はじめに|1枚問題(600字)は知識問題
選択科目ⅡはⅡ-1(1枚問題)とⅡ-2(2枚問題)に分かれます。
別の記事で解説した通り、必須科目Ⅰと必須科目Ⅲはいずれも3枚問題で、ほぼ同様の対策の仕方で対応可能です。
一方、選択科目Ⅱについては、細かく2つの問題に分かれている点、またそれぞれ異なるコンピテンシーが求められる点などから、別途対策が必要になります。
この記事では、知識問題である選択科目Ⅱ-1について解説します。
選択科目Ⅱ-1の概要
選択科目Ⅱー1はいわゆる知識問題です。
独自の考えなどを述べる要素が非常に少なく、知っているか否かが問われるため、筆記試験の中で最もとっつきやすい問題とも言えます。
文字数(解答用紙の枚数)も筆記試験中最も少なく、その分配点の割合も少なめとなっています。
とは言え、選択科目Ⅱ(Ⅱー1+Ⅱー2)全体でA評価(6割以上)であれば、選択科目ⅢでB評価でも、その失敗した分を挽回できる可能性が高まります。
まずは、知識問題である選択科目Ⅱー1を完璧に近い状態に仕上げ、選択科目Ⅱ全体を確実にA評価にできるようしっかり対策しましょう。
そして、この選択科目Ⅱー1の精度を上げることは、間違いなく選択科目Ⅱー2や必須科目Ⅰ、そして選択科目Ⅲにそのまま生きてきます。
なぜなら、知識、つまり専門的学識は全ての問題で問われるコンピテンシーであり、論文を書く上での土台だからです。
以下に、選択科目Ⅱ-1への対策として必要な情報をまとめます。
過去問を見てみよう
まずは、細かい解説に入る前に過去問を見てみましょう。
令和3年度実施の問題を見てみましょう。
私が選択した金属加工を例に見てみます。(一部省略)
7-3 金属加工【選択科目Ⅱ】Ⅱ 次の2問題(Ⅱ-1, Ⅱ-2)について解答せよ。
Ⅱ-1 次の4設問(Ⅱ-1-1~Ⅱ-1-4)のうち1設問を選び解答せよ。(答案用紙1枚にまとめよ。)
Ⅱ-1-1 タック溶接(仮付け溶接あるいは組み立て溶接とも呼ばれる)は定められた位置に部材を保持し、溶接前に行う作業であるが、本溶接と同様に注意が必要である。なぜ、注意が必要かその理由を述べよ。またタック溶接の施工上の留意点について説明せよ。
Ⅱ-1-2 金属の鋳造法には特殊なものとして遠心鋳造法がある。この方法の概要を説明せよ。また、その特徴を回転軸と鋳型の材質の面から説明せよ。
Ⅱ-1-3 塑性加工により製造される鋼管(パイプ)は大きく分けると継ぎ目があるものと無いもので区別される。それぞれの特徴を製造方法や用途、寸法などの観点から示せ。
Ⅱ-1-4 粉末冶金について、粉末の混合から製品の完成までの工程を説明し、さらに本手法の長所及び短所を述べよ。
いかがでしょうか。
金属部門受験予定の方であれば、概ねどのようなことを問われているのかイメージだけでもできるかと思いますが、他の部門専門の方は当然ながらよく分からないかと思います。
いずれにせよ、他の科目や他の部門も基本的には同様の問われ方です。
過去問は日本技術士会のHPからダウンロード可能ですので、ご自身の受験予定部門・科目の問題を参照してください。
基本情報
- 配点:10点 (筆記試験全体で100点満点中)
- 文字数:600字詰め原稿用紙 × 1 =600字
- 論文構成:基本知識問題。問われ方によって1部構成~3部構成あたりから適宜判断する。
- 出題数と選択数:4問出題中1問選択
問われるコンピテンシー
選択科目Ⅱ-1で問われるコンピテンシー(資質能力)は以下の2点です。
- 専門的学識
- コミュニケ―ション
枚数が1枚(600字)で他の科目より少ない分、問われるコンピテンシーもコンパクトで分かりやすいですね。
他の科目(必須科目Ⅰ、選択科目Ⅱー2、選択科目Ⅲ)でも、専門的学識とコミュニケーションはすべて共通して問われています。
つまり、選択科目Ⅱー1は全科目共通のベースラインのコンピテンシーのみが採点されるということです。
