はじめに
技術士二次試験を受験されている方皆さん共通で悩むのが「選択科目をどうするか」問題。
当たり前ですが、多くの受験者が持ち合わせる学生の時や社会人になってから培った知識や経験は、「技術士二次試験に区分けされる選択科目の内容にドンピシャで当てはまり一切の周辺知識は無い」、なんてことはほぼないでしょう。
皆さん大なり小なり、専門の周辺知識や周辺分野の経験があったり、人によってはかつての専門から離れた仕事をして、むしろそっちのほうがより詳しくなった、といったこともよく起こりうることでしょう。
「元々は鋳造をやっていたけど、今は熱処理の方が自信あるんだよなー」
「仕事では溶接物の評価がメインだけど、金属の加工技術そのものより分析や材料試験の方が行けそうな気がする」
などのような煮え切らない思いに苛まれることは、金属部門に限らず技術士二次試験を志す人であれば誰しもぶち当たる問題かと思います。
私もまさにそうでした。
この記事では、そのような方のために特に金属部門の選択科目の選び方について解説していきます。
選択科目選びについては、こちらの記事でも解説しています。
参考にしてください。
尚、技術士試験に関しては2019年(令和元年度)以降分について制度改正が行われております。
制度改正に伴い、各技術部門について選択科目の統合等が行われた部門がいくつかあります。
金属部門も選択科目の統合が行われた対象の部門です。
本記事は令和4年に作成しておりますので、もちろん制度改正後の内容を反映しておりますのでご安心ください。
この記事を書いた私も令和2年度試験の合格者ですので、実体験込みでの解説になります。
選択科目の種類と内容(公式内容)
まずは、日本技術士会のHPなどで公式に発表されている各技術部門における選択科目とその内容の一覧を確認していきましょう。
下記のHPより金属部門について抜粋して示していきます。
令和元年度以降(現行制度の)金属部門の選択科目(3つ)
- 金属材料・生産システム
- 表面技術
- 金属加工
金属材料の製造方法、設備及び管理技術並びに構造材料・機能材料等の材料・製品設計、複合化、材料試験、分析、組織観察その他の金属材料に関する事項
めっき、溶射、CVD(化学気相析出法)、PVD(物理蒸着被覆法)、防錆、洗浄、非金属被覆、金属防錆その他の金属の表面技術に関する事項
鋳造、鍛造、塑性加工、溶接接合、熱処理、表面硬化、粉末焼結、微細加工その他の金属加工に関する事項
となっています。
②の「表面技術」と③の「金属加工」のについては、金属関連のお仕事をしている人であれば比較的イメージが掴みやすいかと思います。
しかし、①の「金属材料・生産システム」はちょっと分かりづらいですよね。
ってか範囲広っ!という印象すらありますね。
これは令和元年度の試験制度改正以前からの統合のによるものでもあります。
今一度、新旧対応表をチェックしておきましょう。
以下の表は、日本技術士会で公表している新旧対応表の金属部門に関する抜粋です。
過去問分析
技術士二次試験の過去問題はありがたいことに、直近の過去14年分程度がwebサイトにアップされています。 まずはそちらにアクセスしてみましょう。
.pdf形式ですので、ブラウザから即閲覧できます。
金属部門に関してはこちら。
以下に各選択科目別に年度ごとのキーワードをまとめていきます。
データは多い方がいいのですが、制度改正(令和元年度)以降についてまとめていきます。
制度改正以前(平成30年度以前)も参考になりますので、気になる方は技術士会のHPよりご確認ください。
ただ、試験問題には傾向というものがありますので、古いデータはあくまで参考程度で大丈夫です。
個人的には令和元年度以降のデータをベースに対策する方針で十分だと思います。
ちなみに、技術士二次試験の筆記試験は
- 必須科目Ⅰ(3枚問題)
- 選択科目Ⅱ-1(1枚問題)
- 選択科目Ⅱー2(2枚問題)
- 選択科目Ⅲ(3枚問題)
という構成になっています。
必須科目は、どの選択科目を選択して共通の問題ですので、どの選択科目を選んでも問題は一緒です。
また、選択科目Ⅲは細かい専門知識を直接問うというより、「各選択科目の技術者の観点から、○○について述べよ」という論理展開を求められます。
そのため、選択科目Ⅲでは専門知識の深堀というより、問題解決能力と評価能力を表現するための文章力が求められるということから、どの選択科目を選んだとしてもほぼ同様の対策で十分です。
