【経営工学キーワード】TOC(制約条件理論)

経営工学
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はじめに

経営工学に関連したキーワードを学習していて気付いたことがあります。

「多面的な視点が養われ、汎用性がめちゃ高い!」
「技術士二次試験の経営工学部門に限らず、多くの部門に応用可能な知識や方法論が満載!」

ということで、技術士二次試験(経営工学部門)の対策をしている時にまとめてきたキーワード集をほとんどそのままご紹介!
本経営工学キーワードシリーズの記事の特徴として、ある1つのキーワードをについて

  1. キーワード名
  2. キーワードを取り巻く背景
  3. 原理と特徴
  4. 問題点
  5. 解決策
  6. 応用例
  7. 今後の展望

これらのような、あるいはこれらに近い視点でまとめています。
これはそのまま、技術士二次試験対策に直結するまとめ方です。

このシリーズの記事は次のような方にオススメです!

キーワード名

制約条件の理論(TOC:Theory of Constraints)

定義と背景

〇定義
TOC(Theory of Constraints:「制約条件の理論」)は、パフォーマンスを妨げている”制約条件(Constraints)”に集中して改善することで、企業全体の業績改善や向上が期待できるマネジメント手法。
簡単に表現すると、全ての課題に対策を打つのではなく、その課題の根本原因となっているごく少数の制約条件に対策を打つことで、最小の手間と時間で最大の改善効果を得られるマネジメント手法と言える。

また、TOCは『どんなに複雑なシステムでも、常に、ごく少数の要素に支配されている』という仮定から出発した包括的な経営哲学である。
「ごく少数の要素」とは「制約条件」のことであり、制約条件がシステム(組織)のパフォーマンスの鍵を握っていることを意味する。

そして、「5段階集中プロセス」などのフレームワークで継続的に制約条件を改善していくというのがTOCの一般的な流れである。

〇背景
TOCを提唱したエリヤフ・ゴールドラット博士は組織を一本の鎖に例えた。
エリヤフ・ゴールドラット博士によると、鎖(組織)を構成する一つひとつの環(要素)は、人・設備・部門・工場・サプライヤーなどの組織の構成メンバーだけではなく、製品やサービスのプロセスや成果物なども含む。

また、組織内の活動を制限または促進する方針やルールも要素に含む。
組織が目的や目標を達成するためには、組織に属する要素が生んだ結果の連携が必要不可欠。

つまり、組織が目的や目標をどこまで達成できるかは、ごく少数の弱い要素がどのような動きをするのかにかかっている。
そして、各要素をつなぐ制約という繋がりや関係性を強くすることで、これまで見えなかった新たな制約が見えてくる。

問題の解決を繰り返し、問題を掘り下げることで見えてくるのが、大部分の問題の発生源になっている根本の問題である制約の「中核問題」。

制約の中核問題を解決することで組織のパフォーマンスを阻害しているものを取り除き、「3期連続利益が低下している」などの大きな問題も解消する。

ちなみに、制約は、またの名をボトルネックとも呼ぶ。
ボトルネックとは瓶の細くなっている部分であり、制約がプロジェクトである水の流れを滞らせている部分とも解釈できることから、そう名付けられた。
つまり「制約条件 = 中核問題 = ボトルネック」と言える。

【ボトルネックの種類】

  • 物理的制約
  • 特定の工程のリソースが不足していることから、プロジェクト全体のパフォーマンスが制限されている状態

  • 方針的制約
  • 経営方針といった会社の決まりがパフォーマンスを制限している状態

  • 市場制約
  • リソースは十分であるにもかかわらず、市場の需要が少ない状態

特徴と原理

〇従来の経営手法との違い(特徴)
TOCが他の経営改善手法と決定的に異なる点は、制約とそれ以外(非制約)の区別を明確にすること。
従来の経営手法は、個別のプロセスを最適化して、プロジェクト全体のパフォーマンスを最適化するものであった。

それに対し、TOCでは特定の制約に集中して改善することでパフォーマンスを最適化するもの。
パフォーマンスの弊害はどこで起こっているのかを認識することで、何をどこに集約すればいいのかを明確にできる。
そのため、TOCでは制約とそれ以外を区別する必要がある。

しかし、非制約が全く関係ない、重要でないといういうものではない。
あくまでも、ひとつの問題を解決するための、制約のピックアップ作業であると考える。

なお、「工場での生産能力を向上させることに成功した結果、在庫を過剰にかかえてしまった」といった、制約のひとつを改善したことによる新たな問題が見えてくる場合がある。
これを「制約を別のところに移す」と考える。

