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スクラップアンドビルド
スクラップアンドビルドの現状と背景
〇現状
日本の建物の寿命は欧米に比べ短く、フロー型と呼ばれている。
経済活動では、一定期間に資本が流れる量をフロー、貯まる量をストックと言う。
一方、建物におけるフロー型とは、建物を次から次へと作り出し、より多くの資金を循環させようという考え方のこと。
少しでも老朽化したら取り壊し、新しい建物を建てるのがスクラップアンドビルドの手法。
国土交通省の資料によると、建物がつくられてから消失するまでの平均期間は、米国が55年、英国になると75年もあるのに対して、日本はわずかに30年しかない。
〇背景
日本の伝統的な建物は主に木、欧米は石やレンガでつくられていた。
また、材質的違いに加え、日本では江戸時代から「スクラップアンドビルド」の思想が強まる。
江戸の人口は15万人から100万人に爆発的に増加し、当時としては世界最大規模の都市に成長した。
一方で、木で作られたが家が密集したため、火事に弱い都市であった。
3年に一度は江戸を焼き尽くすほどの火災が発生したり、M7クラスの地震が発生するなどの災害を通して、江戸時代の建物はは破壊されては作り直すというスクラップアンドビルドを何度も経験した。
舵などの災害によって壊れる前提の一般庶民の住居は安普請なものが一般的。
家が簡素であり壊しやすく、近隣に火災が燃え移りにくいというメリットもあった。
1954年からの高度経済成長により、日本のスクラップアンドビルドは加速する。
日本経済の成長により、土地の価格が上昇、好景気によりお金の循環も活発化。
土地や建物は投機の対象となり、建物が少しでも古くなると法定耐用年数を迎える前に破棄し、新しく建設するように。
1990年代に入り、日本の経済成長が緩やかになると状況が変わる。
景気の悪化に伴い資金の循環が停滞し、取り壊しや新築にかかる費用の捻出が企業の経営を圧迫するように。
1997年に京都議定書が採択されるなど、社会の環境に対する関心が急速に高まる。
その中で、大量の廃棄物を出す建物の取り壊しには配慮が必要になった。
このように、日本に建設事情はフロー型が限界を迎え、「ストック型」並行するようになる。
スクラップアンドビルドの特徴
〇メリット
- 木材など材料コストが安価
- 簡易な構造のため建設にかかる労力が少なく、工期も短い
- 壊しやすい
〇デメリット
- 簡易な構造のため耐久性が低く、災害に弱い
- 老朽化しやすく寿命が短い
- 建設資材を多く使用することから、環境負荷が大きい
スクラップアンドビルドの問題点
特徴におけるデメリットと重複するが、
- 建物の寿命が短いため、取り壊しによる大量の廃棄物が出る
- 新築の際に資源・エネルギーを消費する
- 建物自体の劣化
- 設備の故障
- 修繕費の増加
- 建物や付帯設備の衛生面や機能性の低下
ことなどから、環境負荷が大きいことに加え、建物の老朽化に伴い
などが挙げられ、環境やコスト面のリスクばかりでなく、建物の利用者の満足度低下なども引き起こす。
特に、複数の施設を保有する企業や自治体にとっての影響は甚大である。
解決策
解決策として、「既存ストックの改修による長期耐用化」と「新築物の長寿命化」が挙げられる。
いずれにも共通するポイントとして、環境に配慮・省エネルギーという視点が欠かせない。
また、住宅などにおいては世代を超えて長く住める設計も重要である。
環境・省エネ、計画・設計、施工、維持管理の4つの観点から以下のような解決策が考えられる。
環境・省エネ
〇断熱・遮熱性能の向上
古い建物は気密性。断熱性が低い物件が多い。
リフォームや新築の際には断熱材を適切に選択することが必要。
従来の代表的なグラスウールに代わり、アルミシートを利用したもの、セルロースを使用したものなど高機能な遮熱・断熱材選びを行う。
〇高機能な屋根・外装塗装
屋根や外装の塗装を変えるだけでも、外観が見違えるばかりでなく、断熱・遮熱優れた機能性を付与することができる。
特殊セラミックスを配合した塗装で塗膜自体の耐久性向上、遮熱・断熱性能向上で省エネルギー化を図ることができる。
計画・設計
〇スケルトン・インフィル住宅(SI住宅)
世代を超えて長く住むことができる住宅形態の1つ。
長期間に渡って耐久性を持つ建物の骨格(スケルトン)部分と、住まい方の変化に応じて自由に変更ができる間取りや内装(インフィル)部分とに分離した住宅。
