コンピテンシーは超重要な二次情報
コンピテンシーは資質能力とも言われ、技術士試験においてとても重要な情報となります。
技術士二次試験は、まさにこのコンピテンシーを有しているかを試される試験とも言えます。
裏を返せば、いかに筆記試験や口頭試験中でコンピテンシーをアピールできるかが合否の分かれ目と言っても過言ではありません。
そういう意味で、このコンピテンシーは技術士二次試験において、一次情報である技術士法に次いで重要な二次情報と位置付けられます。
コンピテンシーについては受験案内に記載されてますので、誰でも入手可能な情報です。
ただ、それを「どう解釈し、解答に落とし込むか」これが受験生に問われています。
“技術バカになって専門知識一辺倒”になってはいけません。
専門知識は以下の通り、7つのコンピテンシーのうちの1項目に過ぎないことを十分に認識するところから始めましょう。
それでは、詳しく見ていきましょう。
以下、令和2年度受験案内を参照しながら解説します。
なお、現在のコンピテンシーは平成26年3月7日 科学技術・学術審議会 技術士分科会で定められたようです。
専門的学識
定義(受験案内参照):
・技術士が専門とする技術分野(技術部門)の業務に必要な、技術部門全般にわたる専門知識及び選択科目に関する専門知識を理解し応用すること。
・技術士の業務に必要な、わが国固有の法令等の制度及び社会・自然条件に関する専門知識を理解し応用すること。
専門的学識について以下の通り解説します。
定義の中では少々難しく表現されていますが、捉え方はシンプルでOKです。
皆さんが受験する「技術部門及び選択科目に関する”専門知識及びその知識を実業務で活用できる能力“を有していること」と解釈できます。
専門知識については、技術士を目指そうと考える方であれば、十分にベースはできているはずです。
あとは、それを「論文に落とし込めるか、実践を意識した記述ができるか」が重要です。
ただし、注意が必要なポイントは
- 過去問と得意分野のすり合わせ(選択科目選びは重要)
- 専門書、学会誌、業界誌などで日々強化
- 専門知識と専門周辺知識の両輪
- 専門的学識はコンピテンシーの1/7にしかすぎない
- しかし、専門的学識は他のコンピテンシーのベース(土台)となる
上記の案外見落としがちなポイントは「専門”周辺”知識」のところです。
後の問題解決能力や、普段の皆さんの業務にも直結する話ですが、ゴリゴリの専門知識一辺倒では問題って解決しませんよね。
例えば、技術士試験においてはどの分野でも「デジタル技術」「環境問題」「SDGs」「品質管理」などの基礎的な知識は必須です。
私は「情報工学の専門じゃないのでデジタル技術はわかりません」などとは言っていられないのです。
ご自身の専門領域に紐づけるように周辺知識の強化にも取り組みましょう。
その手段としては、各専門の学会誌などの特集記事や、研究論文の緒言に書かれれている内容や、日経ビジネス、日経ものづくり、ものづくり白書などが参考になります。
問題解決能力
定義(受験案内参照):
・業務遂行上直面する複合的な問題に対して、これらの内容を明確にし、調査し、これらの背景に潜在する問題発生要因や制約要因を抽出し分析すること。
・複合的な問題に関して、相反する要求事項(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)、それらによって及ぼされる影響の重要度を考慮した上で、複数の選択肢を提起し、これらを踏まえた解決策を合理的に提案し、又は改善すること。
問題解決能力についてい以下の通り解説します。
問題解決能力は普段の仕事でも良く使う言葉ですし、よく発揮する能力でもあると思います。
でも、そのイメージで安易に解釈するのは禁物です。
「技術士的」問題解決能力は、丁寧に正しく理解すること心掛けると二次試験の論文の質が飛躍的に向上します。
定義が2つに分けられています。これらを端的に表現すると、
- 問題抽出能力及び課題設定能力
- 解決策の提案力
と言えます。
①問題抽出能力及び課題設定能力
問題解決と一言で言っても
というプロセスに分解されます。
まずはそのプロセスの前半部分について理解を深めます。
そのために、①をさらに①ー1「問題抽出能力」と①ー2「課題設定能力」とに分けて解説します
①ー1問題抽出能力
技術士二次試験筆記試験では、人口減少、高齢化、環境、資源、技術革新 等々 様々な社会問題を取り上げて、それらを題材に受験者の「問題解決能力」を問うてきます。
それらは大きな”マス”としての問題です。
マスをマスのまま捉えていては、問題の根本原因や解決策は見えてきません。
そこで必要なのが問題を「分解」して「問題”点”」として捉えなおす力です。
言い換えると、現状起こっている、あるいは今後起こるであろう問題は複数の要因が複雑に絡み合って出来上がった結果とも言えます。
そこを紐解いて問題点を抽出することがまず必要です
例えば、「地球温暖化」という大きな問題があった場合、その主な要因は「CO2排出量の増大」があります。
(その他、フロンなどの温室効果ガスもありますが、それはさておき)
CO2排出量の増大の要因を深堀すると、発電所、自動車、工場、オフィス、家庭等々が浮かび上がります。
ここまで掘り下げるこで、具体的な手立てが考えられそうです。
このように、咀嚼可能なレベルまで問題の要因を分解することが問題の抽出と言えるでしょう。
①ー2課題設定能力
上記で述べた問題とは、いわば乗り越えるべき「壁」です。
壁が見えたら、その「壁を乗り越えること」が「課題」です。
つまり、一般的には問題と課題を混同して表現されることがありますが、「問題≠課題」であることに注意です。
課題と問題は表裏一体の関係です。
と問われたら、
A「化石燃料の燃焼です」(誤)
と答えてはいけません。
A「化石燃料の消費を抑えることです」(正)
