【経営工学キーワード】インクルーシブデザイン

経営工学
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はじめに

経営工学に関連したキーワードを学習していて気付いたことがあります。

「多面的な視点が養われ、汎用性がめちゃ高い!」
「技術士二次試験の経営工学部門に限らず、多くの部門に応用可能な知識や方法論が満載!」

ということで、技術士二次試験(経営工学部門)の対策をしている時にまとめてきたキーワード集をほとんどそのままご紹介!
本経営工学キーワードシリーズの記事の特徴として、ある1つのキーワードをについて

  1. キーワード名
  2. キーワードを取り巻く背景
  3. 原理と特徴
  4. 問題点
  5. 解決策
  6. 応用例
  7. 今後の展望

これらのような、あるいはこれらに近い視点でまとめています。
これはそのまま、技術士二次試験対策に直結するまとめ方です。

このシリーズの記事は次のような方にオススメです!

  • 技術士二次試験(経営工学部門)受験予定の方
  • 技術士二次試験(経営工学部門以外)の受験予定の方
  • 技術士に興味はないけど、経営工学を勉強したい方

ぜひ、それぞれの目的に合わせて勉強にもお役立てください!

キーワード名

インクルーシブデザイン

定義と背景

〇定義
インクルーシブデザインとは、高齢者、障がい者、外国人など、従来、デザインプロセスから除外されてきた多様な人々を、デザインプロセスの上流から巻き込むデザイン手法。
インクルーシブデサインは、超高齢社会の様々な施設、プロダクト、サービス、Webなどをデザインするための大変有効な手法と言える。

〇背景
完全に成熟した経済では、もはや平均的なユーザの声を聴くことから差別化できる商品を創造するのは困難と言える。
消費者の価値観が多様化した現代において、平均値に合わせ込んだ商品づくりから、個々の顧客の多様化したニーズに対応した商品づくりの重要度が増している。

インクルーシブデザインを提唱したのは、イギリス・ロンドンにあるロイヤル・カレッジ・オブ・アート(英国王立芸術大学院)のロジャー・コールマン教授。
彼は、友人である車椅子の女性から自宅キッチンのデザインを依頼され、車椅子でも使いやすい機能的なキッチンを考えた。
しかしその女性が言ったのは、「他の人がうらやむようなキッチンをデザインして」という希望。
ハンディを考慮すると機能性のみ追求しがちだ。しかしコールマン教授は、「本当は何を望んでいるのか」を障害者と同じ目線で考える大切さに気づいた。
深いニーズや価値観を掘り起こして解決することが、インクルーシブ・デザインの本質である。

原理と特徴

〇原理(手法)
デザイン思考(デザインシンキング)」の方法論を参考にしたワークショップなどを開催することが1つの手法と言える。
デザイン思考は、シリコンバレーのデザインファームであるIDEO社(アップルの初代マウスをデザインしたことで有名)の手法を方法論化したもので、スタンフォード大学等で積極的な研究・教育活動が行われている。

デザイン思考は、ビジネス全体に関わる手法であり、プロダクトデザインにとどまるものではない。
優れたデザイナーの創造性をあらゆるビジネスシーンで発揮するためのもの。
ただし、その優れたデザイナーとは創造性豊かな天才的な人物の事を指すわけでない。
デザイン思考は組織的な創造性を高めるための「方法論」。

具体的にはデザイン思考の5ステップ

「共感」→「問題提起」→「創造」→「プロトタイプ」→「テスト」

のステップをたどる方法論である。

各ステップについて解説する。

①共感(知る→体験する→先入観を壊す)
まず、リードユーザ(高齢者、障がい者、外国人など)が施設・プロダクト・サービス・Webなどを利用している様子を徹底的に観察したりインタビューする。
リードユーザとの共同体験によって、今まで全く気付かなかったようなプロダクトやサービスの問題点を発見できる。

