等もありません。
さらに私は「倫理の専門家はいない」と考えています。
高校では社会の選択科目としての倫理はあります。
ただ、あくまで哲学者などに関する知識が主で、倫理を選択したからと言って倫理観が備わるものでは到底ありませんよね。
倫理とは考え続けることに意味があり、その意識と姿勢そのものが重要視されます。
場面毎に最適解が異なり掴みどころがない、そんなところが多くの人から敬遠される所以かもしれません。
ただ、ここでは技術士論文における技術者倫理を指しています。
試験である以上、「こういう風に回答して欲しい」という出題意図があります。
課題抽出や解決策の提示においては、自らの専門性と発想力を活かした解答が高評価につながりますが、技術者倫理においてはその必要がありません。
前述の通り、倫理には専門家がいませんので奇をてらった解答は、仮に合理性があっても「この人は大丈夫か」と試験官から疑念を抱かれかねません。
“平均的”というと語弊がありますが、誰しもが素直に納得できる、ある意味当たり前の解答、それが試験官に安心感を与えます。
それでは、具体的にどのようなポイントを押さえればいいのかを解説します。
まず、初めのステップとしてコンピテンシーを振り返りましょう。
〇技術者倫理
技術者倫理の定義(受験案内参照):
・業務遂行にあたり,公衆の安全,健康及び福利を最優先に考慮した上で,社会,文化及び環境に対する影響を予見し,地球環境の保全等,次世代にわたる社会の持続性の確保に努め,技術士としての使命,社会的地位及び職責を自覚し,倫理的に行動すること。
・業務履行上,関係法令等の制度が求めている事項を遵守すること。
・業務履行上行う決定に際して,自らの業務及び責任の範囲を明確にし,これらの責任を負うこと。上の定義から要点を抜き出すと
- 公益確保 (定義の1番目前半:公衆の安全、健康及び福利を最優先に考慮)
- 社会の持続可能性確保 (定義の1番目後半:地球環境の保全等、次世代にわたる社会の持続可能性の確保に努め)
- 法令遵守 (定義の2番目)
- 説明責任(=アカウンタビリティ) (定義の3番目)
となることは、コンピテンシーの解説で述べた通りです。
この4つのいずれかに沿った解答をする必要があります。
また、必須科目Ⅰの設問(4)にある通り、
「技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から必要となる要件・留意点を述べよ」
とあります。
これには素直に、「技術者としての倫理」と「社会の持続可能性の観点」の2つに分けて解答すればOKです。
つまり、「技術者としての倫理の観点」と「社会の持続可能性の観点」とそれぞれ見出しを付けて解答用紙に記述しましょう。
改めて要点を振り返ると「②社会の持続可能性の確保」とありますので、自動的に技術者倫理の1要素である②を反映した解答ができることになります。
残りは、「技術者としての倫理の観点」と見出しを付けたところの内容として何を書くかです。
①公益確保 ③法令遵守 ④説明責任 から書きやすそうなものを選ぶといいでしょう。
もちろん、ある程度論文の(1)~(3)の設問に解答した内容に沿っていることも考慮する必要があります。
ここで一つ疑問がわきませんか?
必須科目Ⅰにおける設問(4)は、その設問全体を通して技術者倫理を問う設問です。
ですが、設問の内容は「技術者としての倫理」と「社会の持続可能性の観点」とに分けて聞いています。
受験案内の技術者倫理の定義を見ても分かる通り、「社会の持続可能性」は「技術者倫理」に内包されるものです。
つまり、社会の持続可能性を考えることは技術者倫理の1要素なわけですが、わざわざ分けて聞いているところが気にかかりますよね。
これは私の解釈ですが、出題者、つまり日本技術士会は
「技術士たるもの、技術者倫理は必須の資質能力であるが、特に持続可能性の観点はより重要視して評価したい」
という意図の現れと捉えています。
地球温暖化や異常気象など自然現象に留まらず、大国同士の経済制裁など地球規模で取り組まなければならない課題の出現が後と絶たない中、SDGsなど、具体的な持続可能な社会実現に向けた目標が各国で示されている状況です。
日本技術士会として、これからのわが国の技術を担う技術者に「社会の持続可能性」については漏れなく聞いておきたいという意図があるのも頷けます。
ですから技術者倫理と持続可能性は別項目という意味ではなく、敢えて分けているものと解釈すると受験者側も納得ですよね。
余談が多くなりましたが。。。
さあ、これで設問(4)の方向性はだいたい決まりましたが、パターンというにはまだ遠いですね。
具体的に必要となる視点を交えてパターンを解説します。
「社会の持続可能性の観点」と「技術者としての倫理」とに分けます。
・「社会の持続可能性の観点」
社会の持続可能性とは、コンピテンシーとしての技術者倫理の定義にある通り”地球環境の保全等”というのが最も代表的な例と言えます。
もちろん、持続可能性とはもっと広い意味で捉えるべきで、例えば皆さんが所属している会社や組織、地域や行政など様々な社会経済を担う主体が、事業や活動を永続的に行える可能性という広いニュアンスが含まれます。
ですが、あまり視点を広げすぎても思考が発散してしてしまいますし、社会の持続可能性の観点から論述できる分量はわずかです。