と答えてもらいたい、ということです。
要は、「問題をなくす、又は抑えること」が「課題」と言えるでしょう。
①ー1と①ー2をまとめると、問題解能力の前段「問題抽出能力及び課題設定能力」とは、
与えられた問題に対して「問題点(原因)を抽出し、それに対する適切な課題を設定する力」と捉えましょう。
②解決策の提案力
課題設定ができたらいよいよ解決策を提示します。
のプロセスにおける後半部分にあたります。
この辺りが技術士らしい真価を試されるところ、いったところでしょうか。
ここで今一度、一次情報である「技術士の定義」を思い返してください。
忘れてしまった、分からないという方はこちらを参照して下さい。
科学技術に関する「高等の専門的応用能力」とあったはずです。
このフェーズにおいて、”どのような解決策を提示できるか”が専門的応用能力を発揮するカギになります。
ただの技術者ではない、「高等の専門的応用能力を持った技術者である技術士」。
それにふさわしい解決策を提示しましょう。
②解決策の提案力を ②ー1「課題を具体化する戦術」と②ー2「戦術の両面理解とフォロー」とに分けて考えます。
②ー1課題を具体化する戦術
①の問題抽出と課題設定はいわば、何が問題であるかの本質の理解と、それに対する手立てである「戦略」と言えます。
問題にどう立ち向かうかの方向性が「戦略」であるとすると、それを実現するためには具体的「戦術」が必要です。
その戦術に関する知識と知恵を表現するの力が必要というわけです。
問題解決能力の定義の項目2つ目に次のようなキーワードがあります。
- 相反する要求事項
- 影響の重要度
- 複数の選択肢
の3つです。
「相反する要求事項」への考え方
先ほど触れたように、問題は複数の要因の複合で成り立っています。
つまり、課題も多角的な視点で設定する必要があります。
QCD(Quality(品質), Cost(コスト), Delivery(納期))など、自分なりに持つべき視点を決めておくのがいいでしょう。
これが、「相反する要求事項」に対する姿勢です。
例えば、
・課題:「製品Aの不良率を低減する」
とし、
・解決策:「シミュレーションソフトを導入する」
と提案するとします。
確かに、それで実工程上の欠陥を予測し事前策を立てやすくなり、製造現場における不良率の低減が図れるかもしれません。
一方で、ソフトの導入費用や維持費がかかります。
このように品質向上とコストがトレードオフになり相反する要求ということになります。
提示する解決策が完璧である必要はありません。
重要なのは”負の側面をしっかりと認識“することです。
そこも含めて説明ができればOKです。
「影響の重要度」の考え方
また、複数の課題が見えてきたら、その課題をクリアすることによる「影響の重要度」を見積もる必要があります。
実業務を想定しても同様ですが、全課題を一気には解決できません。
まず、何から手を付けるべきか、優先順位をつける必要があります。
影響度を定量的に見積もることが難しいことがほとんどかもしれませんが、定性的でも構いませんので「〇〇〇という理由から、課題△△△が最重要である」と言える必要があります。
その〇〇〇にあたるのが、まさに「影響の重要度」と言えます。
「複数の選択肢」の考え方
ある課題をクリアするために、とるべき戦術は1つではありません。
解決策は戦術であり手段です。手段は尽くすべきものであり、固執するべきものではありません。
例えば、
- 課題:「労働人口減少下における技能伝承」
- 解決策:「再雇用枠を活かした教育システム拡充」
として設定した場合、
「IoTを活用した形式知化」
「属人化を排除した新工法開発」
などがある考えられます。
複数の選択肢を提示する場合も、多角的な視点が重要です。
多角的な視点の持ち方として、迷うようであれば品質管理などで用いる
4M(Man(人)、Material(材料)、Machine(設備)、Method(方法))
の視点などを応用するといいでしょう。
- Man:人員確保・最適化、人材教育など
- Material:材料変更、開発、改良など
- Machine:既存設備の改良、新規設備導入
- Method:既存方法の改良、新規手法の採用など
といった具合です。
狭い視野で限定された解決策しか提示できない、ということでは並みの技術者です。
技術士に相応しい高いレベルの技術者であれば、広い視野で多角的な解決策を提示してほしいということです。
②ー2「戦術の両面理解とフォロー」
戦術、つまり先ほど提示した解決策には必ずメリット・デメリットの両面が存在します
万能な策はありません。
専門的学識を駆使し、あらゆる要求事項に応え、影響の重要度も考慮し、複数の選択肢を用意しても顕在化したデメリットあるいは潜在化したリスクなどが存在します。
それらにどう対処するかは「評価」のコンピテンシーになりますが、そのようなマイナス要素を理解した上での解決策の提案が必要ということです。
以上が問題解決能力の説明です。
各コンピテンシーいずれも重要ですが、問題解決能力は必須問題Ⅰや選択問題Ⅲの論文構成上、かなり重要ですので長めの説明としました。
具体的な論文の書き方はこちらの記事を参考にしてください。
コミュニケーション
定義(受験案内参照):
- 業務履行上,口頭や文書等の方法を通じて,雇用者,上司や同僚,クライアントやユーザー等多様な関係者との間で,明確かつ効果的な意思疎通を行うこと。
- 海外における業務に携わる際は,一定の語学力による業務上必要な意思疎通に加え,現地の社会的文化的多様性を理解し関係者との間で可能な限り協調すること。
コミュニケーションの定義について以下の通り解説します。
コミュニケーションについては2つの項目で定義されています。
2つめの”海外における~”は、受験申込の際に提出する業務経歴や業務詳細に海外業務の内容を記載する受験者の方は意識した方がいいでしょう。