よって、この章では受験者の皆さんの業務や専門がどの選択科目にマッチしているかという観点で過去問分析を行いますので、
- 選択科目Ⅱ-1
- 選択科目Ⅱ-2
に注目して検討していきます。
尚、必須科目Ⅰおよび選択科目Ⅲ(いわゆる3枚問題)の対策についてはこちらを参照してください。
選択科目Ⅱ-1の分析
技術士二次試験の筆記試験では、大問Ⅰ~Ⅲを通して、7つのコンピテンシーすべてが問われるように構成されています。
そのうち、選択科目Ⅱ-1は「専門的学識」と「コミュニケーション」が問われます。
コンピテンシーについてよく分からない、という方はこちらを見て下さい。
さらに、選択科目Ⅱ-1の全部門共通の概要についてはこちらをご参照ください。
コミュニケーションは、一言で言うと「分かりやすく」記述するということに尽きますし、全科目共通で問われる要素です。
専門的学識は専門知識とも言い換えられます。
選択科目Ⅱ-1はこの専門知識が直接的に問われていますので、ある意味「他の科目以上にごまかしや自分の得意な方向に論理展開することがほぼ無理」です。
それ故、キーワード作成をするなど知識そのものに重点を置いた対策が必須となります。
キーワード集作成については、こちらの記事にまとめています。
コンピテンシーや専門的学識を強化するためのキーワード集作成について理解したところで、実際に出題された過去問から分析しましょう。
日本技術士会のHPには試験制度改正以前も含めて過去10年分以上の過去問の掲載がありますが、本記事では制度改正以降の4年分(令和元年~4年)についてガッツリ分析します。
それではまず、金属部門の全科目の過去問(選択科目Ⅱ-1)よりキーワードを抜き出した一覧表を示します。
問題番号 | ||||
令和元年度 | 【材料設計】二元系合金状態図 全率固溶型、共晶型、包晶反応型、偏晶反応型 |
【製造方法】エリンガム図 酸化物と接合界面、金属精錬プロセス |
【材料試験】引張試験 SS曲線、加工硬化指数、公称と真の違い |
【分析】金属材料の分析 X線、電子、中性子を用いた測定法 |
令和2年度 | 【製造方法】化学ポテンシャル図の活用 硫化鉱(銅)、クロール法(チタン)、鉄鋼(浸炭)、チタン合金(表面窒化) |
【材料設計】金属材料の強化方法 転位論と実現プロセス |
【材料設計】構造材料 鉄鋼材料、アルミニウム合金、チタン合金、マグネシウム合金、ニッケル基合金 |
【その他】レアメタル レアメタルが材料中で果たす役割と代替元素 |
令和3年度 | 【製造方法】金属材料の製造プロセスにおける反応の律速段階 見掛けの反応速度を増大する方法 |
【その他】金属材料の脆性破壊と延性破壊 低温脆性と遅れ破壊感受性の定量評価法 |
【材料設計】合金の電気伝導度 影響を与える因子と電気伝導度改善方法 |
【その他】結晶構造と化学組成 測定法の原理と特徴 |
令和4年度 | 【製造方法】鋳造・圧延による薄板製造 溶融金属中の非金属介在物の低減法 |
【その他】疲労破壊と高温クリープ破壊 機構・評価方法・対策 |
【材料設計】金属の水素貯蔵への活用 水素吸蔵合金 or 貯蔵容器材料 より高効率な水素貯蔵の材料設計指針 |
【材料設計】2元系共晶反応型状態図 亜共晶組成の冷却過程における凝固開始直後、共晶温度直前、共晶温度直後の組織図示 |
問題番号 | ||||
令和元年度 | 【CVD, PVD】真空技術を用いた成膜法 | 【その他】多層膜の特性の計測技術 | 【防食技術, その他】陽極酸化法(Ti及びAl) | 【その他】フェライト系ステンレス鋼の耐食性 |
令和2年度 | 【PVD】PVD(物理蒸着被膜法) 成膜原理と利点・留意点 |
【めっき】電気めっき 原理・特徴・留意点 |
【防食技術】流電陽極方式による電気防食技術(海水中の塗装鋼材が対象) 特徴・留意点 |
【その他】腐食促進試験法 手順・内容・留意点 |
令和3年度 | 【溶射】耐熱被膜の溶射法 原理・特徴・注意点 |
【その他】金属材料の表面分析 原理・特徴・注意点 |
【めっき】無電解めっき 原理・特徴・注意点 |
【その他】大気中での腐食環境 3つの分類と特徴 |
令和4年度 | 【PVD, CVD】真空を利用した表面改質技術 原理・特徴・注意点 |
【めっき】金属表面への亜鉛被覆法 原理・特徴 |
【その他】ステンレス鋼の電解研磨 原理・特徴・注意点 |
【その他】ステンレス鋼の分類(フェライト系、オーステナイト系、マルテンサイト系) 耐食性の特徴 |
問題番号 | ||||