TOCで制約を別のところに移した場合、これまでのシステムやルールは古いものとなる。
古いシステムやルールはパフォーマンスを阻害する要因となりうるため、また1からプロセスを見直さなければならない。

〇TOCのフレームワークNo.1(5ステップ集中プロセス)

  • ステップ① 制約を見つける
  • まず、業務の流れ(フロー)を最も遅くしている箇所(律速工程)を探す。
    なぜなら、制約以外の部分を改善してもプロジェクト全体のパフォーマンスは改善しないからである。
    そのため、様々な工程の中からパフォーマンスを決定づけるポイントを特定する。

  • ステップ② 制約を最大活用する方針を決める
  • パフォーマンスを決定づけるポイントを解消してパフォーマンスを向上させる必要がある。
    例えば、パフォーマンスを決定づけるポイントが人員の能力不足といったリソース不足によるものだとする。
    組織のリソースには限りがあるため、足りているところからリソースを回さないといけない。
    この場合、他から実務経験が長い人員を異動させ、リソース不足を解消するといった方針を決める。

  • ステップ③ 制約以外のすべてをステップ2の決定に従属させる
  • 方針の実行と、パフォーマンスを決定づけているポイントの解消を目指す。
     
    ステップ②で使用した例の場合、パフォーマンスを決定づける要因は人員の能力不足であるため、能力が低い・実務経験が浅い人にはその人でもこなせる業務を担当させる。
    そして、能力が高い・実務経験の長い人には、その人にしかこなせない業務を担当させることで、制約を最大限活用できる。

  • ステップ④ 制約を強化する
  • 要素の連携をより強化し、定着させる。
     
    ステップ②の例で説明すると、制約となっていた人員の能力を高める必要がある。
    従業員の教育指導を行うなどして、制約であったものの能力を高める。

  • ステップ⑤ 制約が解消したら惰性に気を付けてステップ①に戻る
  • 制約を解消すると、新しい問題点が見つかる。
    そのため、新たに見つかった問題点を解消するため、新たに制約を見つける。

 
5ステップ集中プロセスを何回か回すと、制約が移動するたびにフローが大幅に改善し、大きな余剰能力が生まれる。

そうすると、組織パフォーマンスを制限する制約は、人や設備能力といった物理的制約から、市場の需要(市場制約)や運用方針(方針制約)などの非物理的制約にシフトする。

〇TOCのフレームワークNo.2(思考プロセス)
非物理的な制約に適切にフォーカスするには、4つの疑問に正しく答えて、すべきことを明確にする。

Q1.フォーカスがオペレーションの問題でなくなったら、どのように制約を見つけるのか?
Q2.制約を最大活用するとはどういうことなのか?
Q3.非制約を従属させるとはどういうことなのか?
Q4.制約を強化する効果的な方法をどのように見つけるのか?

継続的改善プロセスにおける、ひとつのフレームワークである「思考プロセス」は、以下のステップでフローの大幅改善で獲得した新たな競争力を、どのように長期間持続し、収益に変えていくかをという問題をより戦略的に行う。

  • ステップ① 制約条件を見つける
  • ここでは組織のパフォーマンスを制限する一番根源の問題「中核問題」が何かを突き止めることから始める。
    つまり、パフォーマンスを低下させている原因一つ一つに対応するのではなく、その中でも本質的な問題点を突き止める必要がある。

    そのため、対立解消図(EC)や現状問題構造ツリー(CRT)といったフレームワークを使う。 
     
    ステップ② 制約条件を改善する解決策を決める
    「中核問題」の解決の方向性を定めて、以下の3点を意識しながら、解決の方向性が中核問題を解決できるかを確認する。
      
      ・解決の方向性が中核問題を解決すること
      ・実行に移す際に障害となることを取り除くこと
      ・マイナス反応を取り除くこと
     
    そのために、未来構造ツリー(FRT)というフレームワークを使用する。

  • ステップ③ 解決策を実行する計画を立てる
  • 解決策を実行する「実行ロードマップ」を作成する。
    実行を阻害する障害と、実行による副作用を見つけてそれらを克服するためのアクションと実行順序を決めていく。
     