海外業務について特にアピールする予定がない方は、頭の片隅に入れておく程度で十分です。
要は、海外で働く以上語学力は必要だな、いろんな人がいるから価値観を尊重して協調する必要があるな、程度でOKです。
定義の1つ目の項目についてが主に技術士試験で試される項目と言っていいでしょう。
ただし、「”技術士試験における”コミュニケーション」は他のコンピテンシーと問われ方が違うと捉えた方がいいです。
コミュニケーション以外のコンピテンシーは筆記試験のどの問題で問われるか、口頭試験でどのように問われるかが割と明確です。
一方、コミュニケーションについては、筆記及び口頭いずれも、「試験全体を通して問われる」といった特徴があります。
よく考えてみればそうですよね。
定義の1つめの項目に「口頭や文書等の方法を通じて」「明確かつ効果的な意思疎通」と書かれていますよね。
「明確かつ効果的な意思疎通術」を直接回答されるより、様々な出題に対する回答自体が「明確」か「効果的」か直接評価する方が合理的です。
論より証拠ってやつですね。
ただし、口頭試験においては「普段の業務でどのようにコミュニケーションを図っていますか」というストレートな質問をされる場合もありますので、その点は頭の片隅に置いておいてください。
口頭試験については別の記事で解説します。
前置きが長くなりましたが、コミュニケーションについて、その定義からポイントを3点に分解してみましょう。
- 口頭や文書等の方法
- 多様な関係者
- 明確かつ効果的な意思疎通
の3つです。
① 口頭や文書等の方法
「口頭」は口頭試験に、「文書」は論文(筆記)試験及び受験申込時に提出した業務詳細にそれぞれ置き換えてください。
情報伝達手段はいろいろありますが、「話す」及び「書く」という場面において、それぞれその手段・場面に適した表現方法があると理解してください。
② 多様な関係者
普段の業務においての関係者は、定義中にある通り,雇用者,上司や同僚,クライアントやユーザー等ということになるでしょう。
技術士試験においては誰でしょうか。
そう、試験官です。
具体的には、受験申込書類を審査する試験官、論文試験の試験官、口頭試験の試験官となります。
確かな情報はありませんが、
「受験申込書類を審査する試験官 = 論文試験の試験官 = 口頭試験の試験官」
と考えられ、複数名いるはずです。
その試験官に、口頭又は文書の方法により、明確かつ効果的な意思疎通を図らなければなりません。
それと同時に論文試験や口頭試験の中で、「業務上の関係者(顧客や職場内など)」との利害調整についても問われますのでその点も念頭に入れておきましょう。
③ 明確かつ効果的
ここがコミュニケーションにおいて難しいポイントかもしれません。
もう少し言葉を分解しましょう。
明確とは何でしょうか。効果的とは何でしょうか。
- 「明確」=「分かりやすい」
- 「効果的」=「伝える側の意図と受け取る側の意との一致」(「送受信の一致」と呼びましょう)
と捉えましょう。
「明確」=「分かりやすい」は言わずもがな、ですね。
一読して素直に理解できる文章、一聞ですっと入ってくる表現ということです。
「効果的」=「送受信の一致」
は意外と難しいですよね。
普段の仕事でも、ここがうまくいかなくてトラブルになることってありますよね。
せっかく相手にメッセージを伝えても、期待したレスポンスが得られなくては「効果的」なコミュニケーションとは言えませんよね。
例えば、Yes or Noで答えて貰いたいのに、それ以外の回答が返ってきたらクローズクエスチョンがオープンになってしまい、話が発散して収束に向かわないのが良い例でしょう。
それって、受け手(受信者)の問題でしょうか。
話し手(送信者)が回りくどい、冗長的な表現になっていないでしょうか。
送信者が簡潔な表現をせずに、解釈の幅を広げてしまうと、送受信の不一致を招いてしまいます。
技術士試験における「明確かつ効果的な意思疎通」を図るうえでの詳細は、筆記試験及び口頭試験対策の具体的な対策として別の記事で触れていきます。
リーダーシップ
定義(受験案内参照):
- 業務遂行にあたり,明確なデザインと現場感覚を持ち,多様な関係者の利害等を調整し取りまとめることに努めること。
- 海外における業務に携わる際は,多様な価値観や能力を有する現地関係者とともに,プロジェクト等の事業や業務の遂行に努めること。
上記の定義について以下の通り解説します。
リーダーシップもコミュニケーション同様、2つめの”海外における~”は、受験申込の際に提出する業務経歴や業務詳細に海外業務の内容を記載する受験者の方は意識した方がいいでしょう。
海外業務について特にアピールする予定がない方は、頭の片隅に入れておく程度で十分です。
ここでも、定義の1つ目の解釈が重要となります。
ですがその前に注意があります。
ということです。
リーダーシップというと、人前に立ち、目標を掲げて指示をバンバン出し、組織をグイグイ引っ張るようなイメージではないでしょうか。
そのイメージを引きずってしまうと、受験者の中には
「いやいやいや、職場では平社員に毛が生えたくらいだし・・・」
「役職的にリーダーなんて、まだまだ先だしそんなん求められても・・・」
「どちらかというと、まだまだ指示される側だけど、技術士試験を受験していいのかな・・・」
なんて不安になる方もいるでしょう。
ご安心ください。
私は30代で合格しましたが、後輩より先輩の方が圧倒的に多い状況でしたし、役職的にもリーダーなんて地位では全くありませんでした。
また、私より若くして合格した人も知っています。
つまり、「組織としてのリーダー」としていかに活躍したかが問われているのではありません。
「技術士的リーダーシップ」をあくまであなた個人として備えているか、そこを掴んでいればOKです。
それでは、定義の1つめを要素を2つに分解して深堀しましょう。
- 「明確なデザインと現場感覚」
