はじめに|選択科目Ⅱ-2は2枚問題
選択科目ⅡはⅡ-1(1枚問題)とⅡ-2(2枚問題)に分かれます。
別の記事で解説した通り、必須科目Ⅰと必須科目Ⅲはいずれも3枚問題で、ほぼ同様の対策の仕方で対応可能です。
一方、選択科目Ⅱについては、細かく2つの問題に分かれている点、またそれぞれ異なるコンピテンシーが求められる点などから、別途対策が必要になります。
この記事では選択科目Ⅱ-2の対策の仕方について解説します。
選択科目Ⅱ-2の概要
受験案内には選択科目Ⅱについて、
『選択科目についての専門知識及び応用能力に関するもの』
と書かれています。
選択科目Ⅱ-2は「知識問題の要素」と「実務における実践的要素」がが半々問われるといったイメージです。
選択科目は2枚問題であり、知識問題である選択科目Ⅱ-1(1枚問題)と独自の論理展開が求められる必須科目Ⅰや選択科目Ⅲ(3枚問題)の文章量的にも内容的も中間的な位置づけです。
ある程度突っ込んだ専門知識も問われるため自分の得意な方向性に論理展開しづらい面がある一方、マネジメントやリーダーシップは自分の型にはめて回答できる要素もあります。
そのような特徴を意識しながら対策するといいでしょう。
過去問を見てみよう
まずは、細かい解説に入る前に過去問を見てみましょう。
令和3年度実施の問題を見てみましょう。
金属加工を例に見てみます。(一部省略)
次の2設問(Ⅱ-2-1, Ⅱ-2-2)のうち1設問を選び解答せよ。(答案用紙2枚を用いてまとめよ。)
Ⅱ-2-1
自社の主力である金属加工製品(溶接構造物)の生産性向上活動を行うことになり、技術責任者のあなたはりーだーとして活動に取り組むことになった。
製品は顧客の仕様により複数タイプがある。
これまで自動化・ロボット化など技術部門での取り組みを行ったことはあるが満足な結果にはつながっていない。
設計、製造技術、生産管理を含めた視点で、さらなる生産性向上への取組が必要である。
今回の活動では、大規模な設備投資は考えず、また自社設計であるが材質の変更、形状・寸法の大幅な変更はできないものとする。
(1)生産性向上を図る取組を行う上で、設計、製造技術、生産管理を含めた技術的観点、及び活動を立ち上げ、推進する観点から調査、検討すべき事項とその内容について、説明せよ。
(2)生産性向上活動業務を進める手順を列挙してそれぞれの項目ごとに留意すべき点、工夫を要する点を技術面含めて述べよ。
(3)業務を効率的、効果的に進めるための関係者との調整方策について述べよ。
Ⅱ-2-2
あなたはある工場で製作している金属製品(鋳造や鍛造等の加工で製作)の品質管理の責任者である。
顧客の依頼により製作し、その顧客にのみ納入した製品について、強度の低い製品があると顧客よりクレームがあり、上司よりクレーム品及び向上完成品の検査、さらに原因究明と対策を指示された。
(1)制作した金属製品の検査をするにあたり、調査、検討すべき検査事項とその内容について説明せよ。
(2)この検査業務を進める手順を列挙し、それぞれの項目ごとに留意する点と工夫を要する点を述べよ。
(3)業務を能率的、効果的に進めるための関係者との調整方策について述べよ。
いかがでしょうか。
何となく書けそうな内容が思い浮かんだでしょうか。
どの問いがどのコンピテンシーに対応しているか、どのような回答が期待されているか分るでしょうか。
全然思い浮かばない、全然わからないという方。
ご安心ください。
これからしっかりと解説していきます。
基本情報
-
- 設問数と選択数:2設問より1問選択
- 配点:20点(筆記試験全体で100点満点中)
- 文字数:600字詰め原稿用紙 × 2 =1200字
- 論文構成:大きく分けて3部構成(下記のように枝番を付けて細分化してもOK)
1.事前の調査・検討内容
1-1.調査内容
1-2.検討内容2.業務遂行手順と留意点・工夫点
2-1.計画段階
2-2.試作・量産段階
2-3.評価・是正段階3.効率的に業務を進めるための関係者との調整方策
3-1.顧客との関係調整
3-2.行政との関係調整
3-3.近隣住民との関係調整
等々
問われるコンピテンシー
選択科目Ⅱ-2で問われるコンピテンシーは以下の4つです。
- 専門的学識
- コミュニケーション
- マネジメント
- リーダーシップ
です。
専門的学識とコミュニケーションは大丈夫ですね。
全ての科目で問われますし、論文全体を通して評価されるものです。
どのように表現・対策すべきかは
の記事を参照してください。
選択科目Ⅱ-2で重要なのが「マネジメント」と「リーダーシップ」の2つです。