そのようなことからも考えると、技術士二次試験の筆記試験対策の取っ掛かりとしては選択科目Ⅱー1からだと始めやすいですね。
過去問から見えてくる傾向と対策
ご自身の選択する科目の過去問を直近5年分程度で構いませんので、目を通してください。
必ず傾向があるかと思います。
先ほど示した過去問を例に見てみると私が選択した金属加工においては、「溶接」「鋳造」「塑性加工」「粉末冶金」の4つの分野から出題されています。
ここから、自身の得意な分野、解答できそうな分野を1つ選べばいいわけです。
必須科目Ⅰや選択科目Ⅲと比べて、選択科目Ⅱのやっかいなところは、問われている詳細な知識に関して知らないとほとんど太刀打ちできないところです。
必須科目Ⅰや選択科目Ⅲは、割と抽象的な問いに対して自分の得意な分野や知っている分野に話を持って行って理論展開が可能です。
一方、選択科目Ⅱについては比較的ピンポイントの知識が問われるため、戦略立った対策を行わないと致命的となり得ます。
また、金属加工では先ほどの4つの分野以外でも「熱処理」などからの出題もあります。
いくら金属関連の専門家でも、どの加工方法についても精通している人はなかなかいないと思います。
自信の業務に深く関連する分野はいずれかの加工方法のうち1つか2つといったところでしょう。
やみくもにどの加工方法をから出題されても答えられるように対策しようとすると非効率ですし、恐らく失敗します。
そこで、オススメの対策方法があります。
過去5年分の「出題傾向マトリックス」を作成することです。
行に分野、列に試験実施年度を並べて、出題があれば〇を付すといういたってシンプルな表です。
例として、2017年(平成29年)~2021年(令和3年)分における金属部門・金属加工(科目)の出題傾向マトリックスを示します。
上の表より、集計すると下の表のようになります。
いかがでしょうか。
一目で出題傾向がつかめましたね。
このマトリックスと睨めっこしてどの分野に注力するか決めてください。
重点的に勉強する分野の選定方法は以下の通り。
- 2分野選択する
- 「頻出な分野」=「自分の得意あるいは業務との関連の深い分野」なら迷わずその分野を重点的に勉強
- 「頻出な分野」≠「自分の得意あるいは業務との関連の深い分野」であれば、頻出な分野を得意にするつもりで重点的に勉強
∵1分野では出題されないリスク、出題されても分からない場合のリスクが大きい
3分野以上は単純に多いので学習効率が悪い(選択と集中は必要)
となります。
リスク回避と効率を考えると上記のようになります。
問題用紙を開き、その瞬間に後悔するか、「よっしゃ、キター!」と心の中で叫ぶかは無残にも一瞬で決まってしまいます。
後悔しないために、戦略だった学習は重要ですので、頻出分野に照準を合わせて徹底的に強化しましょう。
知識の増やし方
選択科目Ⅱー1は、受験者独自の考えや提案などをするというよりは、知識問題です。
ですので、知識を増やす、それも断片的ではなくある分野に関しては系統だった知識を増やしてくいことが基本的な対策となります。
対策として行うことは以下の通りです。
- キーワード集の作成
- メモを取る習慣
- 専門書を読む
- 学協会誌を読む
- インターネットで情報収集
まず、第一に「キーワード集」の作成は重要です。
キーワード集の作成に関しては
専門書は詳しすぎて分かりづらい、学協会誌は知っていることを前提としているため説明不足といったことは多々あります。
そんな時はインターネットで調べましょう。
ブログ記事やメーカーHPなど、とても分かりやすい解説が手軽に無料で手に入る時代ですので、これを使わない手はないですね。
もちろん、インターネットの情報の質は玉石混交としております。
嘘を嘘と見抜くリテラシーは必要になりますが、それを鍛える意味でもインターネットの情報は積極的に活用しましょう。