- 「多様な関係者との利害調整」
の2つです。
①明確なデザインと現場感覚
まずは、「デザイン」とは何でしょう。
ここでは、商品の色や形のことではありません。
業務やプロジェクトのデザインです。
ある業務を遂行するための「目的とそれを満足するためのプロセス」を指します。
先ほど、組織の役職としてのリーダー経験は不要と言いましたが、全てを受け身の指示待ちでOKというわけではありません。
多くの方は、リーダーではなくとも、ある業務の主担当としての経験はお持ちでしょう。
もし全くない場合は、そのような業務経験があるとして、先輩などを参考にしながらその立場としての自分を強くイメージしましょう。
どんな業務にも「目的」があるはずです。
そして、その目的を満足するためのあらゆる「手段」があるはずです。
それぞれの「“手段”の長所短所などを整理しながら、”目的”を満足するためのプロセスを考え、関係者と共有する」、それが「デザイン」と理解すると良いでしょう。
次に、「現場感覚」ってどういうことでしょう。
よく使く言葉ですが、改めて聞かれて即答できますでしょうか。
逆に現場感覚を欠いた状況ってどのような状況でしょうか。
例えば、製造における工場の現場を知らない理屈ばかりの頭でっかちな管理者が製造ラインを組んだとして、それは真に現場の実態に即したライン構成になるでしょうか。
ちょっと難しそうですよね。
現場感覚を養うためには現地に足を運んで実態をつぶさに観察したり、時には身を投じて実際に手足を動かすことも大事ですよね。
つまり、現場感覚とは「机上の空論ではなく、現場の実態に即した実現可能で合理的な感覚」と理解すると良いでしょう。
事前に情報を集めたり、構成要素を整理してプロセスを考えたり、結果を予測したりすることも大事ですが、何事もシミュレーション通りいかないということです。
ちょっと脱線しますが、品質管理用語で「5ゲン主義」という言葉があります。
「3現実主義+2原」と覚えると覚えやすいですよ。
- 3現主義:現場、現物、現実
- +2原 :原理、原則
この5つで「5ゲン主義」というわけです。
とかく現場から離れている管理監督の立場にある方であれば、2原(原理、原則)に偏りがちで3現(現場、現物、現実)を疎かにしがちというのはどの職場にもあるでしょう。
問題の根本を突き止めること、意義のある解決策を提示するには「5ゲン主義」は頭に入れておきたい考え方ですね。
②多様な関係者との利害調整
リーダーシップの最後の要素「多様な関係者との利害調整」とは何でしょうか。
多様な関係者については、もう大丈夫ですね。
コミュニケーションと同様です。
顧客、外注先、上司や同僚など、普段業務上あなたが関わっているあらゆる立場の人たちです。
「利害調整」も普段無意識にも考えながらお仕事をされているのではないでしょうか。
例えば、顧客とのやり取りの中で、納期や品質など一方的に押し付けられては全てを要求通りのめませんよね。
逆の立場で発注側に立っても同様に、相手の状況を踏まえて気を遣いながら進めますよね。
利害、つまり利益と損害のバランスを考慮しながら、一方的な取り引きにならないよう、その調整役を主体的に行うことを「利害調整」と言っています。
技術士ってこのような能力まで要求されるんですね。
技術者倫理などでも触れますが、信頼を獲得し持続可能な業務を行う上で利害調整はとても重要ですよね。
一人勝ちは許されませんし、かといって譲ってばかりもいられません。
あくまで技術を駆使するのが技術士ではありますが、いい仕事をするにはリーダーシップに含まれる「利害調整」の姿勢も重要と言えます。
また少し脱線しますが、”技術士的”リーダーシップに拘らず、一般的なリーダーシップについては参考になる考え方があるので紹介します。
心理学の世界などでPM理論という考え方があります。
これは日本の社会心理学者の三隅二不二(みすみ じゅうじ)氏が1966年に提唱した理論です。
リーダーシップをP(Performance「目標達成能力」)とM(Maintainance「集団維持能力」)の2つの能力要素で捉えるという考え方です。
目標設定や計画立案、メンバーへの指示などにより目標を達成する能力(P)と、メンバー間の人間関係を良好に保ち、集団のまとまりを維持する能力(M)の2つの能力の大小でリーダーのタイプを分類します。
4つのリーダーシップタイプ(PM型、Pm型、pM型、pm型)を提示し、PとMが共に高い状態(PM型)のリーダーシップが望ましい、とした理論。
- PM型(P・M共に大きい):
目標を明確に示し、成果をあげられると共に集団をまとめる力もある理想型 - Pm型(Pが大きく、Mが小さい):
目標を明確に示し、成果をあげるが、集団をまとめる力が弱い。
成果はあげるが人望がないタイプ - pM型(Pが小さく、Mが大きい):
集団をまとめる力はあるが、成果をあげる力が弱い。
人望はあるが、仕事は今ひとつというタイプ - pm型(Pが小さく、Mも小さい):
成果をあげる力も、集団をまとめる力も弱い。リーダー失格タイプ。
さあ、皆さんの上司、あるいは技術士を目指す方であればご自身が管理監督者という方も多いでしょうから、皆さん自身、どのタイプでしょうか。
リーダーにとって必要な資質も、このように要素で分解すると、足りない部分や目指すべき方向性が分りやすいですよね。
ただ現実問題、こういう考え方すら知識として持ち合わせていないリーダーは非常に多いのが実情でしょう。
知識を頭に入れておくだけでも、意識的にPMのバランスを考えるきっかけになるでしょうから、皆さんは良きリーダーへ一歩前進したと言えるでしょう。
リーダーとマネージャー、普段何気なく使っている言葉ですが、それぞれの役割の違いをどのように捉えているでしょうか。
技術士に求められる資質である”技術士的マネジメント”については、後ほど触れますが、リーダーシップとの対比としてまずは掴んでおきましょう。