令和元年度 | 【溶接】マグ(MAG)溶接 | 【鋳造】鋳造法(ダイカスト法、ロストワックス法、消失模型法(フルモールド法)、シェルモールド法) | 【塑性加工】塑性加工の駆動力 液圧プレス、機械プレス |
【粉末焼結】金属粉末の製造方法 |
令和2年度 | 【塑性加工】塑性加工 一次加工と二次加工 |
【溶接】炭素鋼の溶接 熱影響部における炭素量と機械的性質・溶接性(割れ・欠陥の出やすさ)の関係 低温割れ防止策としての予熱のメカニズム |
【鋳造】鋳鉄の製造条件と分類 ねずみ鋳鉄・白銑鉄の成分と製造条件および強度向上方法 |
【その他】金属射出成型(MIM: Metal Injection Molding) 概説・利点・欠点 |
令和3年度 | 【溶接】タック溶接(仮付け) 施工上の留意点 |
【鋳造】遠心鋳造法 特徴(回転軸と鋳型の材質の面から) |
【塑性加工】塑性加工によって作られる鋼管 継ぎ目有り・無しの特徴(製造方法・用途・寸法などの観点) |
【粉末焼結】粉末冶金 粉末の混合から完成品までの工程および長所・短所 |
令和4年度 | 【熱処理】鋼の熱処理 焼入れ、焼戻し、加工熱処理技術、変態温度 |
【溶接】疲労の概説と溶接構造物の疲労強度改善 継手設計上の留意点・施工面の対策 |
【塑性加工】塑性加工における潤滑の役割 鍛造工程での潤滑技術の概説と課題 |
【その他. 粉末焼結】パウダーベッド方式3Dプリンティング 原理・特徴 |
この表における【赤字】部分は、日本技術士会が選択科目の内容を説明する際に使用しているキーワードになります。
選択科目が大分類、とすると【赤字】の内容は中分類と言えます。
この【赤字】で示したキーワードをベースにマインドマップを作成すると、このようになります。
PCで見ている場合は、「右クリック → 画像を開く」、スマホで見ている場合は、「長押しタップ → 画像を開く」で図を拡大してご覧ください。
まずは全体をざっくり俯瞰して、得意そうなキーワードが集中した科目など確認頂けると思います。
こうして見ると、「金属」という学問・産業上の技術分野に対して、包括的にカバーしていることが分かりますね。
とても一人の技術者・研究者がこれらの全てに精通していると言えるようなものではありませんし、技術士試験と言えどもそこまで求めていません。
自身の専門領域・業務経験を踏まえて適切に選択科目を選ぶ必要があります。
いずれの選択科目も共通して、下記の3つの軸から見てみると整理しやすいです。
- 製造方法
- 特性
- 評価方法
科目によりどの軸に重点が置かれているかなどは傾向がありますが、多かれ少なかれ上記の3つの軸を持っていると理解が進みます。
金属材料・金属製品を取り巻く「エンジニアリングチェーンをイメージし、その各工程のどこに重点を置いて問いが設定されているか」と捉えると分かりやすと思います。
エンジニアリングチェーンについてはこちらで解説。
選択科目Ⅱ-2の分析
技術士二次試験の筆記試験では、大問Ⅰ~Ⅲを通して、7つのコンピテンシーすべてが問われるように構成されています。
そのうち、選択科目Ⅱ-2は「専門的学識」と「コミュニケーション」に加え、「マネジメント」と「リーダーシップ」が問われる点が特徴です。
コンピテンシーについて詳しく知りたい方はこちら
さらに、選択科目Ⅱ-2の全部門共通の概要についてはこちらをご参照ください。
それでは、金属部門の全科目の過去問(選択科目Ⅱ-2)よりキーワードを抜き出した一覧表を示します。
問題番号 | ||
令和元年度 | 【製造方法】溶解圧延とプレス加工工程の割れ | 【その他】金属材料産業の国際競争力強化 |
令和2年度 | 【製造方法】金属薄板(溶解から最終製品まで一貫生産)とBCPによる別工場での製造 | 【材料設計】AI(機械学習、深層学習等)・計算科学(計算状態図、第一原理計算等)と構造材料または機能材料 |
令和3年度 | 【製造方法】金属材料の薄板製造プロセス 造塊法から連続鋳造法への移行(鋳造・圧延・熱処理) |
【その他】金属材料新商品開発プロジェクト 保有技術の異なる開発拠点の連携 |
令和4年度 | 【材料設計】成分設計を含めた金属材料の開発 自動車車体の軽量化と衝突安全性の両立 |
【その他】輸送機器に含まれる鉄・アルミ・銅の再生プロジェクト(資源循環・資源確保のため) |
問題番号 | ||
令和元年度 | 【CVD】DLC(ダイヤモンドライクカーボン) | 【めっき】湿式めっき(基板の配線微細化) |