あまり飛躍した視点から述べてしまうと説明不足に陥り、試験官に論述内容を伝えきれない危険性があります。
ですので、
「社会の持続可能性 ≒ 地球環境保全への配慮」
と割り切って解答パターンを用意してしまうと安心して試験に臨めます。
それでは、どのような解答を用意しておくといいでしょうか。
そこまで決めてしまうと、逆に何が地球環境を脅かす要因かを考えましょう。
例えば、設問(1)~(3)の内容で、「新規材料開発」、「生産技術改良」などを解決策や対策として挙げたとしましょう。
それらの策の中で抜け落ちている部分を地球環境保全の観点から指摘してフォローするといいでしょう。
具体的には、
・レアメタル使用量削減
・エネルギー(CO2排出量)使用量削減
などが挙げられます。
これらと、SDGsの17の目標のいずれかと絡めて、
「対策である〇〇を推進する一方で、持続可能性の観点から△△の削減が課題である。SDGsのも17の目標の一つである□□への配慮が重要となる」
といったように、
「具体的な問題や課題の指摘 → SDGsなど前向きな姿勢のアピール」
とつなげる定型パターンを3つくらい準備しておきましょう。
・「技術者としての倫理」
既に技術者倫理のポイントを①~④の4つ押さえた中で、②社会の持続可能性の確保 については既に触れています。
必然的に①③④に当てはまるような内容を述べるといい、ということになります。
本当に①③④どれでもいいのですが、オススメは①公益確保です。
理由は主に2つあります。
- 公益確保は技術者倫理もしくは技術士倫理を論じる上で最重要であること(最重要である理由は口頭試験対策の記事で解説します)
- 公益確保の観点は汎用性が非常に高く、どのような論文の流れにもマッチしやすいこと
です。
それでは、逆にどのような状況が公益確保を阻害するかを考えましょう。
「公益⇔私益」
の関係性から特定の企業や団体と一部の利害関係者のみが利益を得ている状態です。
もちろん、特定の団体が利益を得ていることそのものが悪ではありませんが、問題なのはその裏に犠牲が伴っている場合です。
例えば、A社がとても生産効率の良い製造技術を確立したとします。
その技術によって、コスト削減が図られA社の利益率が向上するばかりでなく、顧客であるB社にも安価に製品を提供できることから、win-winの関係となったとします。
しかし、その製造技術には添加剤Cを使用する必要があります。
その添加剤Cには人体に有害な成分が含まれていた場合どうでしょう。
洗浄したとしても、100%除去できるか確証はありません。
仮に100%洗浄除去できても廃液には残留します。
その廃液の管理や処理に伴うリスクを完全に排除することも難しいでしょう。
つまり、「安全・安心」が脅かされることになります。
このように具体的状況を想定すると非常に論文が書きやすくなります。
ですので、
「技術者としての倫理 ⊃ 公益確保 ≒ 安全・安心の確保」
と自分の中で方程式化しておくと迷いがありません。
もちろん、公益確保はあらゆる利害関係者や社会全般の損害になることを避ける選択を行うことを広く意味しますので、安全・安心の確保にとどまりません。
ですが、思考が発散しすぎては限られた文字数に、瞬時に対応できる論文はかけませんので上記のように方程式化してしまうことをおすすめします。
また、安全・安心は非常に応用がききます。
解決策や対策で提案したことが万人にとって有益かどうかを考えれば発想は膨らみます。
例えば、開発者、現場の作業者、近隣住民、使用者etc.
日々、様々な企業や研究機関等で新しい技術が開発されている背景として、万能な策はない、改善に終わりがないことを示しています。
何か新しい技術開発をした際に、様々な利害関係者に思いを巡らせると明確な損害と言わないまでも何らかの影響が伴います。
この方法、確かに効率はいいけど安全面はどうかな、などちょっとしたことでもいいのです。
影響の「重篤度ではなく、気配り」の視点で安全・安心が担保されているかを考え、
「指摘 + フォロー」
により、「技術者としての倫理」観を備えていることをアピールしましょう。
いかがでしょう。
技術者倫理につい何も手立てがない状態よりは、ぐっと書きやすくなったと思います。
繰り返しになりますが、技術者倫理は本来より広い観点で考え続けるべきことです。
あくまで技術士二次試験の筆記試験対策として、本番で混乱しないための手立てと言えます。
「技術者倫理」とは別に「技術士倫理綱領」というものがあります。
これは口頭試験対策で必要になりますが、筆記試験対策の際もそのようなものがあると頭の片隅に入れておいてください。
まとめ
さあ、技術士二次試験の筆記試験のうち、3枚問題(必須科目Ⅰ&選択科目Ⅲ)について下記のポイントについて解説しました。
- 概要
- 要点
- コンピテンシーへの対応方法
特に重要なコンピテンシーへの対応方法については
- やはり「専門的学識」なくして論文はかけない
- 「コミュニケーション」は全設問において問われる
- 「問題解決能力」には型がある
- 「評価」とは
- 「技術者倫理」はパターン化しておこう
を意識して表現することが重要でしたね。
更にこちらの記事では具体的な文章術について解説しますのでそちらも参考にしてください。
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