とても参考になる考え方がスティーブン・R・コヴィー氏の著書「七つの習慣」に書かれていますので紹介します。
マネジメントはボトムライン(最終的な結果)にフォーカスし、目標を達成する「手段」を考えること
リーダーシップはトップライン(目標)にフォーカスし、何を達成したいのかを考えること
とあります。
また、ピーター・ドラッカー(米国の経営学者)やウォーレン・ベニス(米国の経営学者)の言葉を借りるなら、
「マネジメントは正しく行うことであり、リーダーシップは正しいことを行う」
と表現している。
また、次のような例え話も分かりやすいです。
ジャングルの中で手斧で道を切り開いているチームを想定します。
作業者:草を刈って道を切り拓く
マネージャー:後方について斧の刃を研ぎ、方針や手順を決め、筋肉強化トレーニングを開発し、新しいテクノロジーを導入し、作業スケジュールと給与体系をつくる
リーダー:ジャングルの中で一番高い木に登り「このジャングルは違うぞ!」と叫び正しい方向に修正し導く
この例を考えると、いかに作業者やマネージャーが優れていてもリーダーが機能していないといつまでたってもジャングルから抜け出せず、みんな疲弊してしまうのがわかります。
マネージャーは戦略家であり戦術家、リーダーは羅針盤です。
このようなことが、「七つの習慣」で述べられていました。
昨今、目先の効率ばかりに捕らわれるマネージャーはいてもリーダー不在の組織は多いです。家庭でも同様です。
方針、方向性、目的、構成員の思い、これらをベースに発揮されるリーダーシップの重要性が増していく時代ではないでしょうか。
リーダーの重要な役割の中の1つに「優先順位の決定」があるでしょう。
仕事をしていても、プライオリティは?優先度は高いの?なんて話によくなるでしょう。
これが決められない、あるいは分からなくて困惑することって多いですよね。
というか、仕事ってほぼこの優先順位の決定の繰り返しと言っても過言ではないですよね。
そこで、ぜひ知っていてほしい優先順位の考え方が
「優先度=重要度×緊急度」
という方程式です。
これは著書「七つの習慣」(著 スティーブン・R・コヴィー氏)や「メモの魔力」(著 前田裕二氏)などでも出てきますし、割と一般化した考え方ですので覚えておきましょう。
タスクの優先度を縦軸が重要度、横軸が緊急度のマトリックス上にプロットするイメージを持ってください。
七つの習慣の表現を借りて以下のように領域を定義します。
- 第1領域:重要 かつ 緊急
- 第2領域:重要 かつ 緊急でない
- 第3領域:重要でない かつ 緊急
- 第4領域:重要でない かつ 緊急でない
第1領域が優先度は高いので、そこに位置するタスクから手を付ければ良さそうなのは分かりますね。
逆に第4領域は優先度はかなり低く、何ならやらない方がいいことも多そうです。
例えば、どうでもいいメールをいちいち細かくチェックしたり、ゴシップニュースを読み漁ったり、ネット動画の無限ループなんて言うのがいい例でしょう。
問題は、第2領域と第3領域の扱いです。
結論としては、第2領域にしっかり時間が割けるよう調整することが大切です。
それがしっかりできることが、人生の満足度を高めるといっても過言ではありません。
第3領域のように緊急度が高いと、さして重要でなくてもそちらに手を付けがちです。
例えば、飛び込みで来た仕事の対応、ちょっとした頼まれごと、急な飲み会や食事の誘いなど。
それらは本当にあなたがやるべきでしょうか。あたなが行くべきでしょうか。ほかの人に頼めないでしょうか。代替手段はないでしょうか。断れないでしょうか。
この第3領域に振り回される人が大変多い気がします。
安請け合いは確かに”好かれる人”にはなれるかもしれません。
しかし、真に”信頼される人”にはなれないでしょう。
所属するチームや自身の”価値観”と照らして、本当に優先するべきことを決められるかどうかが、第2領域と第3領域のどちらの優先度を上げるかにつながると言えます。
もちろん、第3領域にも大事なタスクは含まれるでしょう。すべてを排除すべしと言いたいわけではありません。時々の判断が必要ということです。
そもそも、技術士をはじめ資格取得のための勉強はほとんどの場合、第2領域に位置するでしょう。
緊急性が高いか、と聞かれるとそうでもないですよね。
特に技術士は名称独占資格ですし、一部の建設コンサルタントを除いて、資格がないと仕事ができない、職を追われるなんて人はほとんどいないでしょう。
それでも、皆さんは本気で技術士を目指し日々貴重な時間を割いて勉強に励んでいるわけです。
それは、皆さんの価値観の素直な叫びなのではないでしょうか。
そうですよね、技術士になることは、緊急ではないが皆さんの人生にとって”超重要”なわけです。
だいぶ脱線しましたが、その超重要な「技術士になる」という目標達成のため、引き続き皆さんの合格を祈願して応援しますのでお付き合い下さい。
マネジメント
定義(受験案内参照):
- 業務の計画・実行・検証・是正(変更)等の過程において,品質,コスト,納期及び生産性とリスク対応に関する要求事項,又は成果物(製品,システム,施設,プロジェクト,サービス等)に係る要求事項の特性(必要性,機能性,技術的実現性,安全性,経済性等)を満たすことを目的として,人員・設備・金銭・情報等の資源を配分すること。
マネジメントの定義について下記の通り解説します。
マネジメントの定義が1項目にまとめられていますが、ちょっと長いですよね。
このように変換すると頭に入りやすいです。
技術士的マネジメントとは、
「PDCAにおいて、QCD及び成果物に対する要求事項を満たすためのリソースの配分すること」
です。
だいぶコンパクトになりましたが、定義とほぼ同義です。
マネジメントの定義にに限らず、各定義を頭の中に入れておくことは大事です。
ですが、そのままの文言では咀嚼しずらく定着が悪い場合は、このように自分なりの言葉で置き換えてください。