SI住宅では配管などの修理や交換が用意できるように二重床や二重天井などの空間を確保し、老朽化や住まい方に合わせて、スケルトンを変えずにインフィルのみを改修・修繕できるため結果として建物全体の長寿命化を可能にしている。
スケルトン部分は、柱・梁・外装・床スラブが、インフィル部分は内装・電気設備・給排水設備・キッチン・洗面化粧台・浴室などが該当する。
〇ライフサイクルへの配慮
建築の計画・設計において施工・運用・解体時の建設廃棄物の排出量やエネルギー消費、温室効果ガスの発生量をどう低減するかという観点が欠かせない。
そのため、建築物のライフサイクルにおけるCO2(LCCO2)及び廃棄物排出量(LCW)を算出する方法などの研究が行われており、建築物の長寿命化が廃棄物発生量に有効であることが分かっている。
なお、ライフサイクルを通した環境影響評価手法として「ライフサイクルアセスメント(LCA)」があり、これに経済的観点を加えた「ライフサイクルコスティング(LCC)」に関する件きゅが1990年代から盛んにおこなわれている。
施工
〇コンクリート建材
鉄筋コンクリート造の建築物では、コンクリートが空気中の二酸化炭素などと反応してアルカリ性から中世に変化(中性化)すると、内部の鉄筋の錆(酸化)が進行し、劣化の原因になると言われている。
こうした問題に対し、鉄筋コンクリートの耐久性向上に関する研究が進んでいる。
コンクリート内の気泡や空隙を減らして中性化を抑制する、乾燥収縮によるひび割れを防止するなどにより100年から500年以上の耐用年数を可能にするコンクリートの開発事例がある。
〇木質建材
木質建材の大砲性確保については、国土交通省による「長寿命木造住宅整備指針」(平成14年)のなかで、
「水分・湿気などの影響による腐朽やシロアリ被害などに起因する材料の物理的劣化を軽減」するための対策が重要であることが示されている。
そのため、
- 水分・湿気・結露による腐朽が生じにくい
- シロアリに強い
といった特性を付与した木質建材の開発が進められている。
なお、木質建材の品質・性能を保証する制度として、
などがある。
〇その他建材
- 住宅用断熱材:耐熱・高耐久性真空断熱パネル
- ノンアスベスト高耐久性瓦(パルプ繊維使用)
- 環境対応・省工程型高耐久性塗料:表層と下層にシリコーン樹脂・エポキシ樹脂使用
維持管理
〇劣化診断
経済産業省「構造物長寿命化高度メンテナンス技術開発」プロジェクトでは、鋼構造物及びコンクリート構造物に対するセンシング技術(対象物を破壊・接触せずに内部を検査する技術)を開発。
(独)科学技術振興機構で「社会インフラ劣化診断・寿命管理技術」への取り組みを行っている。
〇履歴情報管理・共有
建築物の材料・施工方法・検査結果・修繕状況などの記録を残し、必要な時に閲覧できるようにするは建築物の維持管理、中古物件の流通促進、建築物の長寿命化につながる。
無線ICタグ(0.4~2.0mm角程度の小さなICチップなどから構成される記録媒体)などを用いた情報管理技術が開発されている。
ICタグを建物内に埋め込み携帯端末などで記録情報を閲覧できるようにする。
建築物に使用されている材料や設備機器などの種類が分かり、メンテナンスや改修工事の計画が立てやすくなるなど、ICタグによる様々面での維持管理の効率化が期待される。
今後の展望
環境省は「超長期ビジョンの検討について(報告)」の中で、目指すべき社会像として、
「快適性と省エネルギー性能を兼ね備えた高機能住宅・建築物が、地域の文化的・歴史的背景と融合するするようにデザインされており、地域の気候に合わせた生活の知恵を継承しながら、長く大切に利用する『200年住宅』や『長寿命オフィス』が一般的となっている。
このような住宅・建築物の長寿命化に伴って良質な中古物件も数多く流通しており、消費者はライフステージに応じてフレキシブルに住宅を選択したり、オフィスを移転したりすることが可能」な社会を描いている。
建築物の長寿命化に関する研究・開発テーマについては、「多世代利用型超長期住宅及び宅地の形成・管理技術の開発」では
- 良い住宅を造る
- 良い住宅に造り替える
- きちんと手入れして、長く使っていく
という目標ごとに、体系的に様々な課題を整理している。
今後も目指すべき社会像に向けて、具体的で継続的な研究・開発が進められることが期待される。
参考
NTTファシリティーズ ビジネスコラム
SumaiRing
環境展望台
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