この2つのコンピテンシーは筆記試験全体を通して、この「選択科目Ⅱ-2」でしか評価されません。
裏を返せば、ここでしっかりアピールできないと、他ではどこでも評価してもらえず、不合格が確定してしまいます。
どの様にアピールすればいいか、以下の章の論文の書き方で解説しますので最後までチェックしてくださいね。
過去問から見えてくる傾向と対策
ご自身の選択する科目の過去問を直近5年分程度で構いませんので、目を通してください。
必ず傾向があるかと思います。
どのようなポイントに注目して傾向を掴めばよいか。
それは以下の2点です。
- どの分野からの出題が多いか
- どのような問われ方をするか
(例えば、金属加工で言えば「鋳造」「溶接」「塑性加工」「粉末冶金」「熱処理」)
(事前の調査内容、留意点・工夫点、業務遂行手順、関係者調整)
です。
選択科目Ⅱー2は基本的に2設問から1問選択となります。
選択科目Ⅱ-1のように4設問も与えられません。
自分の得意分野がその2設問にない場合は致命的ですね。
そのため、過去の傾向をしっかり把握して頻出分野を重点的に対策する必要があります。
そこで、オススメしたいのが過去5年分の傾向をまとめたマトリックス表を作成することです。
平成29年度~令和3年度の5か年分まとめましたので参考にしてください。
表 平成29年度~令和3年度の選択科目Ⅱ-2(金属加工)の出題傾向
表 平成29年度~令和3年度の選択科目Ⅱ-2(金属加工)の出題傾向集計
いかがでしょう。
問われ方については令和元年度以降傾向がガラッと変わりました。
ですので、これから対策する方について、平成30年度以前の問われた方については参考程度に眺め、対策として意識する必要はありません。
令和元年度以降の問われ方、つまり
- ○○担当の責任者
- 事前の調査・検討内容
- 業務遂行手順と留意点・工夫点
- 効率的・効果的な関係者との調整方策
この流れをしっかりつかみましょう。
ただ、頻出分野については平成30年以前も含めて十分に参考にしてください。
また、1つの設問で複数分野にまたがるワードが入っている場合もあります。
そのような場合、1設問で2つの分野をカウントするなど集計をとっておりますのでご了承ください。
端的に言って、「溶接」はかなり頻出です。
毎年必ず出題があると言っても過言ではありませんね。
続いて頻出なのが「鍛造」です。
これもかなりの高確率で出題があると言ってもいいですね。
分野の分類としては鍛造は「塑性加工」になります。
本来、塑性加工は圧延、引き抜き、押し出しなど、様々な加工法も含んでおりますが、選択科目Ⅱ-2で問われる塑性加工は、ほぼ鍛造とっていいです。
上記の頻出分野の傾向から、
溶接や鍛造を普段業務にされている方、おめでとうございます。
そのアドバンテージを十分に生かしてください。
その他の方、ここは腹をくくり溶接か鍛造の勉強をしっかりされることをお勧めします。
選択科目Ⅱ-1と同様、こればっかりはどうしようもありません。
統計データが物語るものは事実として受け止めざるを得ません。
このようなデータを見て、他の科目(金属材料、表面処理など)を選択するなどの選択肢もありです。
ただ、早めの決断をしましょう。
この決断が遅れると対策できる期間が短くなってしまいます。
もちろん、金属部門に限らず他の技術部門でも同様です。
まずは、自身が得意そうな科目について上記のようにマトリックス表を作成して傾向を掴みましょう。
統計データが示す事実と、自身の業務や得意分野を照らして、最も勝率の高い戦略を立てることが重要です。
無用なこだわりを捨て、あくまで試験であると割り切った対策が合格への近道です。
知識の増やし方
知識の増やし方は基本的には知識問題である選択科目Ⅱ-1と同様です。
簡単におさらいすると、
- キーワード集の作成
- メモを取る習慣
- 専門書を読む
- 学協会誌を読む
- インターネットで情報収集
などの方法で行います。
詳しくは、
及び
を参考にしてください。
ただし、令和元年度以降の過去問を見ると傾向として分かりますが、単なる知識問題ではないというのが特徴として表れています。
具体的には、手順を示しながら留意点・工夫点を求められたり、関係者調整方策が求められたりといった具合です。
つまり「マネジメント」や「リーダーシップ」に対応する部分となります。
知識を増やす際にも、このような点を意識しながら学習する必要があります。
つまり、その工法のメリットやデメリット、デメリットを補う対策や代替策、現場や実務を想定した実践的な利害調整などなど。