それでは、もう少し詳しく見ていきましょう。
コンパクトな表現に変換した定義を3つの要素に分解します。
- PDCAにおいて
- QCD及び成果物に対する要求事項を満たす
- リソースの配分
の3つです
以下各要素の詳細な解説です。
①PDCAにおいて
定義に、計画、実行、検証、是正の過程とありますが、まさにPDCAです。
マネジメントにおいて、まずは業務を時間軸で捉えることが大事です。
あなたの業務に置き換えて考えてみてください。
やったらやりっぱなしではなく、必ず効果を検証し、改善を図りますよね。
よく言われるサイクルを回しましょうというやつです。
とくに、後半のCAあたりは、技術士二次試験の筆記試験でも必須問題Ⅰや選択問題Ⅲで問われる重要なプロセスです。
そこは別の記事で詳細に触れます。
②QCD及び成果物に対する要求事項を満たす
QCDは、まさに定義中の品質、コスト、納期です。
成果物は、あなたの業務内容によって変わるでしょう。
有形的な製品であったり、それに付随するあるいは独立したシステムやサービスを提供されている方もいらっしゃると思います。
成果物は広い意味での商品というこになります。
要求事項は、その商品に対する顧客の期待度を要素別に分けたものです。
定義にある通り、機能性、安全性、経済性などです。
やみくもに、いい製品、いいサービスを提供することはしませんよね。
ニーズに応えることがベースにあるわけですので、顧客の期待と満足度を意識することもマネジメント上で重要ということです。
③リソースの配分
マネジメントとはなにか一言で答えよ、と言われたら「リソースの配分」です、と答えていいほど、その役割はここに集約されるでしょう。
リソースは日本語で”資源”となりますが、いわゆる「経営資源」のことです。
皆さんが普段行っている業務を成り立たせるために必要な資源です。
定義の中では、「資源=人員・設備・金銭・情報等」と言っています。
等とあるので、これに限ったものではありません。その他ですと例えば「時間」も大事な資源ですね。
リソースの配分については具体的な状況を想定するとわかりやすいですね。
『工場の現場において工程Aで製品の流れが律速しているが、工程Bが割と余裕がありそうです。
状況を分析すると、どうも工程Aではオペレータの動きが慌ただしく、手が足りないようです。
その場合、工程Bの人員を工程Aにヘルプとして配置する。』
これがマネジメントにおける人員の配分です。
また、状況の分析結果によっては工程Aに新しい設備を追加導入した方が律速が解消されるだけでなくオペレータの負担も軽減され利点があるということにもなるでしょう。
これが、人員や金銭(設備導入にかかるコスト)の配分と言えるでしょう。
マニュアルの整備によるノウハウの共有は情報の配分と言えます。
組織や個人が持ちうる有限なリソース(資源)をいかに適切に配分するか、それがマネジメントにおける要であると捉えてください。
評価
定義(受験案内参照):
- 業務遂行上の各段階における結果,最終的に得られる成果やその波及効果を評価し,次段階や別の業務の改善に資すること。
評価について以下の通り解説します。
「評価」において、まずしっかり押さえておくべきは評価の”主体”と”対象”です。
主体はあくまで”自分”であり、対象は”業務の結果・成果”です。
自分、つまり受験者が物事に対して”評価”能力を有しているかを確認するわけですから当然ですよね。
ということで、「技術士的評価能力」を分解すると以下の2つのフェーズに分けられます。
①評価フェーズ
評価対象は業務の
- 途中段階の”結果”
- 最終的な”成果”
- “波及効果”
の3つです。
普段の皆さんの業務でも、進捗度合いや達成率などを評価しますよね。
それをそのままイメージすればOKです。
例えば3か年プロジェクトであれば、月毎、四半期毎、年毎、3か年総合、のような区切りで、計画に対して〇〇%進行、目標値○○%達成など報告するでしょう。
また、本来の目的・目標とは別に期待される波及効果もあるでしょう。
例えば、この技術を確立することで製品Aのシェアを拡大できるが、応用次第で製品Bのシェア拡大という波及効果も期待できる、
といったような周辺状況に及ぼす影響も適切に評価できる能力を問うものです。
②是正フェーズ
技術開発に限った事でありませんが、業務やプロジェクトを完遂して、評価し、それで終わりということはありません。
継続的に事業を行う上で、評価した結果を活かさなくては組織としても個人としても信頼を得て活動し続けることはできません。
そこで、評価したら必ず是正、改善が求められ、そこもセットで「技術士的”評価”能力」というわけです。
評価結果を元に良いところ、悪いところを、顕在化したあるいは潜在的に潜むリスクなどを洗い出すことで改善点が見えてきます。
詳しくは別の記事で触れますが、技術士二次試験において評価能力を問う場合、評価結果のみならず、是正フェーズとしてどのような対策が考えられるかもセットで問われます。
何事もどんな策にも利点・欠点、メリット・デメリット両面が存在しますので、それを多角的に評価できるかという視野の広さも必要ということです。
ここでも、マネジメントで登場したQCDの観点なども有効です。
例えば製品の品質に問題がある、という状況に対しQ(品質)の改善策を打ったら、C(コスト)が増大してしまう、D(納期)が延びてしまう、といった具合です。
解決策を問われた際、完璧な策を提示する必要ありません。
評価と是正がセットで問われるものとして、そこで妥当な評価と対策の提案ができればいいというわけです。
やや脱線しますが、物事の評価や分析をする際に役立つ考え方を紹介します。
SWOT(スウォット)分析というものです。
元々は、マーケティングなど経営戦略・事業戦略の手法の一つとして生まれた考え方です。