設問の内容と論文構成
どのような点を意識して対策するかを考えるために、再度過去問を見てみます。
過去問を見ると一定の傾向が見て取れます。
設問中にある、質問ワードを抜き出してみましょう。
令和3年度以前の問題も参照すると、
「注意点」「留意点」「概要」「特徴」「長所」「短所」「原理」「応用例」
などが挙げられます。
つまり選択科目に関する専門知識について上記のような質問ワードの切り口での回答が要求されるということです。
これらの切り口はまさにキーワード集のまとめ方でカバーされています。
詳しくは
の記事を参照下さい。
また論文構成は1部構成から3部構成で設問内容に合わせて適宜判断します。
例えば、
○○法の概要は・・・
2.○○法の特徴(長所・短所)
○○法の長所は・・・
○○法の短所は・・・
のような見出しの設定からなる2部構成が適切と考えられます。
また、
□□法の概要は・・・
2.□□法の特徴
□□法の特徴は・・・
3.□□法の製品例
□□法の製品例は・・・
のような見出し設定からなる3部構成が適切と考えられます。
場合によっては、4部構成や5部構成など細かく分けた方が表現しやすいと感じる設問もあるかもしれません。
ただ、選択科目Ⅱ-1は原稿用紙1枚問題のため文字数が少ないです。
細かく見出しを分けると必然的に1段落で説明できる分量が減り、余白も多くなりすぎてしまいます。
説明不足になりがちですので、多くても3部構成程度が妥当です。
論文の書き方
選択科目Ⅱ-1の論文の書き方はいたってシンプルです。
シンプルである理由は、問われるコンピテンシーが
- 専門的学識
- コミュニケーション
の2点のみであるという点に由来します。
3枚問題(必須科目Ⅰ、選択科目Ⅲ)であれば問われるコンピテンシーとして
「問題解決能力」「評価」「技術者倫理」など多くありました。
そして、それぞれのコンピテンシーを正しく理解した上で、それに呼応する形である程度型にはめて記述する必要がありました。
詳細は、
の記事を参照ください。
一方、選択科目Ⅱ-1は「専門的学識」と「コミュニケーション」にのみ気を付けて記述すればOKです。
あまり難しく考える必要はありませんが、それぞれのコンピテンシーについておさらいしながら注意するポイントなどを解説します。
専門的学識
専門的学識はいわゆる、知識です。
問題となっている事柄に対してどれだけの情報を知識として持っているかということです。
詳しく理解したい方は、
の記事を参照してください。
必須科目Ⅰや選択科目Ⅲでは、社会問題に対する背景、世界や日本の動向など広範な知識も要求されます。
一方、選択科目Ⅱ-1についてはそこまで必要ありません。
上の過去の出題例を見てわかる通り、専門分野の特定の科目に関する専門知識のみが問われています。
裏を返せば、それだけ的を絞った詳細な知識が求められますのでキーワード集作成など相応の対策が必要となります。
専門的学識についての論文中での表現方法としてはそれほど注意点はありません。
詳細は、
の記事で解説していた通り、
- 見出しには下線を引く
- 改行や余白を適度にとり、黒い論文にしない
- 8割以上埋める
- 「断言」して言い切る
- 「以上」で締めくくる
- 骨子作成及び割り付けしてから原稿用紙にを書き出す
などといった基本的なところを押さえて臨みましょう。
コミュニケーション
コミュニケーションの定義については、
の記事で、
コミュニケーションの論文中での表現方法については
の記事で、
それぞれ解説していますので、ここでは簡単に触れておきます。
コミュニケーション、つまり
「一読して分かりやすい文章を書いて下さい」
ということです。
ここでもやはり、先ほど解説した通り
- 見出しには下線を引く
- 改行や余白を適度にとり、黒い論文にしない
- 8割以上埋める
- 「断言」して言い切る
- 「以上」で締めくくる