専門書には記載のないところも想像力を膨らませて記述しなくてはいけませんね。
論文の書き方
令和元年度以降の出題の仕方には、かなり強い傾向が表れています。
裏を返すと、かなり対策がしやすくなっていますし、対策をしっかりやっておけば本番でスラスラと書けるように構成されています。
先ほど、基本情報のところで論文構成について書きましたが、再度おさらいも兼ねて構成の例を示します。
1-1.調査内容
1-2.検討内容
2.業務遂行手順と留意点・工夫点
2-1.計画段階
2-2.試作・量産段階
2-3.評価・是正段階
3.効率的に業務を進めるための関係者との調整方策
3-1.顧客との関係調整
3-2.行政との関係調整
3-3.近隣住民との関係調整
以上
上記は例とは言いましたが、構成はほぼこの一択でいいでしょう。
この例をベースにして題意にそぐわないところを削除するか一部改変するだけでOKです。
この構成にすることにより、必然的にコンピテンシーをアピールできることはもちろん、そもそもコンピテンシーを盛り込めるような問い方をしてくれています。
以下の解説の通り、しっかりコンピテンシーとの設問との対応関係を意識して対策しましょう。
その前におさらいですが、選択科目Ⅱ-2で問われるコンピテンシーは
- 専門的学識
- コミュニケーション
- マネジメント
- リーダーシップ
の4つでしたね。
そこを押さえたうえで解説します。
1.事前の調査・検討内容
ここは、論文全体を通して問われるコンピテンシーである「専門的学識」と「コミュニケーション」のみ意識していればOKです。
専門的学識はいわゆる知識でであり、問題となっている事柄に対してどれだけの情報を知識として持っているかということです。
コミュニケーションは「一読して分かりやすい文章」が書けるかということです。
詳しくは
を参照してください。
あるキーワードや業務内容に関して、問題となりうることや対策が必要な事など、周辺知識がないと調査や検討は行えません。
そのような実務上必要な知識を専門的学識として聞いています。
例えば、溶接であれば低温割れ防止には予熱が重要であることや、歪みを緩和するには溶接順序が大切であることなどがそれにあたるでしょう。
また、これはお好みでの調整で構いませんが、「調査」と「検討」を合わせても分けてもOKです。
ちなみに、「調査」と「検討」の違いを念のため押さえましょう。
- 調査:物事の実態や動向などを明確にするために調べること
- 検討:よく調べ、考えること
です。
その差は”考える”か否かにあります。
単なる事実確認であれば「調査」、その後に考えるという行為が伴えば「検討」となります。
細かいようですが、このような違いも意識して記述することで、より崇高な印象を与えらえますので言葉の意味を大切にしながら対策しましょう。
2.業務遂行手順と留意点・工夫点
ここでは、「専門的学識」と「コミュニケーション」に加えて、「マネジメント」が問われる点が超重要です。
技術士として大切なコンピテンシーの1つである「マネジメント」はここでしか聞いてくれませんので、しっかり押さえてください。
選択科目Ⅱ-2における「マネジメント」は超重要ですので、その定義からおさらいしましょう。
定義(受験案内参照):
・業務の計画・実行・検証・是正(変更)等の過程において,品質,コスト,納期及び生産性とリスク対応に関する要求事項,又は成果物(製品,システム,施設,プロジェクト,サービス等)に係る要求事項の特性(必要性,機能性,技術的実現性,安全性,経済性等)を満たすことを目的として,人員・設備・金銭・情報等の資源を配分すること。
でしたね。
詳しい解説は、
を参照してください。
ここでは要点だけ押さえます。
技術士的マネジメントとは、
「PDCAにおいて、QCD及び成果物に対する要求事項を満たすためのリソースの配分すること」
と短縮して言い換えられます。
ここで以下の2点が重要なポイントです。
- マネジメント定義中の”PDCA” = 設問中の”業務遂行手順”
- マネジメント定義中の”要求事項を満たすためのリソース配分” = ”留意点・工夫点”
という点です。
まず1つめですが、業務遂行手順というからには、そのステップをはっきりと示す必要があります。
そのステップがPlan(計画), Do(実行), Check(評価), Act(是正)です。
見出しや段落分けはお好みではありますが、例えば
- 2-1.計画段階(Plan)
- 2-2.試作・量産段階(Do)