令和2年度 | 【溶射】溶射 設備の長寿命化・耐熱性 |
【【防食】塗装された鋼道路橋の補修 亜熱帯・海浜地域での腐食劣化 |
令和3年度 | 【めっき】プリント基板の銅めっき 欠陥の原因と対策 |
【その他】ステンレス鋼 配管の腐食と漏水・補修 |
令和4年度 | 【溶射】溶射による低摩擦コーティング 高効率化のための自動車エンジンのシリンダー内壁 |
【その他】太陽光パネルの架台 材料選定から設置まで |
問題番号 | ||
令和元年度 | 【溶接】鋼溶接構造物の補修溶接とWPS | 【その他】軟鋼製品からの軽量化と高強度化 |
令和2年度 | 【塑性加工・熱処理】熱間鍛造・冷間鍛造・熱処理 棒材・ビレットからの成形、表面傷がない平滑性が高い表面性状 |
【溶接】現地溶接施工 プラントの据え付け工事・安全対策 |
令和3年度 | 【溶接】溶接構造物製造における生産性向上活動 大規模な設備投資、材質・形状・寸法の大幅な変更できない |
【鋳造・塑性加工】鋳造や鍛造等による金属製品 強度が低いとの顧客クレーム対応 |
令和4年度 | 【鋳造】鋳造からの新技術導入 形状の緻密化・複雑化による欠陥の発生 |
【溶接】溶接施工要領書(WPS)を含む製造計画書 鉄鋼材料の溶接の施工法・要員・資格・検査・品質記録 |
この表における【赤字】部分は、日本技術士会が選択科目の内容を説明する際に使用しているキーワードになります。
選択科目が大分類、とすると【赤字】の内容は中分類と言えます。
中分類のさらに細かい要素技術的な中身については、前章の選択科目のⅡ-1で見てきた通りです。
選択科目Ⅱ-2の出題形式の特徴は、何といっても「2問あるうちから1問選ぶ」」という点です。
そうです、2問からしか選べないのです。
各選択科目において、中分類と設定した内容は5~6つです。
例えば、選択科目「金属材料・生産システム」(大分類)の内容(中分類)は
- 製造方法
- 材料設計
- 材料試験
- 分析測定
- その他
といった具合になります。
ここからいずれかの内容にかかわる分野から2題出題されて、1題のみ選ぶということになります。
どれか1つの内容の分野に精通していたとしても、その分野が出題される2題の中に入らないという可能性は十分あるという事になります。
合格率を上げるためにはしっかりと作戦を練る必要があります。
出題傾向をしっかり分析して対策することはもちろん、1つの分野だけではなく複数の分野で対応できるようにしておくことが重要です。
いくら特定の分野にはとても詳しく、仕事上でも業績を上げていても、知っていることが出題されないのでは元も子もありませんからね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
技術士(金属部門)の選択科目の選び方について概要を解説しました。
要点をまとめると以下の通りです。
- はじめに
- 選択科目の種類と内容
- 過去問分析
- 選択科目Ⅱ-1の分析
- 選択科目Ⅱ-2の分析
令和元年度に試験制度改正がありました。
科目の統合等の影響を加味して、過去問分析することが重要です。
金属部門の選択科目は、令和元年度の試験制度改正以降「金属材料・生産システム」「表面技術」「金属加工」の3つです。
過去問をしっかり分析した上で、ご自身に合った科目を選びましょう。
選択科目は筆記試験のうち選択科目Ⅱ-1, Ⅱ-2、Ⅲの3つの大問に影響します。
そのうち、特に選択科目Ⅱ-1とⅡ-2は科目選びをミスすると厳しいので、特に過去問チェックの重要度が高いです。
選択科目Ⅱ-1はコンピテンシーのうち「専門的学識」と「コミュニケーション」が問われ、専門知識が占める割合が非常に大きいです。
①製造方法、②特性、③評価方法の3つの軸で過去問を分析し自身の得意な分野を設定しましょう。
選択科目Ⅱ-2はコンピテンシーのうち「専門的学識」、「マネジメント」、「リーダーシップ」および「コミュニケーション」が問われます。
やはり、専門知識をベースにストーリーを組み立てる論理構成になりますので、2題出題されるうち、確実に1題をものにできる対策が必要です。
まとめは以上です。
本記事では、技術士二次試験(金属部門)の選択科目の選び方・過去問分析の概要を解説しました。
各選択科目ごとの詳細な分析について、別の記事で解説していきますのでそちらもぜひ、ご覧ください!
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