1920年代からハーバードビジネススクールで開発され、その後1960年代から70年代にスタンフォード大学のアルバート・ハンフリー氏らによって、さらに洗練されたフレームワークです。
SWOT分析とは、目標を達成するために意思決定をするため、事業上の競合や計画に関係する要因を分析する方法です。
SWOTとは
- S: Strength(強み)
- W: Weakness(弱み)
- O: Oppotunity(機会)
- T: Threat(脅威)
の頭文字です。
事業戦略を立てる上での事業を取り巻く要因を内部環境と外部環境に分けて、さらにそれらをプラス要因とマイナス要因に分けるという考え方です。
S(強み)とW(弱み)が内部環境にあたり、O(機会)とT(脅威)が外部環境にあたります。
どちらがプラス要因で、どちらがマイナス要因かは言うまでもありませんね。
例えば、企業を主体として考える場合、当社は技術開発力が”強み”だが、営業力には課題が多く”弱み”であるという内部環境分析ができるでしょう。
また、外部環境としては、当社の参入分野は今後の市場規模の拡大が見込めるという”機会”に恵まれるが、一方で景気の影響を受けやすい分野でもあるという”脅威”もあるでしょう。
この分析は、企業体だけではなく、自分という個人や個別のプロジェクト等にも応用可能です。
また、これはプロジェクト等の計画段階を想定した手法ですが、事後の評価においても”分析”という意味では共通ですので、評価・是正のフェーズでも有効な手法です。
評価で迷った際は、定性的手法としてSWOT(強み・弱み・機会・脅威)を内部・外部環境から分析するという評価軸で考えてみるのも一つの手ですので紹介しました。
技術者倫理
定義(受験案内参照):
- 業務遂行にあたり,公衆の安全,健康及び福利を最優先に考慮した上で,社会,文化及び環境に対する影響を予見し,地球環境の保全等,次世代にわたる社会の持続性の確保に努め,技術士としての使命,社会的地位及び職責を自覚し,倫理的に行動すること。
- 業務履行上,関係法令等の制度が求めている事項を遵守すること。
- 業務履行上行う決定に際して,自らの業務及び責任の範囲を明確にし,これらの責任を負うこと。
技術者倫理について解説します。
上記の定義の自ずらだけ追うと、なかなか頭の中で消化できませんよね。
上記の定義を、下記のように4点にまとめます。
- 公益確保 (定義の1番目前半:公衆の安全、健康及び福利を最優先に考慮)
- 社会の持続可能性確保 (定義の1番目後半:地球環境の保全等、次世代にわたる社会の持続可能性の確保に努め)
- 法令遵守 (定義の2番目)
- 説明責任(=アカウンタビリティ) (定義の3番目)
以上です。
技術者倫理については、”技術者”という言葉はあまり気にする必要がなく、とにかく社会人として業務に携わる以上「倫理」って大事ですよね、ということです。
試験対策という意味では、様々な切り口からこの技術者倫理について考える必要がありますが、コンピテンシーとして求められる要素としては上記の4点に集約される、ということをしっかり押さえましょう。
それでは4つの要素について1つずつ解説しましょう。
①公益確保
業務遂行上、顧客の要求や製造、施工上の制約条件などから様々なトレードオフにぶつかり、何かを犠牲にして何かを得るという選択は避けられないでしょう。
時には、品質が優先されるでしょうし、別の状況ではコストカットが優先されることもあり、絶対的な正解はありません。
しかし、どのような状況でも犠牲にしてはいけないことがあります。つまり、これだけはやってしまうと不正解ということです。
それは「公益」=「公衆の安全、健康及び福利」を犠牲にするということです。
どの様な状況下でも公益を最優先にする、そして公益とは何かを常に考える姿勢が重要です。
②社会の持続可能性確保
社会の持続可能性確保については、最近耳にすることが増えてきたのではないでしょうか。
SDGs(持続可能な開発目標)やESG投資などといった言葉が広まったことも背景にあるかと思います。
とかく技術者の立場としては、科学技術が地球環境、地域社会等に及ぼす影響を考える必要があると捉えましょう。
原子力や爆薬などがいい例ですが、便利と危険は隣り合わせです。
また、その危険は必ずしも目に見える分かりやすいものとは限りません。
資源の枯渇や地球温暖化などの地球規模の長期的問題や、土壌汚染、大気汚染等の地域環境への問題もあるでしょう。
そのような様々な影響を予見し、仮にコストや生産性の観点から優れた技術的手法であっても、その技術の採用の可否については持続可能性(環境への配慮等)を十分検討しなければならないということです。
短期的、局所的な利益は長期的、広域的には不利益となりうることを念頭に置かなくてはいけません。
公益確保と同様、持続可能性の確保は他の様々な制約因子より最優先に考慮するべきものです。
③法令遵守
法令遵守、これは当たり前のことですよね。
技術者である以前に、人として当然守るべきものです。
当たり前なので法律をきちんと守りましょう、で済ませたいのですが、なかなか現実そうではないということでわざわざ技術者倫理に謳っているのだと考えられます。
「でもそれって、特異的な例でしょ」「メディアで取り上げれるようなデータ改ざんや捏造みたいな重大な犯罪とかでしょ」
と思うかもしれません。
もちろん、ここで言う法令遵守とは、特異的なものや建築基準法違反などの欠陥建築物のような問題も対象としています。
しかし、それだけではないですよね。
皆さんの業務上関連する法令関係ってどのようなものがあるかご存知ですか。
実は結構いろいろあります。
例えば、労働基準法、労働安全衛生法、消防法などなど。
さらに具体例としては、
- 常時50人以上の労働者を使用する事業場では業種を問わず衛生委員会を設置しなければならない。(安衛法第18条第1項、安衛令第9条)