- 2-3.評価・是正段階(Check及びAct)
といったように枝番を付けてはっきりと見出しで分けてしまうのもアリです。
そして、その各段階で
「~のため、”人員“の配置や育成の点に留意する必要がある」
「~のため、”設備“の導入を行うなど工夫する」
といったようにリソースの配分を意識したワードを盛り込むことによりトータル的にマネジメント能力をアピールすることが可能です。
3.効率的に業務を進めるための関係者との調整方策
ここでは、「専門的学識」と「コミュニケーション」に加えて、「リーダーシップ」が問われる点が超重要です。
関係者との調整方策とあるので、マネジメントより非常に分かりやすいです。
しかし、「リーダーシップ」もここでしか聞いてくれないコンピテンシーですので取りこぼしの無いよう、しっかり定義から振り返りましょう。
定義(受験案内参照):
・業務遂行にあたり,明確なデザインと現場感覚を持ち,多様な関係者の利害等を調整し取りまとめることに努めること。
・海外における業務に携わる際は,多様な価値観や能力を有する現地関係者とともに,プロジェクト等の事業や業務の遂行に努めること。
でしたね。
詳しくは
を参照してください。
ここでは簡単に要点を押さえます。
- 定義中の「明確なデザインと現場感覚」=現場の実態に即した実現可能で合理的な感覚
- 定義中の「多様な関係者と利害等調整」=顧客・近隣住民・社員等誰も損害を被らない配慮
ということです。
一般的なリーダーシップのイメージである方針をたたき出して組織を引っ張るといったものではない、ということでしたね。
リーダーシップをアピールするためには、「”現場”を意識したワード」と「”利害関係者”を意識したワード」をしっかり入れ込むようにしましょう。
現場を意識したワードは、まさしく「現場」や「工場」「客先」「市場」などがあるでしょう。
また利害関係者を意識したワードは「顧客」「ユーザー」「外注先」「行政」「近隣住民」「作業者」などがあるでしょう。
さらに、利害調整という点では、「安全」「利益」「被害」「損害」「環境」など、失われると困るもの、被ると困るもの、そのような観点で配慮するよう提案する内容を盛り込めればOKです。
まとめ
いかがだったでしょうか。
平成30年度以前は、問い方にあまり統一性がなく、比較的専門知識をガンガン問う感じでした。
一方令和元年度以降は、比較的型通りの問い方に代わり、コンピテンシーとの設問との対応関係もすっきりと分かりやすくなりました。
コンピテンシーの定義をしっかり押さえたうえで、過去問から見えてくる傾向を元に対策することでかなり手ごたえが得られそうですね。
特に、「マネジメント」と「リーダーシップ」を意識して選択科目Ⅱ-2もばっちり対策を進めてください。
各章の内容についてさらっとおさらいしましょう。
- はじめに|選択科目Ⅱ-2は2枚問題
- 選択科目Ⅱ-2の概要
- 過去問を見てみよう
- 基本情報
- 問われるコンピテンシー
- 過去問から見えてくる傾向と対策
- 知識の増やし方
- 論文の書き方
知識問題である選択科目Ⅱ-2は他の科目と異なる出題形式です。
しっかり、選択科目Ⅱー2専用の対策を行いましょう。
選択科目Ⅱ-2は「600字 × 2枚 = 1200字」の2枚問題です。
「知識問題の要素」と「実務における実践的要素」のハイブリッド的な内容になっています。
選択科目Ⅱ-2はPDCAを意識したストーリー仕立てでの出題となります。
原稿用紙2枚を使って、実務を意識した回答が求められます。
筆記試験全体を100点満点とすると、20点の配点となります。
2設問より、より確実に得点できる1問を選択して解答します。
・専門的学識
・コミュニケーション
・マネジメント
・リーダーシップ
この4つを解答用紙の中に盛り込んで記述しましょう。
過去5年分の傾向をまとめたマトリックス表を作成しましょう。
その際、「どの分野からの出題が多いか」と「どのような問われ方をするか」の視点で傾向を掴みましょう。
・キーワード集の作成
・メモを取る習慣
・専門書を読む
・学協会誌を読む
・インターネットで情報収集
これらの方法で地道に知識を増やしましょう。
①事前の調査・検討内容
②業務遂行手順と留意点・工夫点
③効率的に業務を進めるための関係者との調整方策
この大きく3章立てで、適宜枝番で区切って論述しましょう。
以上まとめでした。
1枚問題や3枚問題についてはこちらの記事を参照してください。
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