はじめに
経営工学に関連したキーワードを学習していて気付いたことがあります。
「多面的な視点が養われ、汎用性がめちゃ高い!」
「技術士二次試験の経営工学部門に限らず、多くの部門に応用可能な知識や方法論が満載!」
ということで、技術士二次試験(経営工学部門)の対策をしている時にまとめてきたキーワード集をほとんどそのままご紹介!
本経営工学キーワードシリーズの記事の特徴として、ある1つのキーワードをについて
- キーワード名
- キーワードを取り巻く背景
- 原理と特徴
- 問題点
- 解決策
- 応用例
- 今後の展望
これらのような、あるいはこれらに近い視点でまとめています。
これはそのまま、技術士二次試験対策に直結するまとめ方です。
このシリーズの記事は次のような方にオススメです!
- 技術士二次試験(経営工学部門)受験予定の方
- 技術士二次試験(経営工学部門以外)の受験予定の方
- 技術士に興味はないけど、経営工学を勉強したい方
ぜひ、それぞれの目的に合わせて勉強にもお役立てください!
キーワード名
ECM(エンジニアリングチェーンマネジメント)
開発された時期・背景
高度経済成長期より現代において発展してきたマネジメントの考え方。
高度経済成長期は「みんなが同じもの持っていれば満足」だったが、現代においては製品ニーズが多様化している。
細分化したニーズに対応するため、企業は短いスパンで新製品を開発している。
エンジニアリングチェーン・マネジメントが注目される背景として、以下のような製造業を取り巻く環境の変化が挙げられる。
- 製品ニーズの多様化
- 製品サイクルの短期化
- 製造物への責任
- 価格競争の激化
このように、製品需要が長続きせず、製品サイクルが短期化している上に、製品の安全基準も世界的に厳しくなっている。
価格競争の面でも経済のグローバル化で国内および人件費の安い国外企業とも競合する必要がある。
これらの製造業が抱える課題解決の一助としてエンジニアリング・チェーンマネジメント(ECM)が注目されるようになった。
言葉の定義・目的・効果
3-1)エンジニアリングチェーンとは
エンジニアリングチェーンマネジメント(ECM:Engineering Chain Management)とは、モノづくりにおける上流のプロセスを指す言葉。
- 市場調査
- 商品企画
- 基本設計
- システム設計製品図や工程図の発行
こうした生産の前段階の管理プロセスや、生産後の保守保全や分析などの一連の管理工程マネジメントがECMに該当する。
一方、ECMから発行された製品図と工程図を受けて実行される、販売動向調査から調達、製造、物流、販売までの一連の管理工程はサプライチェーンマネジメント(SCM:Supply Chain Management)と呼ばれる。
3-2)エンジニアリングチェーンの目的
製造における全体の最適化と、開発力の向上が目的。
エンジニアリングチェーンのプロセスにおいて製品の根幹をなす部分が含まれる。
製品の根幹にひずみがあれば、下流プロセスであるサプライチェーンにも影響が及び、期待した効果が得られなくなる。
ゆえに、下流に位置するサプライチェーンの効果を最大化させるためにもエンジニアリングチェーンの最適化が重要となる。
3-3)エンジニアリングチェーンの効果
エンジニアリングチェーンのデジタル化を進めることによって、製品の品質向上、製品にかかるコストの低減および業務効率化などを図れる。
〇製品の品質の面
- 過去のトラブルをデータとして蓄積して次回以降に生かす判断材料にできる
- ベテラン技術者のノウハウをナレッジとして蓄積し新人に共有できる
〇コストの面
- デジタル化によってワークフローの見直し・構築が容易になる
- エンジニアリングチェーン業務全体の効率化を図ることで人的コストの低減につながる
- コストを意識した設計も容易になるため、製品開発の段階から将来的なコスト削減に至るまでをプランニングできる
実現方法と課題
エンジニアリングチェーンマネジメントを実現するために企業が行うことは主に次の6つ。
4-1)実現方法
- 経営方針や目標の共有とエンジニアリングチェーン実施の方針を検討
- エンジニアリングチェーン工程や体制を可視化
- ナレッジのデジタル化と共有
- 各工程のデジタル化とデジタル化のための環境整備