- 衛生委員会は、毎月1回以上開催しなければならない。(安衛則第23条第1項)
- 衛生管理者は、少なくとも毎週1回以上作業場を巡視し、設備、作業方法又は衛生状態に有害の恐れがあるときは、直ちに必要な措置を講ずること。(安衛則第11条第1項)
などなど、その他にも実に細かく規定されています。
このような条文を見るだけでも、事業を営むことの大変さが分かりますね。
技術士試験においてはこのような細かな関係法令を頭に入れる必要はありませんが、どのような法令のもとで普段業務にあたっているかをある程度は把握する必要があります。
例えば、有機溶剤中毒予防規則、特定化学物質障害予防規則、電離放射線障害防止規則、粉じん障害防止規則など有害業務にかかるものや、事務所衛生基準規則、女性労働基準規則、年少者労働基準規則など場所や人にかかるものもあります。
必要な点検がなされていない、必要な作業主任者が選任されていない、必要な特別教育を受けずに作業しているなど、意外とやってしまっている法令違反があるのではないでしょうか。
「違反などしているはずがない」「違反は重大犯罪のようなものだけ」と決めつけずに、個人レベルで正しい知識と高い意識を常に持っていることに加えて、組織でそれらを共有しないと法令遵守は簡単な事ではないと考えられます。
立件されたり、信頼を失うことを避けるためだけに法令を遵守するのではなく、自らの身及び職場や関係者の安全安心を守りリスクを低減させるためにも法令遵守は必要となります。
④説明責任(=アカウンタビリティ)
説明責任はアカウンタビリティともよく言われますので覚えておきましょう。
定義にもありますが、説明責任は2段階と捉えます。
まず第一に、責任の「範囲を明確」にすること、第二に説明する「責任を負う」ことです。
自らが行った業務やそれらに付随する説明・発表・報告において、その責任の範囲が明確でないことには責任の負いようがありません。
つまり、業務のプロセスにおいてどの部分に関与し、携わり、影響を及ぼしたかを明確にする必要があります。
そして、単に「頼まれたからやりました」ではなく、背景やその後の展開といった前後の流れの中での役割を把握する必要があり、妥当な関与の仕方であると説明ができないと無責任と取られてしまうということです。
また、「責任を負う」ということは、自らが行った業務や、その結果の判断について「根拠を示す」ということです。
裏を返せば、根拠を示せないことに関しては「断定しない」ことも一つの責任の負い方です。
「○○という根拠があるので、今回の事象についても□□であることが示唆される」
「あくまで、個人的見解では△△と考えられるが、十分な根拠はなく推測の域を出ない」
などと、必要な情報ははっきりと示しながらも、誤解を与えないという姿勢が大事ということです。
以上、技術者倫理についての解説です。
技術者倫理は奥が深く、正解がない部分も多いため個々人がじっくり考える必要があります。
そうでないと、筆記試験ではなんとか乗り切れても口頭試験でしどろもどろになりかねません。
特に口頭試験は筆記試験より合格率が高く気を抜きがちですが、ここで「間違った回答をすると一発不合格」というキラー質問が存在します。
その落とし穴こそ、技術者倫理に潜んでいるということも頭に入れておきましょう。
そこら辺について詳しくは、口頭試験対策の記事で解説します。
継続研鑽
定義(受験案内参照)
- 業務履行上必要な知見を深め,技術を修得し資質向上を図るように,十分な継続研さん(CPD)を行うこと
継続研鑽について以下の通り解説します。
継続研鑽は資質能力(コンピテンシー)そのものというより、その「資質能力を向上させる活動」になりますので括弧()書きですが、受験案内にも明記されてますのでしっかり解説します。
特に、口頭試験で問われる内容です。
技術士法第四十七条の二の解説でも触れたとおり、技術士には法律上「資質向上の責務」があります
科学技術は日進月歩ですから、その科学技術に関して高等の専門的学識を有する者が技術士と定められている以上、資格取得後も継続研鑽を積むことは必然ですよね。
定義の中でCPDという言葉があります。
CPDはContinuing Professional Developmentの頭文字で、日本技術士会では「継続研鑽」と訳しています。
CPDについては、日本技術士会のHPにある”CPDガイドライン“を参照するとよいでしょう。
間単に言ってしまうと、「技術士として資質の向上に資する活動を自らの責任において行い、記録・管理しいつでも証明できるようにしましょう」ということです。
例えば、
- インプット系:学協会誌の購読、セミナーや講習会の受講など
- アウトプット系:学会発表、論文・書籍の執筆、講演会講師など
- その他:資格取得、特許出願、表彰など
があります。
何がCPD活動として認められるかは、技術士個人の判断になりますが、正式には日本技術士会の審査を受けることで証明書が発行されるという仕組みになっています。
ですが、受験者の皆さんの立場としては、技術士ガイドラインや審査のことなど細かいことは気にせず、概ね上記の例で挙げたような活動が継続研鑽の活動にあたると理解しておけばOKです。
1点注意としては、通常業務そのものはCPDにはなりませんので、その点は意識されるといいでしょう。
いずれにせよ、向上心を絶やさず持ち続ける姿勢が大事ということです。
一次情報(技術士法)と二次情報(コンピテンシー)まとめ
試験合格のため、「戦うべき相手である技術士二次試験」の実態を掴むこと、これが第一に重要であることはすでに述べました。
それらは、技術士法と技術士二次試験受験案内に多くのヒントと答えが隠されていることも十分理解できたのではないでしょうか。
ここからは、具体的な試験対策にフォーカスして解説していきます。
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