ほとんどの人は、プロダクトやサービスについて「こういうものだ」という先入観をもっているが、リードユーザとの共同体験によって、先入観が打ち壊される。
既成の先入観を手放すことによって、チーム内の共感が生まれる。

多くの組織において共感を作り出すのが困難なのは、各々のメンバーが既成の考え方にとらわれているから。
共感に基づきリードユーザの困難を解決すべくメンバーが団結し、創造的なアイディアの実現に向けてチームが力強く動き出すフェーズ。

②問題提起(分類→整理→順位づけ)
「共感」のステップで各メンバーが感じたことを分類整理する。
今まで自分達が「どのような思い込みをしていたか」、そしてリードユーザに「今後どのような価値を提供すべきかすべきか」を論理的に整理する。
メンバーから提示された、さまざまな今後の提供価値についてリードユーザとの対話に基づき優先順位をつける。
チームとして提供すべき価値の方向性を共有し、具体的な解決策のアイディア出しにつなげる。

③創造(今後の価値提供→描画→マルチプルシナリオ)
従来の思い込みを打ち破り、今後の提供価値を実現するアイディアを発想・共有する。
アイディアを絵として描くことによって、チーム全体のアイディア加速的に膨らませる。
そのアイディアが、リードユーザ以外のさまざまな人々にも通用するかどうか検討(マルチプルシナリオ)し、アイディアのターゲット市場の拡大を目指す。

④プロトタイプ(簡易モデル作成→失敗を繰り返す)
段ボール、画用紙、テープ、粘土などで短時間でプロトタイプを作成する。
近年では、3Dプリンタ比較的安価で入手可能なため、3Dプリンタを活用した試作も可能である。

アイディアを具体的なカタチにすることによって、解決策に関する思考がさらに深まる。
目的はあくまでプロトタイプを作成することではなく、アイディアを出すためであることを念頭に置く。
コストをかけて作成する試作品ではないので、何度でも失敗することを許容する。
その失敗を重ねることによって、優れたアイディアが生まれる。

⑤テスト
作成したプロトタイプが有効なものかどうかを、リードユーザを含むワークショップ参加者によって検証する。
プロトタイプの説明においては寸劇を取り入れ、そのプロトタイプが使われる文脈をしっかりと表現することがポイント。
テストで判明した問題点を解決するために、「共感」のステップへと立ち戻り、再度、デザイン思考の5ステップを行って、アイディアのさらなるブラッシュアップを図る。

〇特徴

  • デザイン思考は「顧客と同僚との共感をベースとする徹底的な現場主義」の手法で、組織のスピードを飛躍的に向上させる。
  • 現場での強い共感に基づき、あらゆるビジネス課題について迅速に答えを出していくデザイン思考は、多くの日本企業が直面する閉塞感を打ち破る可能性を持った方法論であると言える。

問題点

〇リードユーザーの設定と抽出の偏り
高齢者、障害者、外国人など、どのユーザーに焦点を当てるか、またそのターゲットの中から抽出するユーザーに偏りが出ることが問題点として挙げられる。
インクルーシブデザインは、リードユーザー参加型のデザイン思考であり選ばれたユーザーの意見や嗜好が強く商品開発に反映される。
ユーザーの選定の仕方によっては意見や嗜好に偏りが出る可能性がある点が問題点である。

〇方法論が明確でない
IDSなどでは、デザイン思考の方法論にインクルーシブデザインをあの考え方を当てはめた方法を提唱している。
しかしそれは、原則的なものであり方法論としては明確でない。