    そしてフローの大幅改善で獲得した新たな競争力を維持し、収益に変えていく戦略にフォーカスする。

    この段階では前提条件釣りー(PRT)や移行ツリー(Trt)といったフレームワークを使用する。

応用例

〇シャープ株式会社 ~わずか6か月間で30%の開発リードタイム短縮~
【対象事業部】
通信事業部

【改革内容】
スマートフォン開発におけるプロジェクト管理

【当初の会社の状況】
2012年以降、低迷が続き出口が見えない企業改革に悩み、あらゆる構造改革を実行するも、売上高や利益の減少が続いていた。

【TOC導入前の状】
スマホやタブレットなどの開発を行う通信事業本部は、”目の前のプロジェクトをこなす”ことだけで精一杯。
開発は複雑化と厳しい市場環境の中苦悶が続く。
“将来に向けた活動”に時間をさけずにいた。
先の見えない不安と、企業構造改革による人員減少により社員疲弊。

【改革したポイント】
・事業部門の様々な問題の根本原因の特定
・ハードウェア部門に絞ったプロジェクト改革
・事業部門の「戦略と戦術」のつながりの見える化

【マネジメント改革で起こった変化】
・6か月で開発リードタイムを30%短縮
・ねん出した時間でこれまで困難だった先行検討/技術検討に割り当て、魅力的な商品の開発を実現
・品質を向上し、量産段階での品質が安定
・遅延リカバリーのための追加投資を大幅に削減
・特定した根本原因に集中した変革活動によって、短期間で成果をあげた

【マネジメント改革後の展開】
ハードウェア部門での成功経験をもとに、事業部門全体での取り組みを開始。
企画部門、ソフトウェア部門、品質部門、生産部門の協力のもと、事業部門全体で効率化、最適化を実施した。

〇マツダ株式会社
【対象事業部】
パワートレイン開発本部

【改革内容】
自動車パワートレイン開発におけるプロジェクト管理

【本事例スタート当初の会社状況】
2007年10月、企業変革や意識変革に取り組むも活性化/定着せず、解決策が見つからないまま低迷が長引いていた。
パワートレイン開発本部の中ではマツダの将来を危惧し、マネジメントイノベーションの必要性を考える人々が増えてきていた。

【CCPM導入前の概要と状況】
パワートレイン開発本部は、自動車のパワートレインを開発しており、年々増加する車種や激しさを増す技術の高度化と複雑化に対応することで精一杯であった。
組織の縦割りによって、部門間の連携やコミュニケーションが大幅に不足してしまい、開発プロジェクトの進捗状況は見えない状態だった。
また、プロジェクトを管理するスキルが伝承されておらず、各マネジメントが四苦八苦していた。
 ※CCPMとは
  クリティカルチェーンプロジェクトマネジメントのこと。
  プロジェクトのタスクの納期を可能な範囲で短縮し、バッファを設けるプロジェクト管理手法。
  クリティカルチェーンとは律速が想定される(最も時間のかかる)作業の流れのこと。

【改革したポイント】
・パワートレイン開発本部長の支援のもとでボトムアップの”草の根活動”
・パイロットプロジェクトでの”今まで経験したことのない成功”
・トップダウンによるSKYACTIV TECHNOLOGYプロジェクトへの全面適用

【マネジメント改革を経て起こった変化】
CCPMによるプロジェクト計画を納得するまで何度も何度も練り直し、大プロジェクトをどのように管理すべきかとことん議論して管理方法を構築し。
実行段階で納期的に危険な状況がわかれば直ぐにマネジメントが対策を実行。
日々のマネジメントの中で小さな成功体験を積み重ね、プロジェクトの大きな成功につながり、それがお互いの信頼を生み、SKYACTIV TECHNOLOGYという大きなイノベーションの実現を加速させる大きな原動力の一つになった。

【マネジメント改革後の展開】
パワートレイン開発本部の全プロジェクトにCCPMが適用され、他部門へも波及しつつある。
そのイノベーションを加速させたCCPMのマネジメントは、マツダの企業文化の一部になっている。
イノベーションを加速させるマネジメントが、日々自然と行われている。

まとめ

ゴールドラット博士は、TOCについて次のように述べている。

「TOCを一言で言えというなら、それは『フォーカス』だ。
ここで、大事なのは、フォーカスするとは、何をすべきか決めると同時に、むしろ何をすべきでないか決めるということだ。
なぜなら、すべてにフォーカスするのは、どれにもフォーカスしないのと同じだからだ。」

参考

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