- デジタル化に対応するための人材教育
- 運用を継続する仕組みの構築
最終的には、エンジニアリングチェーンマネジメントを継続できるように、全社が協力して仕組みを構築する必要がある。
4-2)課題
エンジニアリングチェーンを実現しようとしても、次のような課題が実現を阻んでしまうことがあります。
- 情報の伝達がうまくいかない
- 情報共有と作業工程管理が連動しない
- 成果物の管理が難しい
例)設計で出た懸案が生産準備で共有されない
例)情報共有が難しく手待ちによる効率低下、情報が整っていないなかで作業を進めることで品質の低下や手戻りの発生をまねく
例)各プロセスでの成果物の最終版、あるいは改正版をそ齟齬なく入手できると良いが、それが整っていないことで、品質の低下や正しい情報を探すための工数がが発生し効率低下をまねく
解決策
情報の共有と伝達が円滑に行われるように、各工程のデジタル化とECMソリューションの導入を進める必要がある。
具体的には下記のような方法が考えられる。
- 3次元モデルの活用(形状情報のみならず、その他の設計情報も含めて伝達)
- 2D、3Dの併用による混乱及び負荷を低減
- 情報のアウトプット形式(ひな形)の定義、情報量と質の最適化、運用ルール整備、IT環境の整備
- 人材育成・教育システム構築
特に、検査方法、加工方法、公差などの情報も漏れなく伝達する
応用例
6-1)設計諸元のデジタル化
第一に重要なポイントとして挙げられるのが、製品の寸法や重量などの諸要素となる設計諸元のデジタル化。
製造では、CADを使う詳細設計の前段階として 構想設計を実施する。
構想設計では、製品に求められる要件を満たすために、主要部品の構成や実現方式などを検討し、設計諸元を決定する。
この設計諸元をデジタル化することで、部門間を横断したシームレスな連携が可能になる。
例えば、3DーCADや3Dによる応力解析・流動解析などのシミュレーション技術などがある。
そして、製品に転化することで迅速なフィードバックやフィードフォワードが発生し、製造プロセス全体の最適化につながる。
6-2)製品成果物のデジタル化
製品の3Dデータや製品情報、部品表や部品構成表といった成果物をデジタル化することで、部門間を横断した情報管理が可能になる。
例えば3Dプリンタによるプロトタイプ作成、X線CTによる三次元内部構造解析などがある。
その結果、作業の出戻りを防ぎ、無駄なコストや支出の削減に貢献する。
また、部門間の情報共有が可能になれば業務の属人化を防ぐことにもつながるため、製造業が抱えている人材不足という問題解消の一助となる。
今後の展望
ECMへのデジタル化が強化されることにより下記の2点が今後の展望となる。
1つ目に設計情報の共有化。
デジタルデータとして設計情報(CADなど)を共有することで製品設計の短期化が期待できる。
過去に行った設計検討に変わりがない場合、改めて同じ作業を繰り返す必要がなくなり、図面データの流用が可能。
また、新しい技術の開発の際も過去に設計した図面などを参考にすることで、業務負荷を軽くすることもできる。
2つ目は部品情報の共有化。
部品情報を共有することによって、サプライチェーンにおける所要時間の短縮につながる。
細分化されゆく需要に合わせて、一点一点違う部品を使用するとサプライチェーンの複雑化を招き、調達にかかる時間と負荷を増やしてしまう。
そうした問題を回避するため、部品情報の共有化を実施することでコストも低減させることができる。
コラム)似たような言葉の定義の確認
エンジニアリングチェーンと類似する言葉に、サプライチェーンとバリューチェーンがあります。
- サプライチェーン:製品の原材料などの調達から製造、在庫管理、配送、販売、消費までの一連の流れを指す言葉。供給連鎖とも言い、製品の流れの下流に位置するプロセス。
- バリューチェーン:製品の開発や製造、販売、労務管理などすべての活動を価値として考え、一連の流れの中でどのような部分が強みで弱みなのかを分析し、事業戦略の改善の方向を探ること
参考元
- パーソナルテクノロジースタッフ
- 日経BP
- デジタルトランスフォーメーションチャンネル
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