解決策

〇共感体験
リードユーザによる指導と支援を受けながら開発者が実際に体験する。
そこで気付いたポイントを付箋などに書き出していく。

〇行動観察
主観だけではなく客観的視点も取り入れるため、リードユーザや他の開発担当者が商品を使う場面などをよく観察する。
気付いたポイントを付箋などに書き出す。

〇アイスブレイク
付箋に書き出した内容を、リードユーザや開発メンバーでブレーンストーミング形式で話し合う。

適用例

〇肌の色に囚われないバンドエイド
2020年6月10日、バンドエイドは多様な肌の色に対応した絆創膏を発表。
これまでは形やサイズ、柄などの種類があったが、黒人の肌に近い色合いなど、さまざまな人種の消費者に対応するカラーバリエーションをそろえた。
さらに、公式のインスタグラムでは「We hear you. We see you. We’re listening to you.」という言葉を添えて、消費者のことを親身に考えていくブランドメッセージを発信。
「Black Lives Matter運動」へ寄付する姿勢も示された。

〇航空会社JetBlueによる母の日キャンペーン
アメリカの航空会社Jet Blueは、母の日のサプライズとして、フライト中に赤ちゃんが一度泣くと次回のフライトが25%OFFになるというキャンペーンを実施した。
4回泣き声をあげると、なんと次回のフライトは無料!
赤ちゃんが泣くことで周りの乗客に迷惑をかけてしまうのでは、という母親の不安と後ろめたさを解消し、乗客全員が笑顔になれたキャンペーンとして話題を集めた。

〇視覚障害も操作しやすいiPhone
スマートフォンの普及を推し進めたiPhoneは、視覚障害者も操作しやすいよう、登場初期から音声読み上げのスクリーンリーダーが用意されていた。
また、音の大きさやディスプレイの色味など、詳細に設定をカスタマイズできることも、多様な持ち主の使いやすさを配慮したもの。
こうした形式になるまで、何度もリードユーザーとディスカッションを重ねた。

〇視覚障碍者の声を取り入れた腕時計
シチズン時計は、視覚障害者に対応する腕時計を2020年3月19日に販売開始した。
同社は「市民に愛され、市民に貢献する」という企業理念のもと、1960年に国産で初めて視覚障害者対応の腕時計を発売。
SDGsなど社会課題の解決に寄与するため、インクルーシブデザインの考え方を取り入れた新製品を企画。

〇こども用の薬をテーマにした「こども+くすり*デザイン」
「こども+くすり+デザイン」は、子どもが飲みやすい薬をつくることで、親子それぞれの身体的・精神的な負担を軽減し、子育てしやすい環境をつくるプロジェクト。
まず「課題を可視化」し、社会への問題提起としてブックレットがつくられた。
第2弾として「けんこうキッズ」というお薬手帳も配布されている。

〇誰もが楽しめる美術館の在り方を考える
「横浜市民ギャラリーあざみ野」をベースに、2009年から本格的にスタートしたプロジェクト。
「こんな美術館あったらいいな!」というテーマで、美術館利用にあたり課題を抱えるリードユーザーと市民が参加するワークショップが行われた。
そこでは、誰にとっても使い勝手のいい美術館とは何か考えられた。

〇子ども向け遊戯施設をよりフラットに
山形市では子ども向け遊戯施設「コパル」を2022年4月18日に開所。
この建築は、障がいの有無や国籍、家庭環境の違いに関わらず、すべての子どもたちに開かれた遊び場として設計された。
また、インクルーシブな視点から必要となるスロープや手摺、誘導ブロックなどが、ただバリアを解消するだけでなく誰にとっても新しい遊びや学びのきっかけになるようにデザインした。
野山で自由に遊びを発見するように、試してみたい、探検したいという気持ちが自然と生まれる、多様な遊びを触発する空間とした。

今後の展望

インクルーシブデザインは高齢者や障がい者向けのデザインだけでなく、多くの人々に訴求できるデザインをも実現できる。
施設、プロダクト、サービスのデザイン、webデザイン、ビジネスプロセスのデザインなど広い範囲での活用が可能。

例えば、インクルーシブデザインのワークショップなどの場においては、健常者には気付かないような発見があり、ヒット商品を生み出す洞察を得ることができる。
企業研修でもインクルーシブデザインのワークショップを導入する企業が増えている。
多用な人々が参加することで既成概念を打ち破る新たなビジネスを創造する主要をも学ぶことができる。

参考

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