といったポイントを押さえることが、分かりやすい論文作成につながります。
常に読み手を意識したおもてなしの論文を心掛けましょう。
ただ一点、選択科目Ⅱ-1については意識してほしいことがあります。
それは
「図を入れる」
ということです。
これに関しては、
の記事でも解説しました。
そもそも、「原稿用紙に図を入れていいのか」と疑問を持つ人もいるでしょう。
結論、入れていいんです。
むしろ、効果的に入れるべきなのです。
個人的見解ではありますが、この選択科目Ⅱ-1こそ図を入れるにもっとも適した問題と捉えています。
選択科目は「方法」「原理」「メカニズム」「特徴」といった要素の説明を求められます。
文章だけで詳細に伝えきるには限界があります。
そこで模式図やグラフを用いて視覚に訴えるイメージを伝えることは非常に効果的と言えます。
私は絵を描くのが苦手なため、端から図を入れることを諦めて対策をし本番を迎えて後悔しました。
明らかに図を使った方が説明しやすい設問を選択したこともあり、何とか下手クソな模式図とグラフでを挿入し、文章で補足しました。
結果、A評価だったものの本番中に非常に焦ったことと、より高得点を目指す意味で、やはりもっと図を描く練習をしておくべきでした。
キーワード集作成や論文添削を受ける際なども、特に選択科目Ⅱ-1に関しては積極的に図を入れる練習をしておくことをお勧めします。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
単なる知識問題と思って侮るなかれ!
ここで確実にA評価を取って万が一他の科目が足を引っ張っても挽回できるくらい確実なものにするため対策をしっかりしておきましょう。
ここでさらっとおさらいします。
- はじめに|1枚問題(600字)は知識問題
- 選択科目Ⅱ-1の概要
- 過去問を見てみよう
- 基本情報
- 問われるコンピテンシー
- 過去問から見えてくる傾向と対策
- 知識の増やし方
- 設問の内容と論文構成
- 論文の書き方
選択科目Ⅱ-1は知識問題であり、1枚(600字)問題。
技術士筆記試験の中で最もシンプルかつ対策しやすい問題です。
原稿用紙の枚数が最も少なく、文字数も少ない(1枚600字)。
配点も少なめになっていますが、確実にA判定を取りに行きましょう。
日本技術士会HPより過去問をダウンロードできます。
過去何年か分についてしっかり、目を通しておきましょう。
選択科目Ⅱ-1は筆記試験全体で100点満点中、配点は10点。
1割だと侮らず、他のすべての筆記試験のベースとなる知識問題をしっかり得点しましょう。
「専門的学識」と「コミュニケーション」のみが問われる最もシンプルな問題です。
その2つを原稿用紙1枚(600字)の中で表現することを意識しましょう。
各選択科目で必ず傾向はありますので、やみくもに勉強せずまずは過去問を分析しましょう。
「出題傾向マトリックス」を作成し、ポイントを絞った学習をすると効率的です。
キーワード集を作成することが基本ですが、様々な情報ソースをあたってこまめにメモする習慣も大事です。
専門書、学協会誌、インターネットなどそれぞれの利点欠点を意識しながら活用しましょう。
「注意点」「留意点」「概要」「特徴」「長所」「短所」「原理」「応用例」のような切り口で問われることが主です。
専門用語などのキーワードをまとめる際に、これらの切り口を意識しておくと本番に試験本番に活きてきます。
選択科目Ⅱ-1で問われる2つのコンピテンシー「専門的学識」と「コミュニケーション」に対応した書き方をすればいいのです。
論文を書く上での作法や分かりやすさを原稿用紙上で表現しましょう。
以上、まとめでした。
他の科目についての具体的対策方法はこちらの記事を参考にしてください。
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